07 選任手続期日4 評議室
「以上で、裁判員選任手続を終了します」
裁判長のこの一言で、検察官と弁護人は起立して礼をし、部屋から出て行った。
裁判員6名と補充裁判員1名は裁判官とともに部屋に残った。そして裁判長が言った。
「プライバシーなどの問題もあるので、これから、皆さんのことは番号で、お座りの順に、裁判員1番さん、2番さん、3番さん、4番さん、5番さん、6番さんとお呼びします。今回の事件では補充裁判員はお1人なので、補充裁判員さんとお呼びします」
私のここでの名前は、「1番さん」になった。
単に選任された裁判員の中で、候補者番号が一番小さかったからだ。番号で呼ばれるというのはなかなか不思議な感じだ。が、たしかに珍しい名字の人だとどこの誰だか一発で特定できてしまったりするのだろうから、仕方ないのだろう。
続いて、一番若い左陪席の裁判官が言った。
「それでは、裁判員と補充裁判員の皆さんを評議室にご案内します。評議室は、来週から皆さんの控え室になるとともに、事件について評議をする部屋です。こちらへどうぞ」
その裁判官の誘導に従って、入ってきたのとは違うドアから廊下に出て、エレベーターに乗った。
エレベーターを降りて、ドアが並んでいる廊下を進み、3つ目のドアを開けると、明るい色合いの、中央を囲むように机が配置された部屋があった。ここが、来週通う部屋らしい。左陪席の裁判官が部屋の説明をはじめた。
「この真ん中の机を囲んで評議をします。座り順は、こちらから1番、2番、私、3番、4番、裁判長、5番、6番、裁判官、補充裁判員、となります」
「部屋には冷蔵庫があるので、持ってきたお弁当や飲み物を冷やすために自由にお使いください。冷蔵庫の天板の上にはアルコール消毒スプレーがあります。気になる方は、取っ手に触る前後にお使いください」
「部屋の奥にはソファースペースとロッカーがあります。皆さんが法廷に行くときはこの部屋は施錠しますが、貴重品は念のためロッカーに入れてください。ロッカーの使い方はこちらです。キーナンバーを自分で設定するタイプなので、番号を忘れないようにしてください」
なんとも無駄のない説明だけど、日常的な内容なので理解は追いついている。この説明が終わると、裁判長が言った。
「今日は法廷での審理はありませんが、来週皆さんに入っていただく法廷に実際に見ていただきたいと思います。ついでに法廷への入り方などもリハーサルしておきましょう」
「でもその前に、お手洗いに行っておきたい方もいるかもしれないので、ここで10分休憩にします。お手洗いの場所は、これから左陪席裁判官が案内するので、皆さんこの機会に場所を覚えておいてください」
なるほど。
「法廷に行くときは、先ほどのご説明にあったように、部屋は施錠します。ただ、念のため貴重品はロッカーにお願いします」
「また、携帯電話は法廷に持って行かないようお願いします。完全に音が出ないモードなら持っていて悪いということはないのですが、法廷の段の上で携帯電話を見ることは実際上できません。審理に集中していただくためにも、ロッカーに入れていくようお願いしています。もちろん裁判官3人も、法廷に携帯電話は持って行きません」
ということで、ロッカーの使い方を実際に試してみる趣旨も含めて、財布やスマホが入ったバッグをロッカーに入れた。全員の準備が整ったところで、裁判長を先頭に評議室を出る。一番後ろには、先ほど部屋の設備を説明した若い裁判官がいて、全員が出たところで鍵をかける。そして言った。
「みなさんの評議室は、『評議室2』という部屋です。この廊下には似たような扉がずらっと並んでいますが、部屋によって表札の色が違います。評議室2の色は、オレンジです。オレンジ色の表札の部屋に入るようにしてください」
たしかにこの廊下、何の飾り気もない上に、内廊下なので外の景色も見えない。そして、全く同じデザインの扉が並んでいて、「評議室1」「評議室2」と部屋の番号が書いてある表札があるだけだ。ただ、表札だけは部屋によって色が違って、評議室1は緑、評議室3は青だった。本州のJRと同じ色の並びだ。真ん中、オレンジオレンジ、と覚えた。
裏通路からエレベーターに乗って、法廷の後ろ側、裁判官が入る扉の前まで来た。ここで、法廷への入り方が、裁判長からレクチャーされた。
「法廷の裏まで来たら、まず私が1人で法廷の中に入って、準備ができているか確認します。問題がなければ何もしませんので、1分経ったところで、皆さんに入ってきてもらいます。並び順などは、左陪席の裁判官が説明します」
左陪席の裁判官が説明する。
「では、裁判員の皆さん、前から順に、1、2、3、6、5、4、補充裁判員の順番で並んでください。右陪席の裁判官が一番前につきます。私は最後尾で、殿につきます」
「右陪席の裁判官が法廷のドアを開けて、順番に法廷に入っていきますが、1番、2番、3番のお3方は、向かって右側に進んでください。一番奥が1番さん、次が2番さん、3番目が3番さん、3番さんの左隣が右陪席裁判官になります」
「その後ろの皆さんは、向かって左に進みます。奥から順に、6番さん、5番さん、4番さんです。補充裁判員の方は、5番さんの後ろに机があるので、そちらに行ってください」
「私は皆さんが入った後、ドアに鍵をかけて、4番さんの右側に行きます」
「全員がそろったあとで、裁判長が左右を見て一礼するので、あわせて一礼していただくと綺麗です。一礼したあと、ご自身の席に着席いただきます」
なんだか複雑だ。
要するに法廷では、裁判長からみて一番右側から順に1、2、3番の裁判員が並び、一番左側から順に6、5、4番の裁判員が並ぶことで、綺麗に順番に並んだことになる、ということらしい。
そんな細かいことまで決まっているのか、と思った。
この作品はフィクションです。2023年時点での日本の法制度を前提にはしていますが、登場する国名や地名、会社名などは全て架空のものであり、扱う事件も実在のものではありません。




