23 第2回公判期日5 被告人質問4
そんな昼休みを終えて、午後は検察官の質問に移る。裁判長が宣言する。
「再開します。午後は被告人質問の続きを行います。被告人は証言台の椅子に座ってください」
「では検察官、質問をどうぞ」
3人いる検察官のうち1人が立ち上がり、質問を始める。
「検察官の甲林から質問します」
検察官の質問は、下着の中身が覚醒剤だと知っていたのかどうか、という点からはじまる。
「あなたが入国時に身につけていた下着について聞きます。これを身につけているときに、じゃらじゃらした感じがした、そう言っていましたね」
「はい」
「実際に発見されたような結晶が入っているなんて思っていなかった、と言っていましたね」
「はい」
「一方で、あなたの国には錠剤型の違法薬物がある、という話もしていましたね」
「はい」
「とすると、この下着の中のじゃらじゃらした感じのものが、結晶なのか錠剤型なのかはともかく、違法な薬物かもしれない、ということを感じたことはないのですか」
「薄々ですが、そういう、違法な薬物かもしれないという感じはしました」
「それは、どうしてそう思ったのですか」
「重さからして銃の弾のようなものではないし、触感からして偽札のようなものでもないし・・・こうやって無理矢理運ばせるようなじゃらじゃらした感じのものというと、やっぱり違法な薬物の可能性はあると思ったのです」
「ところで、あなたは、覚醒剤、メタンフェタミン、という違法薬物を知ってますか」
「いいえ。その名前の薬物については、よく知りません」
「弁護人の質問の中で、バーヤーという錠剤型の薬物の話が出てきましたが、この錠剤の中に覚醒剤が混ぜられていることがある、ということを聞いたことはありませんか」
「いいえ。成分が何なのかは、全然知りません」
この後検察官は、一通りの経緯を確認していった。午前中と同じストーリーの流れだが、ところどころ視点というか力点が違う感じだろうか。被告人が脅されたと言っている場面は、ストップモーションのように細かく人物の動きを質問していた。たとえば、空港の出国シーンは次のような感じだ。
「下着を身につけさせられたというときのことについて聞いていきます。まず前提として、あなたは飛行機に乗るのも、外国に出国するのも、はじめてということでしたね」
「はい」
「そういう初めての体験で、自分が乗る飛行機の搭乗口に行かなければいけない、相当緊張していたのではないですか」
「はい」
「そういう緊張感のある場面ですから、間違いなく搭乗口にたどり着くように意識して行動していますよね」
「はい」
「つまり、その場面のことはよく覚えていると理解してよいですか」
「はい」
「空港は、出国後のエリアも広いですよね」
「はい」
「出国審査の後、右に行くのか、左に行くのか、何か確認したのではないですか」
「はい」
「どうやって確認しましたか」
「出国審査を抜けた後に大きなモニターがあって、出発する飛行機が一覧になっているので、そこで搭乗口の番号が表示されていました。そのモニターの横に、何番から何番の搭乗口は右、何番から何番の搭乗口は左、といった表示がありました」
「出国検査の後、まずはそのモニターなどを確認したということですか」
「はい」
「とすると、あなたの言う黒いTシャツを着た男2人と会ったのは、その後なのですか」
「いえ、私がモニターを見ているときに、男2人が話しかけてきました」
「その男2人とは、一言二言話をしただけではなくて、その後脅されたりしたのですよね」
「はい」
「あなたにとっては印象的なできごとだったと理解してよいですか」
「はい」
「その2人の服装なのですが、黒いTシャツというのは無地でしたか、それとも何かのロゴとか、柄とかがありましたか」
「そこまでは覚えていません」
「下半身はどうでしたか。長ズボンだったか、半ズボンだったか、スカートだったか、覚えていますか」
「いいえ。覚えていません」
「では、丈ではなく素材、ジーンズだったか、綿だったか、スーツのような生地だったか、それ以外か、というのはどうですか」
「覚えていません」
「では、その2人が何か荷物を持っていたかどうか、覚えていますか」
「分かりません」
「2人の男に乱暴に手をつかまれて、建物の端の方に連れていかれた、ということでしたね」
「はい」
「この、建物の端の方というのは、どういう意味ですか。広い空港の右の端や左の端ということなのか、それとも単に壁際ということなのか、どういう場所につれて行かれたのですか」
「壁際です。近くにトイレがあるところで、少し奥まったスペースがあったのです」
「そこにつれて行かれる最初の地点というのは、先ほど話があった搭乗口などを案内するモニターがあるところなわけですか」
「はい」
「出国検査を終えた人が全員通る、その場所ですか」
「はい」
「そんなところで無理矢理手を掴まれたら、相当目立つんじゃないですか」
「いえ、手を掴まれる前に声をかけられて、少し普通に話をしているような感じだったので、無理矢理何かをしているようには見えなかったのではないかと思います」
「その後、観光案内の大きな看板の陰で脅されて、下着を身につけさせられたという場面がありますね」
「はい」
「その場面のことを聞きます。2人の男のうち1人に腹を殴られたといっていましたね」
「はい」
「あなたの話では、トムとジャックと名乗る2人の男がいたということですが、あなたを殴ったのは、トムですか、ジャックですか」
「よく覚えていませんが、ジャックだったと思います」
「では、ジャックがあなたのことを殴ったとき、トムはどこにいたのですか」
「看板の横で、こちらを見ている人がいないか見張っていたと思います」
「そのあと羽交い締めにされて腹巻のような下着を服の下に身につけさせられた、ということですね」
「はい」
「羽交い締めにしたのは、トムなのですか、ジャックなのですか」
「これも、ジャックだったと思います」
「下着を身につけさせたのは誰ですか」
「ジャックが押さえていたから・・・トムだと思います」
「どうやって服の下に身につけさせるのですか」
「羽交い締めの状態で両手をまっすぐ上に上げられて、こんな風に・・・」
被告人は証言台でバンザイをするような姿勢をした。その様子を見ながら検察官が続ける。
「今のあなたの動作を言葉で表現すると、日本語だとバンザイをするような姿勢ですね。羽交い締めにしている方の男があなたの腕を上の方に上げたわけですか」
「はい」
「それで、どうやって下着を身につけさせられるのですか」
「ジャックが私の後ろから手を掴んでいて、トムが私に向き合うような形で上から腹巻きのような下着を下ろしてきて、腰のところまで下ろして、それで私のシャツの中に着せました」
この作品はフィクションです。2023年時点での日本の法制度を前提にはしていますが、登場する国名や地名、会社名などは全て架空のものであり、扱う事件も実在のものではありません。




