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21 第2回公判期日3 被告人質問3

被告人の話は、さらに続く。


「その腹巻きのようなものは、実際に身に着けてみると、変な感じでした。布地にしては妙に分厚くて、お腹を曲げてかがもうとすると、なんだかジャラジャラした固形物の感覚が肌に当たるのです。何かが入っている、そう思いました。」

「飛行機の中で席に座ったとき、特にそう思いました。でも、この下着を脱いで、これを持たないで日本に行ったら親兄弟に危害を加えられるかもしれないと思い、結局そのまま、これを身に着けた状態で飛行機に乗り、成丹に着いた飛行機を降りたのです」

「飛行機が日本に近づくと、日本の入国に関する書類が配られました。英語の書類でした。私はほとんど英語が分からないので、宿の主人に渡された紙を見ながら、そこに書かれているとおりに書きました」

「日本に着いた飛行機から降りると、聞いていた入国審査の前にたくさん係の人がいて、コロナのアプリの話をしていました。私は宿の主人に言われたことを思い出してスマホのアプリを見せました。そうすると、係の人は”Thank you”といって、そのまま進むように言いました」

「入国審査でパスポートを出すと、審査官はパスポートをめくって確認した後で、”Why do you come to Japan?”と聞きました。この質問は必ず聞かれる質問として宿の主人に聞いていたので、太平洋国際大学のイベントに出席するのだ、と英語で答えました」

「ただ、その答え方がたどたどしかったのか、さらに色々質問されました。でも、私はそんなに英語ができるわけではなくて、内容を理解できない質問もあって、答えに詰まってしまいました。そうしているうちに、別室に行くことになりました」

「そして、別室で荷物の検査が行われることになりました。スーツケースには自分が入れた衣類などしか入っていませんでしたが、ボディチェックでは何かが入れられた下着が見つかってしまいました」

「それが何か良くないものだということは分かっていたので、あぁ、これでお終いだと思いました。その下着の縫い目をほどくと、白い結晶が入ったポリ袋が入っていました。『あぁ、ドラッグ・・・』私はつぶやいて、気が付いたら、床に手をついていました」


弁護人が問答する。


「今、『あぁ、ドラッグ・・・』という発言がありましたが、これは、何語で話したものですか」


「そのときのことははっきりとは覚えていませんが、ベオボマの言葉が口をついたのだと思います。ベオボマは、イギリスの植民地でした。なので、難しい単語は、英語がそのまま入ってきています。そういう単語と、伝統的なベオボマの言葉が、私の頭の中には混じっています」


「つまり、『ドラッグ』と発言したからといって、相手に伝えるためにきちんと英語を話そうと思っていたというわけではない、ということですね」


「そうです。この『ドラッグ』という言葉は、とっさのもので、英語を喋ったという認識はありません」


「生まれ育った村で、例えば箱に入った荷物から違法薬物が出てきたというような場合でも、同じように『ドラッグ』というのですか」


「はい。ベオボマ語には『ドラッグ』以外に薬物を表す言葉はありません。そもそも古い伝統では、薬というもの自体がベオボマにはないのです。あるのは、『祈り』とか、『まじない』とか、そういうものです。なので、合法なものも違法なものも、飲んで効果があるものは、全部『ドラッグ』です」


「薬草を干したものとか、煎じたものとか、そういう薬もベオボマの民族にはなかったのですか」


「薬草を使うことはあります。でもそれは、いつも『まじない』とセットで使うので、薬草を単体で薬として使うことはほぼなかったのです」


「だからそれに対応する言葉がなくて、英単語を借りている状態ということですか」


「はい。今は色々外から入ってきていますが、ベオボマ語にはそれをうまく表現する言葉がないので、『ドラッグ』という言葉がいろいろな場面で使われています」


「それより前から、その下着の中に『なんだかジャラジャラした固形物』が縫い込まれていることは分かっていたのですよね」


「はい」


「その中に入っているのはなんだと思っていたのですか」


「はっきりと何なのかは、分かっていませんでした。見ていなかったので」


「でも、脅された挙句に下着の中に隠されていた、ジャラジャラしたものということになると、こういうものかもしれない、ああいうものかもしれない、ということで思っていたこともあるのではないですか」


「考えてはいました。ただ、私は今回出てきたような透明の結晶の薬物というのを、実際に見たことはなかったんです。私の国にも違法な薬物はありますが、それはだいたい、錠剤タイプです。なので、こんな結晶が入っているなんて、思っていなかったんです」


「あなたの国での錠剤型の薬物というと、どういうものがあるのですか」


「正式な名称は知りませんが、バーヤー、というような名前のものが流通していると聞いています。ピンク色や黄緑色の錠剤です」


「このときのあなたの服装について質問します。あなたはどのような服を着ていましたか」


「長袖のTシャツに、ジーンズでした」


「この裁判では、あなたを撮影した写真が証拠になっているのですが、そのときのあなたを撮影した写真かどうか、確認できますか」


「はい」


昨日証拠に出てきた、被告人が空港の検査のときに撮影されたという写真がモニターに映った。


「この写真に写っているのが誰か、分かりますか」


「私です」


「いつ撮られた写真かわかりますか」


「日本の空港で、検査を受けた時です」


「Tシャツとジーンズを着ていますが、この上に、セーターや、ジャケット、コートは着ていなかったのですか」


「着ていませんでした。この写真そのままの格好です」


写真を示した質問は終わった。


この後弁護人は、被告人にこの先どうやって生きていくのかを質問した。日本に縁があるわけではないので帰国して生活していくこと、自分の意思で再び日本を訪れるつもりはないことなどの話があり、弁護側の質問は終わった。

この作品はフィクションです。2023年時点での日本の法制度を前提にはしていますが、登場する国名や地名、会社名などは全て架空のものであり、扱う事件も実在のものではありません。

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