アイドルとファン
ちょっとした仕事の出張で兵庫県にやってきた。
仕事も早く終わりランチを食べる為になにげ無しに入ったファミレス。隣の席からどこかで聞いた事のある声が聞こえる。僕は思いきって彼女たちに声を掛けた。「ひょっとして、白粉こなちゃんですか?」
彼女は少し驚いた後にそうだと言ってくれた。
僕はファンでライブ動画をかかさず観に来てる事とリスナー名を伝えた。その日の内に地元に戻るとTwitterに1通のDMが……こなちゃんからだった。飛び上がらんばかりに喜んだ。それからTwitterのDMでのやり取りが始まり、いつしかLINEでのやり取りに変わっていく。アイドルとファンと言うには少し歪な関係が続いていたある日、彼女から珍しく音声通話が…電話の向こうの彼女は泣いていた。僕は直ぐに部屋を飛び出し彼女の元へ。彼女の涙声を聞いた後では300㎞の距離など無いに等しい。高速を飛ばして兵庫に着いた俺は、初めて出会ったファミレスで待ち合わせをした。色んな話を聞いた、仕事でうまく行かなかった事。友人関係がうまくいってない事。想いの全てを吐き出した彼女は、少しだけスッキリとした顔をしていた。「もう大丈夫そうだね」そういって席を立ち、お店から出ようとした俺の背中に、こなちゃんが抱きついてきた……「今日はもう帰りたくない」俺だって大人の男だ、彼女の言わんとしてる事など百も承知だ。俺は彼女に向き直り、彼女の肩を両手で掴み。「ダメだよそんな事を言っちゃ、君は俺たちファンに夢を与えてくれる存在なんだ。この一線は越えちゃいけない」そういって俺は店を飛び出した。帰りの車の中で聞く彼女の歌声に少しだけ後悔を残しつつ。