放鳥どころか仲間が迎えに来たらしい
ぷああああああん。
青年――ヤスミンは下手くそなラッパ音を聞くとはっと意識を取り戻し、今までぼんやりと思い返していた過去、ほんの数日前の出来事を追い払うようにして頭を掻いた。
「なあに、また緊急事態?それともあのお知らせ合図が楽しくなっちゃっただけなのかな?」
町や村々をパトロールさせている青年達に、彼はラッパを持たせている。
最初に彼が鳴らして見せた事で青年達は興味を示し、ラッパを持ちたいと希望した青年達数人が、緊急事態を知らせる以外に彼がして見せた様にして曲を奏でようと練習していることも彼は知っている。
そこでヤスミンは、彼が近くにいる時は演奏の練習を軽く見てやるようになったのだが、青年達はそれを良い事にヤスミンを呼び寄せるためにラッパを鳴らすようになってしまったのである。
「好かれているのはありがたいが、俺が犬になった気分だな。」
当のヤスミンの犬は、下手なラッパの音を聞くのがウンザリなのか、青年団の足首を隙あらば噛もうとするようになってしまった。
さて、ヤスミンがラッパの音がした方へと向かうと、青年団の三人が見慣れない青年を捕えている現場がそこにあった。
「わお、本当の緊急事態か!」
青年団の三人がいきり立っているのは、彼らそれぞれの頬や口元にかすり傷が見受けられ、見慣れない青年が外見からは考えられないぐらいに手強かったからであろうとヤスミンは推測した。
また、後ろ手に捉えられている青年に傷一つないことで、青年団は殴られた仕返しをしたくとも、我慢をして堪えているのだろう事も想像に難くなかった。
囚われの青年は、ひと目で貴族と見做す事が出来るのであれば、捕らえる時に自分達が怪我を負っても負わせてはいけないという理性が働いたに違いない。
「偉いな。すっごく偉いし、男前だよ、お前ら!」
三人の青年は、自分達のボスの褒め言葉を聞くや、一斉ににへらと嬉しそうに顔を緩めた。
しかし、捕えられている金色の髪に青い海のような瞳をした、どこから見ても王子様にしか見えない美丈夫は、当り前だがそんな顔などするはずなどない。
彼はヤスミンがボスであると一目でわかったらしく、憎々し気な目をヤスミンに向けてきたのである。
「療養中の老女だと嘘を吐いて僕のマルファを誘拐したのはお前か?」
ヤスミンは笑みを大きくすると、三人の部下に連れていけと命令を下した。
「傷はつけるな。俺も尋問のためにすぐに行く。」
部下達は何の疑いもなく、ヤスミンの行動に従って青年を縛り出した。
青年が連れていかれるのは、クラルティ周辺の村々の男達、自警団達には元牧師館というあだ名で親しまれているアジトだ。
そこは、ヤスミンが先日ガルーシとリューイを嬲った、もと差配人の館である。
789:イッチ 2021/05/27/11:45(木)ID:???
俺はやってはいけないことをしました
800:ワカケさん 2021/05/27/11:45(木)ID:???
言ってみろ、イッチ。
801:イッチ 2021/05/27/11:45(木)ID:???
俺のヒナに迎えが着ました
オスやろうが
802:ワカケさん 2021/05/27/11:45(木)ID:???
イッチさん?
もしもし?
野生生物に手を出したのですか?
803:イッチ 2021/05/27/11:45(木)ID:???
捕まえただけです。
俺のヒナに見合う奴か見極めてやろうと思いましてね。
804:ワカケさん 2021/05/27/11:45(木)ID:???
イッチ!
そんなんしちゃだめえええええ!
青年は頭を振って自分の頭から妖精を振り払った。
もしかしたら自分の良心なのかもしれないと思いながら。
だが、彼が守ろうと決意した少女であり、彼の亡き妻、そこにいもしない霊に向かって敬意を表してくれた少女ならばこそ、ろくでもない貴族野郎に手渡してなるべきかという気持ちなのである。
「僕のマルファ?俺のヒヨコだ!」




