五月十二日(水)の序章
異世界恋愛で現在書いているものがありまして、内容がリンクしているかもしれませんが、別物、という風に捉えてください。
また、馬シリーズお読みになって下さる方、ありがとうございます。
青年は痛む頭を抱えながらベッドから身を起こした。
玄関をノックする音が彼を眠りから無理矢理覚ましたのである。
古巣に半月前に帰って来た彼は、古巣に以前の支配者であったならず者の影があることを知った。
そこで彼は周辺の若者を集めて自警団なるものを作り上げて、日夜周辺の安全のために駆けずりまわっている毎日であったのだ。
そんな情勢の中必死に彼の家のドアを叩く者がいるというのならば、それは彼に助けを求めているに違いないのである。
彼はのっそりとベッドから起き上がると、枕の下に隠している小型のリボルバーをパンツの腰に差し込み、床に落ちているシャツを拾って体に羽織った。
「ああ、臭せぇ。自分が臭くてたまらねえ。」
顔も洗っていないがと彼は手で簡単に顔を拭い、そのままよろよろと部屋の外へと歩き出した。
「ハハハ、寝起きだと本気で足が動かねえな。」
彼の右足は以前のようには動きはしない。
敵の銃弾が彼の膝近くを撃ち抜いたからだ。
それでも彼が生き残っているのは、彼の脚を貫通した銃弾を腹に受けても戦地を駆け抜けてくれた愛馬がいてこそだった。
いや、彼を必ず生かそうと、彼の愛馬の尻を叩いて、彼を無理矢理に戦線離脱させた親友がいたからだろう。
彼の盾になって全身を撃ち抜かれて死んでしまった親友が。
「畜生。」
彼はもう一度顔を乱暴に拭った。
今度は水気があるからさっきよりも顔がキレイになったはずだと、彼は自分に嘯きながら、玄関ドアを必死に叩いて彼を呼ぶ人物の為に足を動かした。
しかし、ドアを必死に叩いている癖に、自分の名前を呼ぶ声が一つも無いのは何故だろうと、彼は訝ってもいた。
そしてかなり警戒しながらも、思いっ切りドアを開いた。
「誰だ?」
彼は目にしたものに呆気に取られていた。
ミルクを入れ過ぎて紅茶の色が薄まり過ぎた、柔らかで温かなベージュ色に煌く長い髪はフワフワと揺れ、自分を必死に見つめる瞳は芽吹いたばかりの春の若葉色をしている。
脅えに軽くわなないている唇は、白桃を思わせる可愛いピンクだ!
つまり、彼の家の玄関前には、美味しそうな美少女が立っていたのだ。
だがしかし、彼の目にはこの少女の美しさよりも、この少女の逼迫した人生の重さばかりが見えていた。
女の子は彼と目が合うと、新聞紙を彼に掲げて見せた。
そこには以前に彼が広告に出したもの、愛人募集の文字が躍っていた。
「この広告にある老婦人の話し相手として雇って頂きに来たの。この方の住所をご存じでしたら教えてください!」
彼は恥ずかしながら広告主は自分だと答え、ただし、年端も行かぬ少女の為に愛人募集広告ではなく結婚相手を求める広告だったと嘘は吐いた。
すると、仕事が無ければ死んでしまうと少女の両目からは涙が零れだし、ご飯だって昨日から食べていないと言うや、彼女は天に向かってうわーんと声を上げて泣き出してしまったのである。
いや、彼女が本格的に泣き出したのは、彼が自分の汚いシャツの裾で彼女の涙を咄嗟に拭いてしまったからか?
どうしよう!
女を泣かせたことはあるが、幼い少女の涙には彼は慣れていない。
だが、彼が彼女を助ければ彼女の人生を自分が背負いこむことになるだろうという、今の彼には受け止められないものである。
ああ、巣から落ちた雛同然の子供じゃないか!
彼の脳裏には目の前の少女が少女に見えなくなっていた。
手を差し伸べねば死んでしまうぞと、目力で脅迫して来る鳥のヒナにしか見えなくなっていたのである。
俺は一体どうすればいいのだ!
彼が自分に問いかけた一瞬、彼は軽いめまいに襲われ、気が付いた時には自分の脳裏に不思議な掲示板の文字が見えていた。
2021年05月12日
【俺の家の玄関に鳥の雛が落ちていたのだがどうするべきか】




