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暴力探偵ジム

 バディものを考えていたら、こうなりました。他のものより書き方がかたくて重いかもしれません。

 ああ、なんだい? 人と話すときにゃ被り物は取るって、パパとママに教わらなかったのかい。……おや、随分とお綺麗な顔立ちじゃねぇか。あいにく、お前さんみたいな美しいお嬢サマが立ち寄るような場所じゃねぇぞ、ここは。何? ジムの情報が欲しい? ……お前さん、いったいどこでそれを聞いてきたんだい。まあいい、客のプライバシーに踏み込むのは、こちとら信用問題になりかねん。で、お嬢さんはジムの何が知りたいっていうんだ? ほう、ジムがこの街で過ごしてきた時間の全て、ね。ま、いいだろう。俺が知っている限りのことは全部洗いざらい話してやるよ。もちろん、情報料はいただくぜ。

 ここ、バーニーズ・タンドは、世界でも名の知れた無法地帯だ。どこへ行っても治安が悪い。犬も歩けば棒に当たるというがね、お嬢さん、この街じゃ人が歩けばすぐさま死体に出会えるんだぜ。そんなバーニーズ・タンドでも特に荒れているのが、ミドルと呼ばれる層の人間がうじゃうじゃいる地域、そう、まさにここみたいな路地なんかさ。ミドルってのは、あー、もっと知れた言葉で言うならあれだ、スラムってやつが近いな。ただ、ミドルは必ずしも貧困層とは限らない。噂じゃ、他のお国から逃げて来たお貴族様なんかも、ミドルとしてひっそり暮らしているって話だ。そういう俺も、ミドルの一員なわけだが、ジム、あいつも元ミドルらしい。

 ジムが知られるようになったのは、多分あれだ、あの探偵に出会ったところからだろうな。はっきりとは覚えてないが、あれは数年前のことだ。ハンバーガーショップで強盗事件が起きたんだ。店内にはマスクをかぶった三人の強盗犯がいて、ちょうどそこにある人物が居合わせた。いいや、それはジムじゃねぇ。ここらでちょいと名の知れた探偵さ。名前はグレイ・リバース。見た感じはただのだらしなさそうな中年のおっさんだが、あいつは意外と頭が切れるんだぜ、まったく。それで、大人しく警察の対処を待っていればいいものを、グレイが暇つぶしか何かで強盗犯の素性を明らかにしちまったんだ。すると、ばれちまったなら仕方がねぇと強盗犯が慌てて逃げ出そうとした。そして、ちょうどそこへハンバーガーを買いに来たのがジムだった。あいつはね、店内から出てこようとする三人の姿を数秒見ただけで、強盗が逃げ出そうとしていることを察して、店の前で待機していた逃走用の車両を壊しちまったのさ。運転手は大慌て。ま、実際、それが本当にそのための車だったらしいが。どうやって壊したかって? 確か、拳銃でタイヤをパンクさせてやったとかなんとか聞いたが、どうだかね。あ? 銃くらい、ここに居る奴は大抵持ってるさ。これくらいでびびってちゃ、この先生きていけねぇぞ、お嬢さん。そんで、店から飛び出してきた強盗犯三人と、逃走用の車に乗っていた強盗のもう一人のメンバーをグレイとジムが捕まえたってわけだ。なかなかひどいもんだったらしいぜ。通報してから警察が到着するまでの間、強盗犯たちがあまりにもしぶとく逃げようとするもんだから、四人中三人が足を折られたんだとさ。誰にって? ジムに決まってるだろ。グレイは警察の連中と顔見知りだったからすぐに話がついたわけだが、犯人の足を折ったジムは、警察にとって警戒すべき凶暴さを持った謎の少女だったってわけだ。

 ……あ、言ってなかったか? ジムは女だよ。おまけにまだ子どもだ。実年齢なんて聞いたらはっ倒されちまうが、見た目は、そうだな、十四、五といったあたりかね。ピンクブロンドの長髪でな、前髪を一房前に垂らしているんだ。いつ見てもあれは邪魔そうだが、絶対口に出すんじゃねぇぞ、しばかれても知らねぇからな。瞳は、ライムグリーンとか、アップルグリーンとか、そんな感じだ。身長は一五〇センチより少し上くらいじゃねぇか、多分な。ま、全体を一言で簡潔に表すなら、黙ってれば美人ってやつだ。……とはいっても、手と足が出たら黙っててもおぞましいけどな、あいつは。

 話を戻すぞ。あー、ジムはそこで別の犯罪者じゃねぇかって警察に疑われちまったわけだ。見た目はか弱い少女のくせして、強盗犯を捉えるまでの流れが異常なほど手慣れていたし、おまけに容赦なく怪我人まで出してるんだから、疑われても仕方ないっちゃ仕方ないんだがな。そこで、グレイは何を思ったのか、ジムをかばったのさ、「うちの新人なんだ」ってな。世話になってるグレイにそう言われちゃ見逃すほかあるまいと、警察の連中はとっとと帰っていったそうだ。しかしな、社会に出回ってる情報ってのは、公式のものばかりじゃない。たまたま近くに居合わせた雑誌記者がその場面を目撃しちまったらしくてな、たちまちスクープ記事になっちまったのさ。「強盗犯を華麗に制圧した謎の美少女」だとよ。まったく、笑えるぜ。

 その日から、ジムはグレイの探偵事務所ローファード・ハウスの一員として迎え入れられた。ジムが突然所属させられることに抵抗しなかったのかって? あいつはすんなり受け入れたそうだ。ま、状況を考えれば納得だな。言っただろ、ジムは元ミドルだって。俺たちにとっちゃ、後ろ盾があるだけ随分ありがたいもんだ。それも、自らすすんでなってくれるってんなら、なおさらだ。で、そっからがまた大変なんだがな。初めはグレイと共に行動していたわけだが、ジムは最高に頭が切れるもんだから、二人で一緒に行動しているのはもったいないと、そういうふうにグレイが考え始めた。そこで、戦力を分散することを決めたんだが、そうなるとジムの行動を制御……とまではいかなくとも、ま、監視するやつが必要になってくるわけで、そこで白羽の矢が立ったのがローファード・ハウスで雑用兼探偵見習いをしていたリオード・カロンだった。可愛そうなもんだぜ、まったく。頭は悪くないが、体はひょろひょろのもやしっ子だ。喋る時は基本的におどおどしていて、人見知り。しかもお人よしで、誰にだってすぐに頭を下げちまう。な、まるで頼りがいがないだろ? おまけに、リオードはものを強く言えるような奴じゃない。要するに、ジムとは相性が最悪ってわけだ。だから、ジムの行動を抑えるなんて、到底無理な話だ。リオード自身も拒否、というか拒絶したらしいが、グレイにうまく諭されて、ジムについていくことをついに承諾しちまったそうだ。ま、リオードにとっちゃ、それが運の尽きだったってことさ。

 それからはな、あまり情報が入ってきていないんだ。なんでかって、俺の情報は基本的にジムから直接与えられたものを中心に切り売りしているんでな。あ、経緯? そんなもん知りたがるなんて、物好きだな、お嬢さんは。ジムはな、あいつもああ見えて、案外お人よしなんだよ。ジムが探偵事務所に拾われてしばらくした頃に俺はジムと出会ったんだが、ジムはミドルで商売をしているのさ。何って、お前さんが今やっているような情報取引だよ。あいつは、自分の情報を自分で売りつけているんだ。俺たちを助けるつもりでやってるのかは知らないが、ミドルの連中はジムの情報を売ることで金が稼げる。だから、ミドルでジムに声を掛けられた奴らはラッキーなんだぜ、本当に。それで、ジムがそんなことを始めたきっかけだがな、聞いた話では、ジムの知能やら容貌やらに惚れ惚れした連中が、時折ジムのことを攫いに来るんだと。初めの頃は一つ一つ返り討ちにしてやっていたらしいが、人質をとられるやら待ち伏せが度重なるやらで、呑気に過ごしているわけにもいかなくなったらしい。……本当は一々相手をしてやるのが面倒になっただけじゃねぇかと、俺は思っているんだがな。まあいい。そこで、自分の居場所に関する情報をミドルの連中に教えて、ジムを狙うやつらにご丁寧にも餌をばらまいてるってわけだ。ああ、ついでに「そんなに欲しいなら手前が来い」って伝言も付け加えてな。まったく、大した度胸だぜ。あー、ただな、ジムが絡んだ全ての情報がこっちに流れてくるわけじゃない。ジムは確かに定期的にミドルに情報を流しているようだが、ミドルの連中はわんさかいるからな、情報はそれだけ分散しているってわけだ。それから、ジム本人が言うには、なんでも行く先々で事件に巻き込まれるもんだから、一つ一つ覚えておくのは面倒なうえに脳の容量の無駄だとさ。……覚えられないと言わないあたり、あいつは覚えられるんだろうな、きっと。あー、絶対に敵にしたくねぇもんだ。お前さんも気をつけろよ? この街でジムに目をつけられたりしたら、人生終わっちまうぞ。

 ま、そういうわけだから、俺が確実に伝えられる情報はここまでだな。……ジムの過去? それについては俺の方が聞きたいぜ。ジムの過去についてはな、ほとんど知っている連中がいないんだ。たどり着けて精々元ミドルだっていう情報までだな。そこから先はわからん。確かに、あんなに賢いジムがミドルで噂にならないなんてことがあるのか、本当に不思議でたまらないな。歳が十に満たないくらいの姿を目撃した奴がいるらしいから、少なくとも五年ほどはミドルとして生活していたはずなんだが。もしかすると、一匹狼だったのかもしれん。ミドルの連中は、ある程度話すようになることはあれど、基本的には初対面だと干渉しない。だから、誰とも慣れあわずに過ごしていれば、情報が一切つかめないということも……あるにはあるかもしれん。あるいは、あれだけの凶暴性を持っているのなら、関わった人物を片っ端から口封じしていた、とかな。ジムは拳銃の扱いにも長けているから、あながち間違いとも言えねぇんじゃないか。ま、何を言っても俺の推測に過ぎないんだがな。前に、幼少期のことを直接ジムにたずねた奴がいたらしいが、軽くあしらわれて終わったと聞く。本人にも、話す気はないんだろうな。ま、話したがらないってことは、ろくなことがなかったんだろうぜ。

 俺から話せるのはこれくらいだ。あとは何か聞きたいことはあるか。お前さんはなかなか珍しい人柄だからな、今なら何でもぽろっと話しちまいそうだぜ。……そうか、じゃあお代をいただこうか。……お、手慣れてるな。ありがとよ、まいどあり。それにしても、よく金額の相場が分かったな。……なるほど、お嬢さんは旅をしているのか。それにしても、旅ならもっと行くべき場所があるだろう。クロッサムパークとか、ジルクライブラリーとか。あとは、あれだ、パープルズっていうライブハウスなんかも有名じゃねぇか。バーニーズ・タンドは確かに治安が悪いがな、それでも文化はそれなりに発達してるんだぜ。観光地なんて、探せばいくらでもあるだろうよ。それだっていうのに、なんでわざわざミドルなんかに……。ああ、ジムのことを探しているのか。最初にジムの情報をねだってきたのも、ここにそれがあるってわかって来たってことか。ま、ジムの情報以外にミドルで得られるものなんて片手で数えられるくらいしかねぇしな、当然か。……なんだ、ジムに会いたいだって? 何かの勧誘か、それとも……へぇ、姿を見たいだけだって、そいつは面白い。わざわざ他のところからジムを探しに来るなんて、それも会ってその姿を見たいだけだなんて、珍しいやつもいるんだな。しかし、お前さんみたいないかにも普通のお嬢さんって感じの人が、わざわざジムに会いに来るだなんてなぁ。ここだけの話、ジムの情報を買いに来るやつなんて、ジムの謎を暴きたくて執念深く追いかけてる雑誌記者か、ジムを利用したいと切望しているどっかの研究所とかの輩くらいだぜ。ま、人は見かけによらないっていうから、お嬢さんももしかしたらそういう類の人間で、本性を隠しているだけなのかもしれないがな。で、いつからジムのことを探しているんだ? ほう、もう十年近く、か。随分根気強く探しているんだな、感心しちまうよ、本当に。お前さん、なんて名前だい? あー、言いたくないならかまわんがね。ふと思い立ったんだよ、久々に面白いやつと話をしたんだと、あわよくばジムに伝えてやろうかとね。常連でもない客をこんな風に贔屓していいのかって? いいんだよ、どうせ個人商売だし、誰にも迷惑は掛からねぇんだからさ、自由なもんよ。あと、忘れてないか、ここは無法地帯のミドルなんだぜ。それに、知ってるか、男は美女に目がないってのは常識なんだぜ。……自分で会いに行くからその必要はない、か。ははっ、こりゃあ頼りがいがあるもんだ。ジムの隣にお前さんみたいな人が立ったら、さぞ面白いことになりそうだな。俺も一度くらい、ジムが振り回されているところ見てみたいもんだ。ま、幸運を祈るよ。……どうした? ふむ、それがお嬢さんの名前か。なるほど、顔立ちに似合った良い名前じゃねぇか。ああ、覚えておくさ、男に二言はねぇよ。じゃあな、ノベリー。またいつか会えることを願って。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バディーの視点ではなく、周りの情報屋に語らせることで、探偵の男性と女性の遣り手、情報屋の男性と女性の私(読者?)という二重の人間関係ができ、構造上の深みが出ていると思う。話が時折逸れるのも…
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