服職人カーティスの店
装飾品の専門店が立ち並ぶ小さな通り、その一角にカーティスの店があった。
通りに面した店は土日に繁盛するため、月曜休みの店が多くなっている。
カーティスの店もその例外ではなかった。
いつもより静かな通りを、簡素な造りの馬車が通り過ぎたかと思うと、大廻りをしてカーティスの店の裏口前に戻ってきた。
裏口から少し離れた場所で、作業服を着た男が街路樹の植え込みを剪定している。
馬車の中から一人の女が降りてきた。
質素な服装で公女や伯爵夫人には見えない、どこかの侍女のようだ。
この国の女性にしては大柄な体格で、長い黒髪を一つに結い上げている。
唇をへの字にして、厳しい顔で裏口をノックした。
すぐに、一人の男が不安そうな顔で扉を開けた。
「お待ちしておりました」と、消え入りそうな声で返事をしている。
「一体どういうことなの?」
「どういうことと言われましても、私は言われたとおりにしたまでです」
「ドレスを本当に渡したの?」
「勿論でございます。言われたとおり、こちらの手違いのため無償でお渡しすると……」
男は扉から出ようとしない、大柄な女は話をしながら扉を開こうと取っ手を引っ張っている。
「ミレ……、妹のドレスの色を言ったんじゃないの!」
その時、馬車の中から少女のものと思われる声が聞こえた。
「と、とんでもございません!ドレスの色は申しておりません、本当にお渡しいたしました。ただその場に、今度結婚されるローデリック公爵閣下がいらっしゃいました」
「……」
それきり、馬車からの声は聞こえなくなった。
扉の外にいた大柄な女は、一向に出ようとしないカーティスに、グイっと顔を近づける。
「報酬は減額させてもらいます!」と言うと同時に、お金が入っているであろう皮の袋をカーティスに押しつけ、先程まで引っ張り続けた扉を閉めようとした。
「そんな、困ります!!」
閉められまいと扉から腕と体を出し、カーティスは大柄な女に縋りつく。
それを払いのけ、女は扉にカーティスをねじ込もうとしている。
「いいですか、当分こちらから連絡するまで、屋敷には顔を出さないようにとのことです!」
女はきつい口調で言い捨てながら、カーティスを突き飛ばし、扉を強く閉め馬車へと戻っていった。
車内にはもう一人、先程の声の主が潜んでいるようだが、まったく姿が見えない。
街路樹の剪定をしていた男は、いつの間にかカーティスの店の植え込みを刈り込んでいた。
剪定されて落ちた木枝を片付けるために屈みこむと、馬車の車軸が目に入る。
「なにか文様がある」
男が車軸に目を凝らすと、小さくフォルティス家の家紋が入っているのを確認できた、それと同時に馬車は出発し、あっという間に遠く小さくなっていた。
裏口にはもうカーティスの姿はなく、扉はしっかりと閉ざされ、辺りは静寂に包まれている。
男は周りに誰もいないことを確信した後、用心の為に植え込みを数えるふりをしながら、先程の会話をメモに書き留め、時計を見た。
「さてと、ここの街路樹はもういいかな」