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ミレイアの告白 3

「ねえおかしいのよ、だってレイナード様からの贈り物をあの男が持ってたんだもん!!」


ミレイアは裏口の方向に振り返り、カルロスを指さした。

突然注目を浴びたカルロスだが、偽リリアナと一緒にその間にくずおれていて、こちらの会話に全く反応がない。


「いったい今度は何の話だミレイア」

全身で大きな溜め息をつきながら、フォルティス侯爵がミレイアに訊ねた。


「だーかーらー、あの男がお姉さまの胸飾りを持ってたの、おかしいでしょ! お姉さまが手放してたってことなのよ、勉強が出来るからってみんな騙されてるわ!!」


言ってやったと言わんばかりの自慢気な表情、フォルティス侯爵は一回り小さくなったのかと思えるほど肩を落としている。


「どういうことだ……ローデリック公爵なにかご存知か?」

「はい、多分これの事だと……」


俺はポケットから、あのピンク色の石がついた胸飾りを取り出した。

侯爵が訝しげに宝石を見つめる。

ミレイアがさらに声のトーンをあげ、嬉しそうにこちらを指さした。


「そう、それよレイナード様!お父様! 両家の名前入りの宝石が外部に出てるなんてありえないでしょ」


勝ち誇ったように金髪を後ろにはらい、満面の笑顔で少し首をかしげてみせた。

はぁ……

言いたいことの半分も言えなかったが、流石のミレイアも俺の事は無理だとわかったはずだ、このあとは侯爵に任せよう……なんて考えていたのに……。

やっぱり君は大馬鹿だよミレイア。

俺は侯爵に向き直った。


「フォルティス侯爵、今から話すことですが、本当はあなたを巻き込むつもりはなかったので意味が分からないかもしれません、お時間があるときにゆっくり説明させていただけたらと思います」

「既にわけがわからないから大丈夫だ」


すっかり疲弊しきっている侯爵は、どうにでもしろと言った様子で何度も頷いた。

俺は握りしめていた胸飾りをくるりと裏返した。

ミレイアの顔がパッと明るくなる、なんで今ここでそんな顔ができるんだよ。

手のひらの上で裏返っている胸飾りを、そのままミレイアの目の前に突き出した。


「なあミレイア、この胸飾りに刻まれた古代文字、なんて書いてあるか読めるのか?」

「わかるわよ! 二人の名前と愛を誓う言葉でしょ? そんなの読めるわ」

「それはハンナから聞いたのではないか?」

「どうしてよ! 読めるったら」

「そうか、本当に残念だよ」


二人のやり取りを見ていた侯爵が、何かを察したように近寄ってきた。


「ローデリック公爵、その胸飾りを私にも見せてもらえるかな?」

「はい、どうぞご覧になってください」


フォルティス侯爵はゆっくりと手を伸ばし、大きな胸飾りを自分の手に持った。

そして無言のまま裏に刻まれた文字を読むと、一瞬首を傾げた後、ため息をついた。

侯爵はミレイアの目をまっすぐに見つめて問いかける。


「ミレイア、古代文字はもちろん読めるんだな?」

「もちろんですわお父様! 初等学校には行ってなくても家庭教師に習っています、この国の貴族の娘なら当たり前のことでしょ」


自信満々なミレイアの言葉に侯爵はうんうんと頷き、胸飾りの後ろに刻まれている文字を声を上げて読み始めた。


「『ミレイアへ、これを読んだなら思いとどまってほしい、君は最低なことをしようとしている、僕は気づいているよレイナードローデリック』」

「は? どうしたのお父様?」

「この胸飾りに刻まれている言葉だよミレイア」

「嘘!」

「嘘じゃないよ、本当だ、他の人にも読んでもらうかい?」

「何よ! みんなで私をいじめるのね!ひどい!」


大声を出したミレイアは、フォルティス侯爵の手から胸飾りを取り上げ、芝の上に叩きつけた。

胸飾りは芝の上で微かに跳ね、リリアナの足元に留まった。


あ……これは、初めて見た夢と同じ場面だ……。


あの時に投げつけたのは俺、そして胸飾りも違うものだが、全く同じようにリリアナの足元に転がっている。


俺はこの時、完全に運命が変わったのを感じた。


リリアナは自分の足元に転がった胸飾りを、黙って見つめている。

ミレイアは胸飾りを投げただけでは気が収まらないようで、ドレスの両端を握り締めていた。


「ミレイア、俺は君に踏みとどまってほしいと思った、だからチャンスを与えたんだよ。しかし君は実行した、最低なことをしたんだ」

「もう! う・る・さ・い! みんなでミレイアのこと馬鹿にして! 体が弱くて学校いけなかったの知ってるでしょ、ひどい!!」

「いい加減にしなさいミレイア!」


フォルティス侯爵がミレイアの腕をつかんだ、しかし先程と同じように凄い力で払いのけられた。

それでも侯爵は続ける。


「いい加減にしろと言ってるだろミレイア、どういうことかは全くわからんが、お前が古代文字を読めないことは分かったよ」

「お父様まで馬鹿にしないで!」

「はぁ、お前には王太子から直々に王太子妃候補の招待手紙が来ているんだ、しかし古代文字さえ読めないとなると……」


侯爵のその言葉を聞いて、ミレイアはふんっと鼻を鳴らした。


「いいわよ、あたしあんな小太りで不細工な男に嫁ぐ気なんてないもん!」

「なんてことを!」


フォルティス侯爵はミレイアの言葉を聞いて頭を抱えた。

本当に最低な女だ。

開き直って逆切れしたうえに、胸飾りに刻まれた文章のことは完全に無視。

挙句に王太子の悪口か、ふてぶてしいにも程がある。

呆れる周囲に気づかないのか、ミレイアは構わずペラペラと喋り続けた。


「だーかーらーレイナード様がいいの! お家は立派だしなんたってかっこいいでしょ、あんな間抜け顔の王太子には返事なんてしなくていいわ、ミレイア絶対に幸せになるんだもん」


え、ちょっと待て、え? 俺に執着してたのってそんな理由?


「レイナード様とミレイアの子供はきっと可愛い子になるわ、ね、お父様」


ミレイアのおしゃべりは止まらない。

ただ、王太子がミレイアの好みじゃないから?

リリアナを貶めて、人生めちゃくちゃにしようとしてた理由がそれ?


駄目だ、笑いがこみあげてきた、どれだけ考えてもわからないはずだ。

ハハッ……

怒りで頭がグラグラするのに笑いが止まらない、そして手の震えも止まらない。

くっそなんだこの女、こんなのに振り回されてたのか……。


ふと、リリアナの後ろに立っているクロードを見ると、クロードも呆れ果てた顔でミレイアを見つめていた。

いつも完璧な男も人前であんな顔するんだな、そう思って少し冷静さを取り戻す。

すると、突然目の前を黒い影が横切った。


「痛い! いたぁーい!!やめてぇぇ」


ミレイアの叫び声が中庭に響く。


「いい加減にしなさい!」

「痛い痛い!痛い!!」


突然起こった出来事に、さっきまでの体の震えがぴたりと止まる。

そう、目の前を通った黒い影はリリアナで、そのリリアナが、ミレイアの頬を思い切り横に引っ張っているところだった。


「お姉さまぁーやめてったら 」

「あなたが馬鹿なことを言い続けるからよ」

「だってそうだもん、ミレイアはレイナード様と幸せになるの!お姉さま、彼の事は諦めてちょうだい、ね?」


リリアナの指先にさらに力が入った。


「いたぁーい!」

「泣いても何を言っても無駄よ、私はレイナードを愛してるんだから!」


突然のリリアナの告白!

後ろにいたステラがなぜか拍手をしはじめた。

リリアナは、怒りのせいなのか照れているのかわからないが、耳まで真っ赤になっている。


う、嬉しい、こんな時なのに一瞬にして舞い上がってしまう。

しかも皆の前で! あの恥ずかしがりやのリリアナが! 最高だ、最高すぎる!


「リリアナ!」


俺は我慢できずに名前を呼んだ。

リリアナは真っ赤な顔でこちらを振り返ったが、ミレイアの頬はずっと引っ張り続けたままだ。

美しい深緑の瞳が少し潤んでいた。


ああそうだ、俺何やってるんだ、もうこんな場所にいる理由がない、ミレイアの企みは阻止したんだ。

フォルティス侯爵には結婚式が終わってから説明をすればよいだろう。

リリアナが俺のことを皆の前で愛していると言ってくれた。

もちろん俺もリリアナのことが死ぬほど……いや、一度死んだけど……もう絶対死なない! 

死ぬまで愛してる!!


「愛してるよ、リリアナ!!大好きだ!」


俺の言葉を聞いたリリアナは、ミレイアの頬から手を離すと、掴みかかろうとするミレイアを思い切り突き飛ばした。

バランスを崩したミレイアは派手に転がり、芝生と跳ねた土が顔にかかる。

起き上がろうと手を伸ばすが、それもリリアナに払われ、再びしりもちをついた。


泥だらけになったミレイアには目もくれず、リリアナはこちらに向かって駆けてくる。

俺は大きく手を広げ、全身で彼女を受け止めた。


リリアナは俺の胸に顔をうずめ、額をぐいぐいと押し付けてくる。

若草の香りがする美しい髪を優しく撫で、俺は彼女の額にそっとキスをした。


瞬間、辺りに金属のような音が響いた。

信じられないことに、それはミレイアの叫び声だった。

現状をやっと自覚して癇癪を起してしまったのか、とんでもない声で泣いている。

フォルティス侯爵が申し訳なさそうな顔で近づいてきた。


「本当にすまない、何と言っていいか……」

「申し訳ないのはこちらです侯爵」


背後で響く金属音の叫び声、これでやっと終わった。

リリアナの手を取り、真っ赤な目で複雑な表情をしている彼女の頬に口づける。

もうここにいる必要はない。


「まあなにかと思ったら、ミレイアなの?」


この場から去ろうとしたとき、後ろから突然聞き慣れない声が聞こえた。

振り返ると、そこにはフォルティス侯爵夫人、ジュリアが立っていた。



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