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ミレイア登場


部屋に入ってきたミレイアは、リリアナがいることに一瞬驚いたような顔をして、部屋を見渡し、ハンナがいないことを認識したのか、俺のほうを見てニコッと微笑んだ。


「ごきげんようおにいさま、打ち合わせでいらっしゃってると聞いて、ご挨拶にまいりました」


ミレイアはそう言って、当たり前のように俺とリリアナの前に座った。

お茶を出そうとしていたステラの手が止まる。


「申し訳ございません、ミレイア様のお茶がありませんので、ただいまお持ちいたします」


ステラはぺこりと頭を下げて、ワゴンを押して部屋を出て行こうとする。


「あらステラ、ミレイアのことは気にしないでー」

ミレイアがソファに深く腰掛けなおしながら言った、左手には小さな紙袋を持っている。


こちらを振り返ったステラは、どうしたらいいかわからないという表情をした後、リリアナに軽く会釈をしてまた部屋から出て行こうとした。


よーし俺の出番だな。


「ステラ、ミレイアはすぐに戻ると言っているからお茶は気にしなくていい、な、そうだろミレイア?」


正面で当たり前のように座っていたミレイアは、突然の俺の問いかけに驚いたのか、何も言わずただ頷いた。


「ああそうだステラ、午後から皆で植物園のほうに行く準備があるだろう、こちらはクロードに頼むから、その用意をしておいで」


大袈裟にそう言ってクロードに目線を送ると、クロードはそのままステラを見てうんうんと二回頷いた。


「あ、はい、わかりました! では、失礼いたします」


こちらに向き直り、しっかりと頭を下げてステラは部屋を出て行った。

扉の閉まる音がやけに響く。

少しの間、木の音だけが余韻で残り、部屋に嫌な静けさが続いた。

一体誰から話し始めるのか……。


「打ち合わせは終わったんですか?」


一番最初に口を開いたのはミレイアだった。首をかしげて、いつもの笑顔でこちらをのぞき込んでくる。


「今からだよ、さっき少しバタバタしててね、もうひとり侍女がいたんだけど出て行ってもらったところだ」

「そうなんですかあ……」


あえてハンナのことを話してみたが、特に動じる様子もなく適当な返事が返ってきた。

何を考えているんだろう、そして手に持っている小さな袋をどうする気だ。


ミレイアは伸びをするように部屋を見渡した後、俺とリリアナの顔を順番に見て、にっこりと微笑んだ。


「では、おにいさまに挨拶できたのでミレイアはお部屋に戻りますね」


笑顔を崩さないまま、こちらに会釈をして席を立つ。

座っているわけにはいかないので同じく席を立つと、その様子を見ていたクロードが表情を変えず入口に向かい、扉を開けた。


「まあ素敵な執事さん、ありがとうございます」

「レディに扉を開けさせるわけにはいきませんからね」


クロードが無駄に愛想を振りまいている、あれは無意識だろう。

ミレイアが嬉しそうに笑いながら振り返り、俺の顔を見て「あっ」と声を上げ、突然駆け寄ってきた。


「おにいさま、これ召し上がってください」


ドレスを翻し、扉の前からあっという間に俺の目の前に立っていた。

あきらめて出ていくと思っていた、突然の行動だった。

目の前には小さな袋が両手で差し出されている、この香りは間違いなくクッキーだろう。


「これはなんだい?」

「クッキーを焼きました。恥ずかしいのでお屋敷に戻ってから食べてくださいませ」


まっすぐと目を見つめ、少し頬を赤らめている。

横にいるリリアナを見ると、また困ったような顔で微笑んでいた。

ミレイアといる時にするこの表情、どう対応すればよいか悩んでいるのだろう。

安心しろリリアナ、俺はこんなもの受け取らない。


「ミレイア、悪いがそれは受け取れないよ、そもそも甘いものは全くダメなんだ」

「え……」


ミレイアが言葉に詰まると同時に、リリアナがこちらを見るのが分かった。


「私が食べられるのは、リリアナが作ったものだけなんだよ、それ以外は無理なんだ」

「ミレイアのも甘さ控えめですよ?」


お、食い下がってくるじゃないか。わかっているぞ、ハンナがリリアナの部屋に入って盗み見たレシピで作ったんだろう、いや、作ったのもミレイアじゃないかもしれないけどな。


「んー、リリアナのクッキーはとある店のパティシエから教わった特別なレシピなんだ。私は一緒にいたから知っているが、同じ味はレシピを盗まない限り、再現不可能だろう、誰にでも作れるものじゃないんだ」

「……」

「それに嫁入り前の侯爵令嬢が、手作りの物を男の人にあげるのは良くない。こういうものは恋人にあげるものだ、もう少しで義理の妹になるとはいえ、疑われるようなことはしたくない。だから受け取れないよミレイア」


黙ったままのミレイアの耳が赤くなっている、袋を持つ手にも力が入っているのが分かる。

自分に自信があるミレイアのことだ、まさか断られるなんて思ってもなかっただろう。


目の前に差し出されたら、受け取らずに断るのはなかなか難しい。

しかし手作りのお菓子を自分の姉の婚約者である男に渡そうとするなんて、本当にとんでもない女だ。


「そうですわねおにいさま、突然ごめんなさぃ……」


ミレイアは震える手を抑えながらその言葉を言い終えると、お辞儀というには無理があるような挨拶をして、足早に入口に向かい出て行ってしまった。

部屋を出たのと同時に、クロードが扉をばたんと閉めた。

静まり返る室内、扉を見つめながら皆が一斉に息を吐くのが分かった。


「ふぅー困ったお嬢さんだな、ありがとうクロード」


緊張感から解放され、脱力するようにソファに腰掛ける。

クロードは何か言いたげだったが、リリアナがいるので小さく頷いただけだった。


「レイ、なんだかごめんなさい」

「君が謝ることないよリリアナ、彼女は君の前で失礼なことをした、それを許せなかっただけだ。きっと誰にも注意されずに今まで来たんだろうが、どうしたものか」


リリアナがなにかを言いかけたその時、遠くの廊下で何かが割れる音がした。

扉を見つめながら目を伏せたリリアナは、小さな溜息をついた。


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