リリアナからの贈り物
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
今日は夢を見ない日だったか……。
寝起きはスッキリしていいのだが不安にもなる、結婚式までもう少し。
えーっと今日の予定は、東地区の決裁書と午後からは銀鉱山の市場調査か。
結婚式後を穏やかに過ごすために、遠出の仕事はなるべく早めに進めたい。
それに結婚式翌月から、王太子様の花嫁選びが始まるとの噂がある。
国内が浮ついてくるだろうから、そうなる前に仕事を少しでもこなしておきたいな。
扉をノックする音が聞こえた。
「レイナード様、お荷物が届いております」
そう言いながら、クロードが大きな箱を持ってきた。少し重そうだ。
「リリアナ・フォルティス様からの贈り物です」
「なんだって!」
持っていた書類を放り出し、箱に飛びつこうとするのをクロードに制止された。
「おい、荷は逃げないから落ち着け、あと書類は紛失すると困るからちゃんとまとめて」
「……はーい」
「返事を伸ばすな」
「……」
言われるまま資料をまとめ、机の上を片付ける。
届いた箱はずっしりと重く、厳重に梱包されていた。
「何が入っているんでしょう?」
クロードが手際よく開封していく。
箱を開けると、ガラスの小さい瓶が20個近くと焼き菓子、そして手紙が入っていた。
瓶をいくつか取り出すと、ミント、ラベンダー、セージ、ローズマリーなど、可愛い手描きのイラストと文字が書かれたラベルが貼られている。
甘い匂いがする焼き菓子からは、ほのかにスパイスの香りも感じられた。
同封の手紙を開封した。
親愛なるレイナード・ローデリック様
先日送っていただいた、とても素敵なペーパーナイフと、スズランのブレスレットについてのお礼です。
まず魚のペーパーナイフ、ミズウオでしょうか。
異国の細工物でとても素晴らしく、思わず声が出てしまいました。
初めて見る造形の美しさ、洗練されたデザインと美しい石、このような素敵なものがあるなんて、本当に感激いたしました。
使ってしまうのがもったいなく思いますが、せっかくですので、いつでも手に取れるよう、そして眺められるよう机の上に飾っています。
本当に素晴らしいです、ありがとう。
そしてスズランのブレスレット、これは少し前に贈ってくれたものだと思うのですが
手違いがあり、ペーパーナイフの翌日に受け取りました。
いつかスズランの花を見てみたいと言っていたのを、覚えていてくださったのですね。
その気持ちが大変うれしく、私は本当に幸せ者です。
受け取った日からずっと身に着けております。
あと、同封の小瓶ですが、私の研究室と植物園で作っているハチミツです。
たくさんの種類があるので、ローデリック家で従事されている方たちに受け取っていただき、できれば感想などを聞かせてもらえると嬉しいです。
これから先、事業展開を考えているので、どうぞよろしくね。
焼き菓子は、先日連れて行ってくださったハーブ店の方に聞いたレシピで作ったものです。
レイは甘すぎるのは苦手なので、少しお砂糖を減らして作ってみました。
私が住んでる別館に厨房はないので研究室に窯を作り、それで焼いたんですよ。
いろんな香りを楽しんでくださいね。
先日、屋敷にいらしたのに会えなくてとても残念です。
平日はほとんど研究室と植物園におりますので、お時間があるときに立ち寄ってくださると嬉しいです。
では、世界中の愛と幸せがあなたに降り注ぎますように。
週末にお会いできるのを心待ちにしています。
たくさんの愛をこめて、リリアナ
うおおなんだこの感情は、気持ちが抑えられない。思わず胸いっぱいに息を吸い込み、何度か深呼吸した。
「なあクロード! この……」
「はい、待ったレイ!」
「なんだよ、止めんなよ。大きな声出さないように我慢してただろ」
「ああ、声は抑えられてたけど、お前途中から手紙を声出して読んでたのに気づいてたか?」
「え? 誰が?」
「お前、レイナード・ローデリックが」
「手紙を?」
「ああ、『思わず声が出てしまいました~』ってあたりから、ずっと朗読してたよ」
「……」
「リリアナ嬢はいい子だな、よかったなレイ」
気づかなかった、気分の高揚とともに声が出てたのか。
くっそクロード、ニヤニヤしやがって。
「オホン、じゃあ、まあそういうことだ」
「ああ、このハチミツを侍女たちのところに持っていくよ」
「どれが気に入ったとか、数日後に感想が欲しいと言っておいてくれ」
「了解」
クロードはワゴンの上に綺麗に小瓶を並べ、箱から焼き菓子を取り出し、梱包を手際よく片付けた。
「では午後の外出の時間まで、そちらの書類にしっかり目を通しておいてください。失礼いたします」
そう言って、少しにやけた顔のまま部屋を出て行った。
机の上の焼き菓子を開ける。クッキーと小さなケーキ、優しい甘さとスパイスが香ってくる。
そういえば、ハーブの店に行った時にたくさんのメモを取っていたな。
真剣な顔が愛おしかった、自分の好きなことに打ち込む彼女を尊敬する。
この国の貴族の女性は、家業を継いだり事業を考える女性は少ない。
特にパーティばかりに顔を出す女性は、資産がある名家に嫁ぐことを人生一の目標にしているらしい、そしてそういう女性は学校にさえ行かない。
着飾ることを悪いとは言わない、もちろん愛する女性には美しくいてほしい、そのために必要なものは何も惜しくない。
リリアナの事業はきっとうまくいくだろう、協力できることがあれば労力をいとわない。
その前に、頼りない男だと愛想を尽かされないように、俺もしっかりしなければ。
「さてやるか」
書類を開きながら、小さなケーキを一つ口に入れた。
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最終回までよろしくお願いします(*´ー`*)




