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帰宅


「で、ステラをあちらに置いてきたと」

クロードが左手で眼鏡を直しながら、じっとこちらを見つめる。


「そうなんだよ、ほら、夢が真実になる確証はなかっただろ。でもステラを連れていくってのは昨晩クロードも納得したじゃないか」

「したけど、まさか置いてくるとはな」

「それは、あとでマリスに謝っておいてくれ、いや、俺が謝りに行くか……」

クロードは頷きながら、「そうしてくれたほうが、助かる」と呟いた。

マリスはローデリック家最長の侍女頭だ、大変頼りになるが怒らせるとそれはそれは怖いのだ。


「それに、マリスだけじゃないんですよレイナード様、こちらの侍女をあちらに置いてきたということは、フォルティス家にも説明をしなくてはいけない」

「あ、うん、本当にごめん」

ああそうか、これは家同士の問題になるのか、リリアナのことに夢中で先走りすぎだな俺。

ちょっとやりすぎた、皆に迷惑をかけてしまっている。

でもリリアナのことを考えると、ああするしか……。


落ち込んでいる俺を見て、クロードがクスッと笑った。

「レイ、大丈夫だって、ちょっと驚いただけだよ」

「でも」

「いや、後でフォルティス家に持っていく書状を書いてくれればいい、それで全然大丈夫だ、輿入れ前の令嬢のもとへ、こちらの侍女や執事が先につく話はないわけではないよ」

「本当か」

「うん、大丈夫。でもマリスへの説明はお前からな」


そういいながら下の階を指さして、にやりと微笑んだ。

そのままクロードは、机の上に置かれた手帳を開き、今日の出来事の元となった夢を確認しはじめた。


「それでっと、他に何か気になったとこはあったのか?」

「ああ、結局メアリーが故郷に戻るのは変えられないようだった。でも、あの二人の間に何かあったなんてのはやっぱり嘘だ、あんなに悲しそうな二人、俺つらくて見てられなくてさ、途中もらい泣きしそうになったし」

「うむ、黒髪の大柄なメイドは姿も見なかったのか?」

「そう結局会わなかった、というより会わせる余地を与えなかったよ! 俺頑張ったぞ」

「そうだな」

「ミレイアは何も言えなかったし、二人きりになることも俺に触れることさえなかった、俺凄いじゃん」

「そうだな、はいはい」

クロードは興奮して饒舌になってる俺の背中を、なだめるようにぽんぽんと叩いた。


昨晩ステラを呼び出し、結婚式前の挨拶の為にフォルティス家を一緒に訪問するように頼んでおいて正解だった。

クレヴァ礼節学校卒業生の彼女は、学校きっての才媛リリアナに会えると舞い上がっていた。

女生徒ばかりの学校だ、リリアナが優秀な生徒でありすぎたがために、フォルティス家の噂は良いものも悪いものも広がっていただろう。

しかも、妹であるミレイアは学校に行っていない。それが更に人々の好奇心と想像を掻き立てていたであろう。

噂の事は全く口には出さなかったステラだが、行きの馬車の中ではとても緊張している様子だった。

しかも俺が『誰とは言わないが、リリアナのことをよく思っていない人物が屋敷にいるんだ』と吹き込んでおいたので、リリアナの為に屋敷に残るという話も、嫌がることなく受け入れてくれたんだと思う。


リリアナもメアリーと離れた悲しさが少しは紛れるだろうか。

ステラの様子を見る口実で、フォルティス家に顔も出しやすくなるな。

怪しいメイドも回避した、一石二鳥だ! いやそれ以上だ!

改めて俺、本当によくやった!

これから見る夢もすべて回避して、あっという間にリリアナと結婚して、夢の新婚生活を送るんだ!


フッ、ついニヤニヤしてしまう。フフフ……フフ。

机の上を片付け終えたクロードが、真顔でこちらを見ていた。


「そんなに見つめるなよ」

「いやあ、お前が楽しそうで何よりだなと思ってさ」

「おう、絶対にクロードに俺の花婿姿見せるからな!」

「……」

クロードはさらっと無視をして、片付けた荷物を持って部屋から出て行こうとした。

そこで何かを思い出したように一旦立ち止まり、こちらを振り返る。


「屋敷に残ってるステラの荷物を明日届けたほうがいいな」

「ああ、そうだな、本当にすまない」

「じゃあさっき話した、結婚式までステラを預けるという書状も書いておいてくれ」

「了解」



翌朝目が覚めると、枕元にメモが置いてあった。

クロードからだ。

えっと、フォルティス家にステラの荷物と書状を届けたあと、所用を済ませるので帰りは夕刻になるとのこと。

朝食はマリスに頼んであるので、ステラのことを話しておいてほしいと、あーそうだった。


「んー」

思い切り伸びをする、今日は夢を見なかったな。


まあ、毎日あんな出来事が続いたら身が持たない。

しかし夢を見ない日は、フォルティス家で何か起こってるのではと気になってしまう。

夢は自分が経験していることしか見られないからもどかしい。


「あーくそっ」


昨日のことで確信した、これから見る夢は全て実際に起きることだ、いや、馬鹿な俺が一度経験したことだ。

絶対にすべて阻止しなければいけない。

何を考えているのかはわからないが、ミレイアの好きなようにはさせない。

俺はもう嘘の涙や笑顔、あんな、おっぱ……には騙されない!




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