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二部5話 のんびり亀さんはせっかちお兄さんたちにおこられていましたとさ

「何やってやがる! トロトロせずにさっさと動け!」


タルトは、その声に押されるように前に出た。目の前には小鬼(ゴブリン)の群れ。奥に一匹。剣を持ち一匹だけ他のゴブリンよりも派手な服や冠を身に着けた他とは明らかに違う個体がいる。束ねる小鬼(ホブゴブリン)だ。

ホブゴブリンは、タルトを見つけるとにやりと口を歪め、声をあげる。すると、数匹のゴブリン達がタルトに向かって殺到する。


「あ、あああああ~!」


迫ってくるゴブリン達に、タルトは何も考えられなくなり、持っていた道具達を投げ捨て、ただ頭を抱えた。当然この行動は正解と言えない。ゴブリンは己の欲に忠実だ。しかも、女性となれば、命を賭けて襲う。頭を抱え身を守ろうとする等ゴブリンにとっては据え膳、冒険者にとして最悪手と言える。


「馬鹿! ゴブリン相手に何やってんのよ!」


アリーのキンキン声が耳に届いた瞬間、タルトは眉間に深く皺を刻み自分の愚かさ、実力のなさを呪った。しかし、そのゴブリンが襲い掛かる前に、ラピドの細剣が間に合う。的確にゴブリン達の中心を素早く貫いたラピドは、蹲るタルトを見て大きく口を歪め嗤うと、顔を天に向け一呼吸し、先ほどとは打って変わって爽やかな笑顔を向けて、タルトに話しかけた。


「タルト、もう大丈夫だから。ほら、そんな蹲ってないで、立ちなよ」


タルトが顔を上げると、そこには手を差し伸べているラピドが。タルトは自分の無能さと、また、ラピドの優しさに、顔を赤くしながら立ち上がる。


「あ、ありがとう、ございます……」


ラピドは、タルトからの感謝の言葉に大きく口角を上げて喜ぶと、大きく頷いた。


「うん。大丈夫だよ。キミは僕が守ってあげるからね。さて、あちらは……」

「もう終わった」


ファストが、肩と腹に受けた傷にポーションを振りかけながら、苛立ちを隠さずこちらに向かって歩いてきた。

アリーもまた、魔力を使い過ぎたのか気怠そうな目でタルトを見つめている。


「あ、あの……」

「……ち! 謝罪も遅いのかよ」


ファストは、そうつぶやくと、タルトの横をすっと通り過ぎる。アリーもまた、タルトなどいなかったかのように明後日の方向を見ながら通り過ぎる。


「す、すみません!」


慌ててタルトは振り返って、頭を大きく下げた。そんなタルトの肩にぽんと手を置きラピドが大声でファスト達に呼びかける。


「まあまあ! タルトは、鑑定士だ! 戦闘で役立たずになってしまうのは仕方ないし、タルトは亀人族なんだ。早さを求めるなんてお門違いだろう! タルトの仕事は今からゆっくりと戦利品の鑑定をしてもらうことでしょ? ねえ、タルト、ゆっくりでいいからね、一個ずつしっかりと鑑定して、値打ち物を見つけておくれよ」

「は、はい!」


ラピドの言葉に、タルトは今度こそ遅くならないようにとすぐさま頷く。そして、ゴブリンの死体たちの奥にある、人間から奪ったであろう収集物の山を崩しながら一個ずつ丁寧に鑑定を始めた。


「全く、仕方ないとはいえ時間のかかることだな」


ファストの声に、びくりと肩を震わせながらも、タルトは淡々と続けた。早くしなければという思いと丁寧にやらなければという思いに挟まれながらタルトは鑑定を続ける。


「おい、何回も言ってるがな。お前、余計な事考えてるから遅いんだよ。考える前に動け。聞いてんのか? おい!」


考えるな考えるな。

タルトは自分に言い聞かせ、黙々と作業をし続ける。後ろではファストの急かす声が続く。

でも。

鑑定は丁寧に『一個ずつ』やれって言われたし、戦闘は『考えないで』動けと言われて戸惑いながらも言われた通りにし、なんとか頑張ろうとしている。

言われたとおりに。言われたとおりに動け、私。

タルトは続ける。しかし、ファストのまくし立てる怒声は止まることがない。


「トロくさい足手まといが!」





ハッとタルトはその声で顔を上げる。

前から変わらぬ早口で叫んだファストは、リバースネイクによってあのゴブリンたちとの時以上のダメージを受けてはいるが、態度は崩すことなくこちらを睨んでいる。


「役に立つとお前は思っているのか!?」


ファストの視線は、タルトからカインに移り、潰れた腕の痛みに苛立ちながらカインに向かって叫ぶ。カインは言った。『じゃあ、一緒に頑張ろう、ね』とタルトを真っ直ぐに見ながら。タルトは先程フラッシュバックしてきた思い出から遅れて、そのカインの言葉を思い出し、困惑した表情でカインに問いかける。


「あ! そ、そうだ。わ、私と、ですかあぁああ?」


カインは微笑みを絶やさぬまま頷いた。

タルトは震える身体を止められないままふるふると首を横に振った。

目の前にいるカインは魔工技師のようだが、先ほどの動きからいっても只者ではない。

問題は自分だ。タルトは鑑定士。戦闘職ではないし、ステータスも低い。特には【はやさ】が低く、圧倒的に動きが遅い。動き出しが遅く何度もファストやアリーに怒鳴られた。

今までも何度も迷惑をかけ、足を引っ張り助けられてきた。今回もそうなるに決まっている。


「む、む、無理ですぅうううう! 私なんかじゃ! 私、ステータスも低いし、それに何より、トロいんですよ!」


タルトは目に涙を浮かべながらカインにしがみ付こうとするが、はっと気づいた様子でカインを押し倒す。二人が居た場所をリバースネイクが通り過ぎる。元気な二人を頭突きで【一陣の風】と同じように弱らせて、いつでも食えるようにしようとしていたリバースネイクは恨みがましそうにタルトたちを見ている。

そんなリバースネイクを見てタルトはガタガタと震えている。カインは、タルトの肩をぽんと叩き、陽だまりの中でのんびりとしているかのようにゆったりした口調で話しかけた。


「君なら、出来るよ」


タルトは、目を見開いて左を見る。そこには、優しく微笑むカインがいた。


「君は、トロくなんかない。実は、物凄く頭の回転が早い……んじゃ、ない、かな」


お読みくださりありがとうございます。


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