四部60話 物語がまた始まるんだとさ
わああ、一瞬だけどハイファンランキングのってました、うれしいです。
獣と化した男は巨大な斧を振りかざし、魔物を一蹴する。
「これは、どういうつもりだ?」
男は、遠くからこちらを見つめる女に話しかける。
「君こそ、どういうつもり? あの人は君の……」
「やはり、気づいていたか」
「そりゃあ、私はあの人の為にここまでお膳立てをしてるからね」
「それで人々と苦しめてもか」
「勿論」
「そう、か……あいつのことは偶然だ。まさか、あいつが『あのたす』だったとは思わなかった」
「まあ、そうだよね。私も同じだよ。だけど、見つけた」
「手は出さなかったようだな」
「まだ、みたい。まだ、だから。我慢するよ、出来るだけ」
「止めるぞ」
「出来ないよ、私がどれだけ待ち焦がれたと思う?」
「お前は狂ってるんだ」
「だから?」
「万人の勇者、モモ=テラー、お前を倒す」
「出来るかい? 万力の勇者、キーン=テラー。私と肩を並べた君ならわかるだろ? 君は、私に勝てない。結末は決まっているんだ」
「それでも、だ」
「一族の使命の為か、それとも、情が移ったのか」
「行くぞ!」
男が大きく大地を踏みしめる。
女が刀を抜き天を貫く魔力を放つ。
その瞬間、海が彼女たちを襲った。
男は大地を割り、女は海を割り、恐らくその原因であろう老人を見る。
「なんのつもり、マシラウ=テラー……万識の勇者」
「ほっほっほ『伝説の一族』が争えば天変地異は必至。儂の女子たちが困るのでのう。やめてくだされと老体に鞭打ってやってきたのじゃよ」
「海を呼ぶほどの魔力で何を言うか」
「いや、もうからっからじゃよ! 肌もしわしわかさかさじゃろう!」
「いーや、老人とは思えないほどのぷるっぷるっのつやっつやっじゃん……はあ、やる気そがれた。じいさんの一人勝ちだね」
「これぞまさしく、漁夫の利というやつじゃな、いえーい」
女も男も武器を下ろし、老人を見つめる。
「さて、落ち着いたところで本題に入ろう。じいちゃんの助言を聞きなさい。今、あやつに何かあれば、物語が変わってしまう。儂はそう確信しておる」
「だから、あの女のやることを黙ってみていろ、というのか」
「うん、そいうこと。じゃから、お前はちょっと静かにしててくれい」
老人が遺物を起動させると、男は魔力の箱に閉じ込められどこかへ飛ばされていく。
「うわー、じいさんずるー。あれ大陸の外にとばしたでしょ」
「いやあ、あんなムキムキに真っ向から勝てるわけなかろう、お前以外」
「で、私には何もしないの?」
「今はな、ただ、儂のかわいいおなごたちに手を出せば黙ってはおらんぞ」
「わかったわかった」
「にしても、親子そろって飛ばされるとは奇妙な縁というかなんというか……」
「は?」
「お? 流石に知らなかったか。あのたすは今、大陸の反対側におるぞ」
「はああああ?! ……そっか、めんどくさいなあ、あっちまで空間転移しようものなら、神様達に目をつけられるだろうし、まあ、焦らず行くかあ」
「なあ、あの男は、本当に」
「私の、探してた男だよ。間違いなく。ぜったいに」
女は光を失った目ではるか遠くを見つめ駆け出した。
老人は、女が去っていった方を見つめ、そして、おもむろに魔法で水の球を作り出す。
「全く、何がどうなれば、ただの人がこんな数奇な運命を辿るんだか……水の女神よ、お教えたまえ、あの男の未来を」
老人は水の球に映る彼の姿を見た。
「……ほっほっほ! 本当に面白い男だ! さて、この通りの物語が進むのか
それとも……」
水の球には黒髪のぼおっとした魔工技師の男が鍵盤を構え向かい合っていた。
「あのたすの男! お前だけは絶対に認めない! この【万国の勇者】がお前を完全に! この大陸から今度こそ追放して見せる!」
煌びやかな鎧に包まれた自信に満ち溢れた男が蒼い剣を振りかざしながら笑う。
「セイ! 気を付けて、今まで多くの人があの男に、あのたすに騙されてきたらしいから!」
紅い衣に身を包んだ魔法使いの女が魔力を高め、こちらに炎を放とうとする。
しかし、それを獣の少年が邪魔をする。
「く!」
「あの人は傷つけさせない」
「マァマ! この……! 幼い少年まで誑かして……あなたには誇りというものがないのですか! カイン=テラー!」
白の魔力を高めながら、神官姿の女性が叫ぶ。
「お主らこそ、話を聞けい。全く誑かされておるのはお主らの方であろうが、あの似非勇者を見抜けぬとは」
サルーンが身軽な動きで近づき、女を殴り飛ばす。
「ぐ……私たちは誑かされてなどいない! 彼こそが! この大陸の希望の星なのです……!」
「ムゥムゥ! 大丈夫!?」
「ありがとう、ミミ。それより、あの遺物の発動は?」
「もう終わってる!」
ミミと呼ばれた少女が指す先では巨大な魔導具の先端に異常なほどの魔力が集まり凝縮が始まっていた。
「あなたたち、この国を消すつもりですか?」
「正義の為には致し方ないことさ」
「私たちを、ヌルドから追放し、陥れ、殺す。それが正義ですか?」
「君には、分かってもらいたかった。でも、無理なようだね。悲しいよ」
ココルの問いかけに、【万国の勇者】は悲しそうな表情で答える。
「消すなんて! ひどすぎます! 自分たちの国じゃないからって!」
「ヌルド王国であったとしても、ボクはそうしたさ」
「嘘です! 勇者様は嘘つきです!」
蒼い髪の女は泣き叫びながら【万国の勇者】を睨みつける。
「くそう! 死ぬ前に、一度でいいから女の子のお尻が触りたかった!」
赤髪の青年が地面を叩きながら泣いている。
「さあ、あのたすの男、言い残すことは、あるか?」
「ない、よ」
「そうか……なら!」
「言い残す、つもりなんて、ない。まだ、俺たちは、【小さな手】は守るべき人たちの手を取り続けるから」
「……いちいち燗に触る野郎だ。死ねぇええええええ!」
【万国の勇者】の叫びと共に魔導具が発動される。
その巨大な魔力の塊は、すべてを呑み込まんと勢いよく放たれ……一瞬で消えた。
「……………は?」
「やれやれ、古代兵器の紛い物など馬鹿なものを持ち出したものじゃのう」
現れたエルフの少女は、呆れたように溜息をつきながら地面へと降り立つ。
そして、黒髪のぼおっとした男に近づくと悪戯っぽく微笑みかける。
「嬉しいか? カイン、あの時助けてもらった大賢者のワタシがお前を助けてやるぞ」
「うん、ありがとう」
「はあああああああ!? 大賢者!? ボクの呼びかけに応えなかった君が何故!?」
「だって、お主、なんか気持ち悪い」
「うぐ!」
「それより早く奴らを倒すのじゃ! でないと……」
白い魔力の雨が降り注ぎ、黒髪のぼおっとした男とその仲間たちの傷は癒され、力が湧いてくる。
「これ、は……」
「あーあー、間に合いおった。あんなデカい胸があるから間に合わぬと思ったのに」
「小さなお胸の方が負け惜しみを言ってらっしゃいますね、お待たせしました。私の王子様。あの時のご恩を返すため、神聖王国軍を率いてやってまいりましたよ」
ふわりと笑みを浮かべながら金髪の美しい女性がこちらに向かって歩いてくる。
「はあああああああああああああ!? せ、聖女様! 何故!?」
「……なんかゴミムシの声が聞こえたような気がしましたが気のせいですね」
「な……!」
【万国の勇者】が目を吊り上げて迫ろうとする。
が、地面が大きく揺れ、地面が隆起し、吹き飛ばされる。
「あーもー、あやつもきおったか」
「……クソ邪魔虫共が」
エルフの少女と、聖女と呼ばれた女が小さく呟く。
そして、その視線の先には、紫の肌の女が一人。
「お~ほっほっほ! カイン! この魔王が態々恩を返しにきてあげたわよ! 感謝なさい!」
「ま、まおおおおおおおお!? くそ! なんでだ! なんで! ボクの欲しい女どもがみんなアイツの味方をする!?」
「カイン様」
ココルが呼びかけると、カインはにこりと微笑み、【小さな手】の紋章を掲げる。
「みんな、本当にありがとう」
「うふうふふふっふ、よいのじゃよ、もっと感謝を述べてもワタシの頭を思い切り撫でても」
「カインしゃん……また、お姫さまだっこを後ほどお願いします……」
「……手、握って、欲しいのだけど」
「全員寝言をぬかすなしね」
「「「はあ!?」」」
ココルが吐き捨てた言葉に三人そろって反応すると、カインは困ったように笑って、振り返る。そして、黙って膝を抱え泣いていた白い髪の女の子に向かって話しかける。
「大丈夫。この大地は傷つけさせない。この世界を守りたい君のお手伝いをさせてくれないかな?」
カインが差し伸べた手を少女はとり、立ち上がる。
「さあ、行こう! 俺たち【小さな手】率いる連合軍は、【万国の勇者】達を叩き潰す!」
カインが鍵盤に手を掛ける。
音が鳴る。
世界を守るための優しい音が。
そして、勇者を巡る物語が始まる。
お読みくださりありがとうございます。
これにておまけを含め本当に完結です!
そして、同じシリーズ、次回作『モテモテ勇者に貶められ国を追放された親切おにいさん「あの時助けて頂いた〇〇です」が揃って恩を返しにきて気づけば、大陸の英雄になってざまぁしていましたとさめでたしめでたし』に続きます。しばらくはプロローグのみ公開で、八月ごろから始めようかと……汗
また、その間よければ初のローファンざまぁ『俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。』とか、過去作とか読んでみてもらえるとうれしいです。
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