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四部39話 親切おにいさんは街から出ていきましたとさ

「いたか!?」

「いない!」

「くそ! 一体どこに行ったんだ!」

「探せ! 絶対に見つけ出せ!」

「お、おい、あんたらどうしたんだ? 慌てて。というか、こぞってみんな誰かを探してやがる。どうなってんだよ? おいらはマシラウから救援物資を届けに来たばっかりでなんも知らねえんだ」

「黒髪の男を見なかったか? ちょっとぼんやりした感じの」

「い、いや、見てない」

「見たら絶対教えてくれ! 絶対にだ!」

「わ、わかったけどよ……なんでそいつを? ああ、そうか! そいつが。この街を襲撃した鉄人形のかしらが差し出せと言ってた男なんだな! わかった! ちなみに、名は?」

「カインという名前だ。抵抗したら捕まえて逃がさないでくれ」

「分かったよ!」


男たちが駆けていく。

その遠ざかる足音を聞きながら、〔反射〕の魔防布を被ったカインはため息を吐く。


(捕まるわけにはいかない……俺は……)


ココルとのお別れの途中、カインを見て捕まえようと走ってくる冒険者がいた。

慌ててカインは逃げ出し、少しずつではあるが門へと向かっていた。


(ココルをあのままにしておくのは悲しいけど……)


ココルの傍には砕け散った核らしき魔石があった。

核にはカインではまだ理解できない古代術式がびっしり刻み込まれていたようで他の魔石に刻み復元することは不可能だろう。

せめてもの形見にと、その欠片と少しだけ白と黒の混じった髪を鍵盤の隙間に差し込んだ。


(行こう、バリィのところへ)


カインは街の人々に捕まらずともバリィのところへ行くつもりだった。

ただ、捕まってしまえば、ただただ連れていかれバリィに殺されるだけだろう。


一発だけでも殴りたかった。バリィを。


その為だけにカインは生きていた。

勿論、グレンやシア達、【小さな手】のメンバーは力を貸してくれるだろう。

けれど、彼らをただの復讐に巻き込みたくなかった。

命を捨ててほしくなかった。


死ぬ。


間違いなく死ぬだろう。

鉄人形は強すぎる。

カインのステータスでは真正面からぶつかればほんの一瞬で終わってしまう。


復讐を果たせないだろう弱い自分。

大切な人を取り戻すことも出来ない未熟な自分。

大嫌いな、自分。


それでも、自分が動かせるのは自分しかいない。


カインはそう言い聞かせ、重たい足をひきずりながら慎重に進む。

震える手を無理やり抑え、瓦礫を超える。

疲れと眠気でぼんやりとする頭を振って、必死に叩き起こす。



何がいけなかったのか。


なんでこんなことになるのか。


誰がわるいのか。


どうすべきだったのか。


だれのせいなのか。


もう考えたくない。


考えたくない。


かんがえたくない。



かんがえたくない。




かんがえたくない、






かんがえたくない








らくに、なりたい






瓦礫の山を転げ落ちる。


いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。


それでもやっとたどり着く。

恐らく誰も知らないだろう。

ラッタと内緒で空けた抜け道、に……。




目の前には、自分を見下ろすグレンがいた。

そして、その周りには【小さな手】の仲間たちと、レイルの街の人々が、こちらを睨んでいた。


「……な、んで?」

「こっちの台詞だ」

「ちゃん、と、バリィの、ところ、に、行く、から、通して、くれ、ないかな」

「断る」

「たのむ、よ」

「ふざけるな」

「ふざけてなんか、ない」

「どうするつもりだった?」

「刺し違えてでもバリィを、一発で、いいから、なぐりたいんだ」

「駄目だ」

「分かって、くれ、よ」

「分かんねえよ」

「なんで……なんでわかってくれないんだよ!」

「それはこっちの台詞だ!!!!!!!」


グレンはカインの襟を掴み、引き上げ睨みつける。

その瞳は涙で溢れていた。


「なんで、分かってくれないんだよ! カインさんっ! 僕たちは、カインさんの仲間じゃないのかよ! なんで……なんで……手を離そうとするんだよっ! 僕たちからも、命からもっ! そんなのいやだよっ!!!! ……おね、おねがい、おねがいだから、しんじてよ……信じてよっ!!!」

「グレン……」

「カインさん」


シアが微笑みながらこちらに歩いてくる。

襟を掴まれたままカインがそちらを向くと、


パシィン!


カインの頬に痛みが走る、

シアが平手でカインの頬を叩いていた。


「私は、怒っています。私たちを信じてくれない貴方に。そして、自分を信じられない貴方に。あの子を殺された怒りがカインさんだけのものだと思っていませんか? のぼせないでください。私だって怒っているのです。今の貴方は嫌いです」

「シア」


腰のあたりに抱き着かれ頭を擦り付けられる。きっとタルトだろう。


「うわああああああああああああああああああ! ああああああ! ああああああ! カインさんのばかぁあああああああああ! ばかやろうですぅううう!」

「タルト……」


左手を掴まれる。

見ると、レオナが悲しそうに微笑みながら治癒魔法をかけてくれている。


「カイン……アンタが思ってる以上に、アンタは愛されているの。みんな、アンタの力になりたいと思っているの。アンタの今までやってきたことは絶対に、絶対に無駄じゃないの。自分を信じなさい。そして、みんなを、アタシを、信じて」

「レオナ」


「ガインざんっ!!!!」


遠くから叫び声が聞こえる。

グレンの向こうにマコットが見える。

左の拳と頬を真っ赤にしたマコットが泣きながら叫んでいる。


「僕はもうっ! にげまぜんっ! だれがのぜいにしだり! まわりを理由にじだりじで、らぐなぼうにいっだりじまぜんっ! だがらっ! だがらっ! おねがいでずっ! 僕を……僕を、もう一度だけ仲間に、しでぐださいっ! お願いじます!」

「マコット」


ふと気付く。

腕に巻いた鍵盤があたたかい気がする。

気のせいと流すことも出来るだろう。

だけど、自分勝手に自分のわがままを押し付けてもいいのかもしれない。


「……ココル」


何処かの国の言葉で『此処にいる』という意味である彼女の名前を呼ぶ。


ここにいる。


ここにいる。


ここに。




「カインさん!」


ハッと気づくと周りにいる人々から声がかけられる。


「あの時助けていただいたズッハで! マシラウから飛んできました! 力にならせてくださいよ! いっちょやってやりますよ!」

「カインさん! あの時助けていただいた服屋だよ! みんな! 着替えな! ウチの服は頑丈で有名なんだよ!」

「あの時助けてもらった靴屋だ! 瓦礫の上で戦うならちゃんとした靴を履け! 戦いは足元からだ!」

「あの時助けてもらったあのおばちゃんだよ! みんな! お腹すいてないかい!? いっぱい食べな! 腹が減ってはなんとやらだ!」

「カインさんにあの時助けてもらった御者です! みなさん! 運びたいものは私に!」

「あの時助けてもらった運転士です! 重たいものならこっちに!」

「かいんにーちゃん、マーニャだよ! マーニャもおてつだいするよ!」

「にゃーん、にゃーん!」


人々が声を掛け合いながら繋がっていく。


「「カイン!」」


グレンから降ろされたカインが振り返ると、ルマン、そして、シキが冒険者や兵を引き連れてこっちを見ていた。


「あの時助けてもらったレイルの街領主として、レイルの誇りをかけてあのたすの英雄に力を!」

「あの時助けていただいた門番です。守ってみせます!」

「あのとき助けていただいた、この屋敷の使用人です。サポートはおまかせを」

「あの時助けていただいたメイドです! 跡形もなく綺麗してやりますよぉお!」

「あの時助けていただいた庭師だよ! 全部刈ってやらあ!」

「あの時助けてもらった調理師だ! 料理してやります!」

「わおーん。わおーん!!!」

「「「「「私たちも戦います!! !!!」」」」

「あの時助けていただいた領主の娘、ルゥナです。レイルの街をこんなにも元気にしてくださったあのたすの英雄様に恩を返させてくださいませ」


「冒険者ギルドレイル支部長、シキ! 冒険者たちからの要望及び【小さな手】そして、カイン、君自身のギルド貢献度を鑑みて、冒険者ギルドからの緊急指名依頼だ! カイン、依頼内容は『君を助けさせてくれ』だ。依頼を受けてもらえると助かる」

「レイル救出隊、隊長アントン! あの時助けていただいたあなたの為に力を尽くします!」

「レイル冒険者ギルドあのたす案件担当ヘルパ・サポ・イドガー含むギルド職員! あなたと支部長の為に全力で援護します!」

「レイル冒険者ギルドD級パーティー【緑の手】あのたすの英雄にあこがれて冒険者パーティーを作りました! よろしくおねがいします!」

「レイル冒険者ギルドB級パーティー【白銀の針】! 君たちの力にぜひならせてくれ!」

「「「「あのたす!」」」」

「レイル冒険者ギルド特別パーティー【小さな手】サポート部隊【小さな手伝い隊】隊長ジャニィ、副隊長マチネ、他10名カインお兄様のお手伝いさせていただきます」

「マシラウ冒険者ギルドから派遣されたA級パーティー【鉄槌】だ! あの時助けてくれた亀の娘、を助けてくれたあんたに恩を返しに全速力でここまで来たよ!」

「こほん、エフェシエさん、それだけではないでしょう。魔法使い、ソフィア及びマシラウ冒険者ギルドより可能な限りのパーティー。マシラウ冒険者ギルドを救ってくれたご恩、そして、私は個人的にもご恩を返すために馳せ参じました」


遠くからも声が聞こえる。

街を警備してくれている人たちがこちらに向かって叫んでいるようだ。

そして、三人の身なりの良い人たちがこちらにやってくる。


「ヌルド王国宰相、ハニキヌ。王に代わり、バリィと鉄人形の軍団を王国の敵として認め、お前たちの戦いを全力で支援しよう。そして、あの時、【灰かぶりの夜】に、助けられた恩を今、返そう。なあ、お前ら」

「は。魔剣士キルキル。【灰かぶりの夜】の恩、そして、」

「双剣使いミキル。我ら兄妹、あの時、兄を助けてくれたご恩、剣で生きる道を与えてくれたご恩はこの剣で必ず返して見せます」

「うむ! その通りだ! 全裸で、間違えた全力で返して見せよう!」

「お、王!? あんたなんでここに! あんた弱ってるんでしょうがああ!」

「そうなのだ。この包帯外していいか。やはりこういうのを巻かれると調子が……」

「あんたの大怪我を治すために巻いてるんだよ! 絶対脱ぐな! 馬鹿王!」

「まあ、あまり気にするな! はっはっは!」

「カインヌ!」


ヌルド王の頭に一匹の巻き毛白鼠。


「ラッタ」

「すまん! 私が光るじいさまに呼ばれている間にこんなことになってるとは! でも、その光る白いじいさまも言っていたぞ! 『助けることで助けられる、助けられることで助ける』とな! 意味は分からないが!」

「ワシもわからん!」

「「あっはっは!」」


カインは、わらった。

そして、大きく息を吸い込んだ。


すぅーっと息を吸い込む。

少し焦げているが、レイルの街と、鉄の匂いがする。

そして、カインは思い出していた。


『彼女』との会話を。


『俺を、助けに……?』

『はい』

『なんで?』

『貴方に助けられたからです』

『こんな俺を?』

『あなただからです』

『俺なんて』

『なんてじゃありません。貴方は頑張ってきました』


みんなが今、カインをみていた。

カインの言葉を待っていた。


『私は知っています。見てましたよ、貴方の頑張りを』


やめてくれ。やめないで。

やめないでもらえるようがんばろう。


『あなたは、がんばっています。』


嘘だ。本当だと言ってくれ。

本当にするんだ。


『あなたは、すごい人ですよ』


ありがとう。


「みんなっ!!!! 俺を! 助けてくださいっ!!!」


その時、エーテの青白い暴力によって揺れたレイルの街が再び揺れた。


「「「「「助けさせてくださいっ!!!!」」」」」




朝が来る。

鉄人形の軍団が軋む音を立てながら、やってくる。


レイルの街の壊れた正門の前にはカイン一人が立っていた。


『カイ~ン、無様だな。あんだけ頑張っても、誰もお前を助けてはくれないんだな』


鉄人形の身体からバリィの声がする。

【遺物の工場】からスマートマホーンのような何かしらの魔導具でこちらを見ながら話しかけているのだろう。

間違いなくバリィの声。

いやらしく、舐めるような声。


「バリィ」

『なんだ、今更謝っても、もう遅いんだよ。ざまぁみろ、糞が!!』

「ヌルド王に代わり、ヌルド王国代表として、カイン=テラーがお前に宣言する」

『は?』


カインは、ヌルド王から与えられた王家の紋章付きの剣を掲げる。


「お前を王国の敵とし、レイルの街の全勢力を持って、お前を倒す!」

『てめえ、いや、てめえら! 何言ってるかわかってるのかぁあああ!?』

「お前と戦う! そして、俺達が勝つって言ってるんだよ! バリィイイイイ!」

『カイン! くそ△◆×〇×が×▼て〇〇っ……!!!!』


レイルの街が三度揺れる。


鬨の声が上がり、バリィの汚い罵詈雑言をかき消す。


カインは白と黒の混じった髪を隠した鍵盤を叩き始める。


(ここに、いるよ)


緑の淡い光が輝き始め……カインとバリィの最後の戦いが始まった。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。



ようやくラストバトルです……完結まで書ききります、がんばります……!

よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


よければよければ、他の作者様の作品も積極的に感想や☆評価していただけると、私自身も色んな作品に出会えてなおなお有難いです……。


いいね機能が付きましたね。今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!

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