四部35話 鉄人形たちに追い詰められましたとさ
「な、な、な……!」
レイルの街の門番、ゲトは目を見開いていた。
ココルが無表情のままレイルの街の外壁正門に物凄い勢いで駆け込んできたからだ。
「こ、ココルさん! どうされましたか!?」
「敵襲です。敵は四方からこの街を狙っています。鉄人形です」
「え、エーテが!? なぜ!?」
「理由はあとです。とにかく、各所に連絡を」
「か、かしこまりました」
レイルの街において【小さな手】のメンバーの発言は絶対に近い。
ゲトは慌てて周りに声を掛け、警鐘の手配などを始める。
その間にココルはスマートマホーンに魔力を込め、タルトを呼び出す。
「ココルです。タルト、敵襲です」
「タルトです……! ココルさん、そのよう、ですね!」
「そこにもいるんですか?」
「北門からの侵入者は、ワタシとシアさんを中心に対応しています! 西は孤児院にいたグレンさん、レオナさんが! 東にはマコットさんがあたってます! 南門というか、南側はカインさんと、あのアーヴェって人ですよね?! 大丈夫なんですか!?」
「大丈夫、だそうです」
「ほ、本当ですか!? ほぎゃあ! す、すみません! こちらも厳しくて……一度こちらに、集中しますので援護できません。恐らく、館からも援護が来るはずです。とにかく、粘ることを意識してください」
「分かりました」
スマートマホーンの魔力線が途切れる。
「こ、ココルさん! カインさんが戦っているって……」
「下がりなさい」
「へ?」
「しにますよ?」
ココルがとんと地面を蹴って後ろに下がる。
その瞬間、何かが落ちてくる。
岩と金属のぶつかる音が門番たちの耳を傷めつける。
土煙が消えると、そこにいたのは地面に拳を叩きつけこちらを見つめるエーテだった。
「さっきのとは違う個体のようですね……まだカイン様は死んでいない。となると、別働隊ですかね。さっさとくたばりなさい。私はカイン様を助けに行くのです」
ココルは右腕から無数の銀の触手を取り出し身構えた。
しかし、エーテはココルに見向きもせず、周りに控えるゲト達を狙う。
「なるほど、無差別に殺すことが目的ですか。させません」
ココルがエーテの行動を見抜き追いかけようとしたその瞬間、エーテの首が百八十度周り
ココルを見つめ、そして、エーテの拳がココルを捉え、拳と銀の触手がぶつかりあい、金属音が鳴り響く。
「ぐ、があ……はあっ、はあっ!」
「グレン、大丈夫!? 今、治療を!」
「んなもん! 受けてる暇がねえよ!」
グレンは苦境に立たされていた。
右腕には大きな傷が、額も裂け血が止まらない。
ここまでの深刻なダメージを久しく受けていなかったグレンは動揺していた。
そんなグレンを構うことなくエーテは子供たちに狙いを定め、攻撃を続ける。
「だから! てめえの相手は俺だって言ってんだろうが!」
グレンが攻撃をしようと近づくと、エーテは即座に飛びさがる。
「くっ、そ!」
先ほどからこれの繰り返しであった。
グレンやレオナを狙わず、周りを攻撃。
グレンたちが近づけば逃げ、少しでも隙が出来ればカウンターを決める。
グレンにとって初手を読み違えたことが大きな失敗だった。
向かい合う敵がまさか自分に背を見せると思わなかったグレンは、一瞬戸惑った。
その戸惑いの刹那、エーテはジャニィに向かって跳びこんでいった。
グレンは、背を向けてまで子供を狙う行動が理解できなかったが、慌てて行動不能にすべくエーテの背中を狙った。
その時、エーテは身体を捻り、グレンに攻撃を切り替えた。
グレンにとって別が狙いと見せかけて攻撃するのは予想の範囲内だった。
ただ、少しの混乱により頭から抜けていたのは、エーテが人形であること。
グレンの炎を纏った拳は身を捻じったエーテの脇腹を貫いた。
エーテはそのグレンの腕を穴の開いた身体で挟み込みねじ切ろうとしたのだ。
咄嗟に蹴り飛ばし、腕がなくなるという最悪の事態は避けられたが腕はズタズタとなる。
そして、更にエーテは再び子供たちに攻撃を仕掛ける。
罠であったとしてもグレンは跳びこまざるを得ない。
一方、レオナもエーテがほかの人間に手を出さないよう守るため、なかなかグレンの治療が出来ないまま、牽制程度の攻撃しか出来なかった。
(アタシに、もっと、力があれば……!)
(くそ! 攻撃が、届かねえ……!)
街の人々を人質にとられながらの戦闘はじわりじわりと不穏な空気を漂わせながら続く。
東側では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
「みみみみなさん! その……!」
「マコット! 大丈夫だ! お前は、後方から支援してくれればいい!」
レイル救出隊のリーダー、アントンは、マコットに向かって叫ぶ。
ただし、目は離さない。
目の前の凶悪な鉄人形からは。
レイル救出隊を含めたギルドの冒険者達が、エーテと激しい戦闘を繰り広げていた。
前衛は交代しながら、エーテを囲み、回復を受け、を繰り返している。
後衛は魔法や弓矢による攻撃でエーテの鉄でできた身体を少しずつ削る。
アントンの指示のもと冒険者たちはシンプルながら確実な戦法でエーテを削っていた。
マコットもまた、後方で魔導具を使いながら支援していた。
しかし、相手はエーテ。
削れるとはいえ、古代文明が生み出したその身体ではわずかずつ。
そして、ステータスでは上から数えた方が早いバリィのステータスを持つエーテの力は、少しずつではあるが冒険者組を崩していった。
(まずいまずいまずい! こんな時タルトさんなら! グレンさんなら! カインさんならどうする!?)
マコットは考えた。しかし、悲鳴が、破壊音が、彼の思考を邪魔する。
「くっそ! アントンさん! デカいのを撃ちます! 援護を」
「分かった! 全員、耐え抜け! 時間を稼ぐんだ!」
マコットの魔力の高まりを感じてかエーテの動きが激しくなり始める。
それに合わせ、冒険者たちも力を振り絞る。
東側の決着は近づいていた。
北門では、シアと十数人の警備兵がエーテと向かい合っていた。
幸い、北側には人があまりおらず、更にタルトの指示もあり、避難は素早く行われた。
我が身を顧みないエーテの攻撃は、シアやタルト達を驚かせたが、タルトの策、シアの魔力によって、じわりじわりと確実に力は削られ、勝利は目前に見えていた。
足は砕かれ、右腕も凍り付き、左腕でなんとか支えているエーテを見据えながらシアは構えを崩さなかった。
「ふう……本当に硬い身体だったわ。時間が勿体ない。とどめよ」
「え……?」
シアがエーテに攻撃を仕掛けようとした瞬間、タルトは見た。
エーテが残る左腕で地面を掴んでいることを。
身体を軋ませ、エーテは自分自身をタルトに向かって飛ばす。
生き物としてあり得ない動きにタルトの反応は遅れ、更に敏捷性のステータスが低いタルトは逃げ損ねる。
タルトにボロボロのエーテの左手が伸ばされる。
それを止めたのは、驚くべき反応速度で追いついたシアだった。
自身の右腕を差し出し、エーテに掴ませる。
「シアさん!」
「ぐうう! 大、丈夫!」
右腕の痛みを堪えながらシアがエーテを睨みつけると、エーテの身体には術式が浮かんでいた。
「魔法?」
「この至近距離で、そんな!? シアさん!!」
エーテの胴体がより強く光り輝き、そして、おさまる。
「え?」
攻撃を覚悟し目を閉じてしまったシアが次に見たのは鈍く光る岩のような魔力の膜に包まれたエーテだった。
「やーやー! 間に合ってよかったよー! ねーダムー!」
「ああ、間一髪だったな……」
甲高い声と重く低い声が朝のレイルに響き渡る。
深緑色の前髪でそれぞれ片目を隠した二人の少年がこちらに向かってくる。
「ディーさん、ダムさん……!」
「魔導具『寡黙な貝殻』―! 何の魔法かわからなかったけどこれで放てないよー!」
「白雪鬼……! 今のうちに……!」
「ええ!」
シアは、氷の剣を振り下ろしエーテの腕を砕く。
「し、シアさん! 大丈夫ですか!?」
「……タルト、落ち着いて。それより、助かりました、お二人」
「なんのなんのー! 森人族のディーとダムはみんなの味方さー!」
「それより、助けに来るのが遅くなりすまない……」
「ああー! いや! 助けに来てくれたのはありがたいんですけど! いいんですか!? お二人は、ヌルド王の傍にいたのでは!?」
タルトが顔を真っ青にしたまま尋ねる。
すると、二人は気まずそうな顔を見合わせる。
「いやー、なんというかー」
「王が、助けに行くと飛び出してしまってな……一応、全ての門に護衛組が向かっているんだ……」
「「え……えええええええええええええええええ!」」
レイルの街から離れたカイン達は苦戦を強いられていた。
カインは膝をつき、アーヴェは見るも無残に砕かれていた。
『はっはっは! ステータスの差が露骨に出たな! カイン! 俺の勝ちだ!』
「まだ、負けて、ない……!」
『その通り』
アーヴェが突然飛び上がり、エーテに抱き着く。
アーヴェの腕、両足、頭がそれぞれ輝く。
『じゅにまじわり紅くなれ。剋、剋、剋裏、濁り交わり混じれ念じるおんがえし』
光はぐるぐると混ざり濁り、エーテの身体の中に溶け込んでいく。
そして、エーテの動きが鈍くなる。
『カイン、核は右胸だ。慎重に狙え』
「う、ん!」
カインは鍵盤を叩き出来る限り硬い金属を生み出し、エーテに迫る。
『や、やめろぉおおおおおお! ……なぁあんてな』
アーヴェの放つ濁った魔力が一瞬で消え失せ、エーテが恐ろしい速さで動き出す。
『一発では殺さねえ! ただ、死ぬほど痛いぞ、覚悟しろ! カインンンン!!!』
エーテの拳がカインに迫る。
ごぎ、と何かが折れる音がする。
カインはその音が自分の身体から生まれたものではないと気づき周りを見る。
すると、目の前には、裸の男が、いた。
「間に合ったようだな! カインよ!」
裸の男は振り返る。
何も隠そうとせずに。
いや、正確には股間と尻だけは隠れていた。
あとは丸見えだった。
「ヌ、ヌルド、王……」
「うむ! あの時助けてもらった裸の王、ヌルドが助太刀するぞ! カイーン!」
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完結まで17話かもしれないしじゃないかもしれないですがそのへんです!
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