四部25話 気合だけ貴族様はおちましたとさ
「な、なんと……あの【魔導騎士】が世界を変えると断言するほどの術式が込められた靴でしたっ! これは驚きモモの木、歴史の転っ換っ期っ!!!」
モモの言葉で再び会場が揺れる。
「だ、だが! 不死鳥の貝殻部門は最新の技術でおじゃろう! たかが靴が……」
「鉄人形は確かに今の先端だ……だけど、新術式は、未来、つまり、魔工技師の新たな最先端を作り出した……!」
食い下がるイシシカアランをダムが一蹴する。
「それに、『走らない靴』というのも良い。不死鳥の貝殻と同じように矛盾したものだ。お前が言った言葉だぞ、イシシカアラン」
「ぐぬぬでおじゃるべっ……!」
「モエ~!」
「で、出ましたっ! インフさんの、『もう大変、何が大変かって説明できないくらい心が大変なくらいエエ~!』、略して、『モエ~!』ですっ!!!」
インフが興奮で震え絶叫し暴れ始め、イシシカアランを引っ掴むと、モモがその姿を隠すように立ちはだかり説明する。
更に慌てて大会関係者がインフを隠し、イシシカアランが白目を剥いたまま引きずり出される。
「流石! カインさん!」
「本当、流石ですね……」
「うまいうまい!」
あのたす孤児院の子供たちの傍で応援していたシアやタルト、ラッタが思い思いの感想を話す。
最もラッタは会場で売られているあのたす弁当の感想であったが。
「なによ、タルト、不満そうな声出して……」
「いや、【小さな手】が活躍するのはうれしいんですよ。ただ、ただ……ただですよ! あのカメ人形ちゃんがかわいそうで!」
タルトが涙を浮かべ、シアに語っているのはオトモイ組のカメ人形だ。
「あのカメ人形すばらしい素材で作られていますし、審査後に付け加えられた運搬能力の高さ! もっと評価されていいはずなのに! あのへんな貴族のせいで! ああ、かわいそすぎます~!」
「あなた、カメに感情移入しすぎじゃない?」
「まあまあ、タルトねえちゃん、マァマ先生のお菓子でも食べなよ」
「ねえちゃん!? そ、そうですね……ねえちゃんはお菓子でも食べて落ち着くわ……ありがとう、ラギ」
孤児院のラギにお菓子をすすめられて、タルトは頬を緩ませる。
タルトは、【小さな手】メンバーの中で、ラッタを除き最も小柄で子ども扱いされていた。
なので、あのたす孤児院でおねえさん扱いされるのが大好きで、レオナ・カインに続き最も孤児院に足しげく通っていて、子供たちとの仲もとてもよい。
「あ、これ、おいしいです! いや、おいしい、わね」
「うふふ、ありがとう。タルトお姉さん」
孤児院長マァマがタルトに笑いかける。
「でも、本当によかったのかしら。この席って結構いい場所なのよね?」
「いいんですよ、マァマ院長。カインさんのお願い、なんですから。是非コンテストを見て、魔工技師になりたいって思ってくれる人が増えたらっていう」
シアは柔らかく微笑みながらマァマに答える。
シアは喜んでいた。
最近、カインにも欲というものが出てきたと感じられてきた。
カインが自分を認めてくれる存在がちゃんといることを認識したことで自己評価が上がったこと、マチネが魔工技師になりたいといったこと、そして、小さな手の女性陣から好意を向けられていること、それらが『自分なんて……』とひたすらに低い自己評価をしていたカインに、少しばかりの欲を持たせるようになった。
「あとは性欲ね」
「シアさん、心の声が漏れてます。子供たちの教育に良くないので黙ってください」
「うわああ! すげえ! 見て見え! マチネのところのヤツ! あれ!」
小さく握りこぶしを固めるシアに冷たい視線を送るタルト。
そして、聞こえていない子供たちが会場の方を指さし騒ぎ始める。
「出ましたっ! 審査員の評価は49点っ! 最高得点っ、そして、本選暫定一位ですっ!」
高得点に会場が再び沸く。
「な、なんということでおじゃる……麿のカメ人形が結局9位……」
「ええいっ! 認めぬ認めぬぞっ! 新術式がなんでおじゃる! そんなたかが靴如きが麿の鉄人をこえるはずが!」
「あー、足と手がすべったー」
カメ人形を連れ救護室から戻り結果を見て崩れ落ちるオトモイの前を通り抜け、暴れて駄々をこねるイシシカアランの振り回す腕をすり抜け、棒読み無表情のココルがイシシカアランの頭にあった帽子を奪う。
「あ! 麿のエエ帽子を! か、返せでおじゃる!」
ココルがスイ~っとイシシカアランから逃げながら、周りの魔導具や人を避け、勢いよく鉄人に向かって突っ込んでいく。
そして、手前にあったオトモイのカメ人形の背中の甲羅を土台に高くジャンプし、鉄人の肩まで上がりきったココルは、エエ帽子と言われたソレを鉄人の頭にのせ、肩を蹴り音もなく滑らかに着地する。
その〔流動〕を活かした美しい跳躍に会場は盛り上がる。
「盛り上がるなでおじゃる! というか、なにをするでおじゃる! く! 麿の、エエ帽子! ええい! サメ!頭を下げさせるでおじゃる!」
「いやあ、イシシカアラン様、あの鉄人にそういう機能はないですぜ。とにかく大きければいいって言ったのあなたですよ」
イシシカアランがサメに嚙みつくが、サメは呆れたように声を吐き出す。
「うぐぐ……もうよいでおじゃる! 麿が自力でとるでおじゃる!」
「ちょっ! ちょっと、イシシカアランさん! 次の部門を始めたいんですけどっ!」
「エエ帽子、麿のエエ帽子!」
「ふぅ~、モエ散らかした~。って、あら、アレってウチの商品じゃ……」
「そう! 知性ある男にふさわしいエエ帽子でおじゃる! インフ殿! この帽子の似合う麿こそ、麿こそこのコンテストの優勝者にふさわしいのでおじゃる~! 見ててくだされ~!!!」
虫のように手足をシャカシャカ動かしイシシカアランが鉄人に上っていく。
飾り付けすぎた服装で重みはあったが、勢いもありすぐさま頭まで到達する。
が、イシシカアランは気づいていなかった。
カインやカインの魔導具を馬鹿にしたものをココルは絶対に許さないことを。
そして、ココルが踏んだ鉄人の方には〔流動〕の魔力が付与されたままであることを。
「ぬぐぅうううう! も、もう少し……! あ!」
イシシカアランの口から声が漏れたその瞬間、鉄人から手が離れ、イシシカアランは地面へと落ちていく。いや、地面であった方がよかったのかもしれない。
「ああああ! 麿の、カメ人形、に……」
オトモイの鉄のカメ人形にイシシカアランが落ちていく。
ぼぼぼぎい!
嫌な音を響かせて背中から落ちたイシシカアランが甲羅に沿うようにだらりと寝転がっている。
「コエ~(これは流石に引くレベルのエ~の略)……ま、ウチの帽子、似合う、っていうか着せられてる感がすごくね? 帽子買ってくれたのはありがたいけど、中身が伴う努力をしなきゃ結局格好悪いでしょ?」
そして、その格好悪いイシシカアランは口から泡を吹きながらそのまま運ばれ、白のゴブリンズは棄権。
「カメはいい仕事をしましたね」とはタルト談。
繰り上がりでオトモイが暫定八位に。
そして、『神亀の器』部門へとコンテストは続いていく。
「通してください! 通してください!」
カメ人形の上にイシシカアランを乗せて、救護室にコンテスト関係者が駆けていく。
そもそも救護室は対戦形式である『竜の頸の玉』からが本番だと想定され、回復魔法担当は会場から離れ休憩していた。
それが遠方の国とはいえ貴族が二人も立て続けに運ばれることになりてんやわんやになっている。
「あの、私、回復術師です。応急処置だけでも行いましょうか?」
そこに声がかけられる。振り向くと、美しい回復術師の格好をした女性がいる。
「ほ! 本当ですか!?」
「ええ、困ったときはお互い様です」
女性は微笑むと、付き添いながら回復魔法をかける。
口から泡を吹き真っ青な顔をしていたイシシカアランの顔色は徐々に良くなっていく。
そして、ふと目を覚ます。
「う、うう……麿は……あ! お主は……」
「イシシカアラン様、先日はどうも……。ですが、今は、ゆっくりお休みください」
「え……?」
女がイシシカアランの顔に手をかざしどけると、目を閉じだらしない顔で眠っているイシシカアラン。
「あ! ありがとうございました! お知り合いだったのですね」
「ええ、それで、他の方たちとも会えればと思いやってきたのですが、皆様はどちらに?」
「参加者の方々はまだ会場にいらっしゃいます」
「あら。では、どうしましょう……そうだわ、ヌルド王様やルゥナ様はどちらに?」
「そのお二人でしたら、王国の方々と一緒にお部屋でご歓談中かと。トーナメントから王のご登場予定となっておりまして、おもてなし役にルゥナ様が」
「……そうですか、では、またあとにしましょう。少し時間を潰していますわ」
女が去っていく。会場の方から歓声が上がる。
「盛り上がってるわね。カイン、もっともっと盛り上がって、もっともっと注目されなさい。それが、あなたの役割」
女は盛り上がる会場から背を向け反対方向へと歩いていく。
静かなその道は靴の音だけがやけに響いていた。
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イシシカアラン退場……ですが、よければお付き合いください……!
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