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四部14話 あばれんぼうお姉さんはデートをしましたとさ・中編

レイルの街の住居区の隅にある畑付きの大きな家。


そこは元々一風変わった魔法使いが住んでいた。

しかし、ある日のこと。


「あの時の約束を果たす日が来た」と、荷物を纏めて出て行ってしまった。


そして、魔法使いの家は、平民が買うには高く、貴族や商人が隅には立地が悪く、長らく放置されていた。


その土地を買ったのがレイルの街で有名な『あのたす』の英雄だった。


彼はその土地を買うと、孤児院に作り替えた。

孤児院には、レイルの街の孤児院の人々が移り住んだだけでなく、マシラウという近くの港町の孤児達も連れてきた。


そして、あのたすの英雄は冒険者ギルドと連携し、『あのたす案件』のFランク以下の依頼については孤児院の子供たちが代わりに引き受けるように手配した。


『あのたす案件』はあのたすの英雄に助けられた人々、そして、それを聞いて心動かされた人々があのたすの英雄に恩返しをする為に指名依頼をするというものだった。

余りにも依頼者が多いため、冒険者ギルドでは『あのたす案件』という専門用語までできていた。


そして、Fランク以下は、恩返しの為に作ったような簡単なお手伝いのような内容が多かった。それを本来冒険者登録しなければ受けられない依頼をあのたすの英雄が所属するS級パーティー【小さな手】が責任者となり孤児院の子供にやらせるようになった。


あのたすの孤児院の子供たちは、孤児院の長とマシラウの聖女、そして、【小さな手】によって、正しく賢く強く鍛えられた。

なので、どんな依頼も一生懸命こなす為、Fランク以下の依頼がどんどん増えていくようになった。

特に孫が欲しいおじいちゃんおばあちゃんには大人気で、時々養子に誘うものもいたくらいだった。


そして、孤児院の子供たちはレイルの街では『あのたすっ子』と呼ばれかわいがられるようになった。


孤児院の子供がここまで街に受け入れられるのは異例中の異例であり、そこには、レイルの領主ルマンや冒険者ギルド長シキの能力もあったが、なんといってもあのたすの英雄の人気があったからこそといえる。


「あのたすにーちゃん! 戦い方教えてくれよ! 戦い方!」

「俺は、弱い、から、教えても、あまり、参考にならない、かも」

「でも! グレンのアニキはあのたすにーちゃんが一番強いって!」

「おれもきいた! グレンのアニキ言ってた!」

「だめなの! カインおにーさんはあたしたちといっしょに魔導具の布をつくるの!」

「そうそう、ちょっと男子―! どっか行ってなさいよ!」


そんなあのたすの英雄は子供たちに引っ張られ困っていた。


「こらー! アンタ達! カインに迷惑かけちゃダメでしょ! 特に、ジャニィとラギ! 今日は、魔導具作りを教えて貰うって話だったでしょうが!」


レオナがプリプリしながら白髪と緑髪の少年をしかりつける。


「でも! まだ時間じゃないだろ! 30分もあるんだからいいじゃんか!」

「そうそう、はやくきちゃったカインにーちゃんがわるい!」


30分早く来てしまったのは、二人があまりにも早く待ち合わせ場所に来てしまった為なので、少し言葉に詰まる。

特にレオナは、顔を真っ赤にしてぐぬぬと唸っている。


「早く来てくれた分だけ早く教えて貰えばいいでしょ。アンタ達今度の魔導具テストで落第したら依頼受けられないのよ?」

「がーん! そ、そうだった!」

「たすけてー! カインにーちゃーん!」


赤髪の少女が呆れたように放った言葉に衝撃を受けた少年二人は瞳を潤ませながらカインに教えを乞い始めた。


「ありがとう、マチネ」

「う、ううん……気にしないでください。カイン兄さまがそう言ってくれるだけで私はうれしいんですから」


赤髪の少女はレイルの生まれでもマシラウの生まれでもなかった。

ある街に【小さな手】が訪れた時に助けた少女だった。

元の名前があったのだが、その名を捨てマチネという名で生きることを決めた少女だった。


「そう、いえば……グレンの大盾。すごく、好評、だよ」

「本当ですか!?」


グレンは最近、大盾を使い始めた。

【小さな手】の前衛が、機動力重視のメンバーが多く、後衛を守るために最も防御系のステータスが高いグレンが選ばれた。

そして、とられた方法が大盾魔法使いだった。

大盾を構え相手の攻撃を引き受け、隙をついて盾から身を出し魔法で攻撃をするというものだった。

あまり最近では使われない方法だったが、【小さな手】では意外にハマり、グレン自身も気に入っていた。

そこで重要となってくるのが大盾だった。


なかなか売られているものではグレンにしっくりくるものがなく、最終的にカインが制作することになった。その時点で、シアとココルがグレンにちょっかいを更にかけ始めた。

グレンの炎を最大限活かせる大盾ということで、盾を何枚かの魔導金属と硬い金属を重ねて作られたその盾は表面にいくつかの穴が、側面には溝があり、魔力を込めると炎が吹き出し、炎を壁を作り出すことが出来る。

そこに、カインを尊敬し魔導具の勉強を熱心にしているマチネが裏側にも穴をあけることを提案した。大盾の裏、外側に沿って空けられた穴は炎を吹き出すことで盾を構えたまま移動することを可能にさせた。

マコットデザインの真っ赤な鬼の面のようなその大盾、『シュテン』はその見た目も相まって冒険者達を震え上がらせた。


「カイン兄さまとの合作が、うれしいです!」


マチネが感動してカインに抱き着いてくると、カインは困ったような笑顔を見せたが、その後、カインは鬼の顔を見つけてしまう。

いや、正確にはレオナだった。

笑顔にもかかわらず、背後にはグレンを超えるような轟炎が見える、気がした。


「さ、さあ、始めよう、ね」


名残惜しそうに離れるマチネだったが、魔導具の話を今から始めるとなると慌てて準備をし、一言一句逃すまいとカインの言葉を待った。


「鼻の下、伸びてたわよ」


レオナがすれ違いざまにぼそりと呟く。

背後の炎がごうっと燃え上がったように見え、カインは慌てて身構える。


「あのたすにーちゃん何してんの?」

「おほほ、そうよ、カイン、さっさと授業を始めてあげなさいな」

「は、はい」


孤児院では長である女性とレオナによる社会に出てお金を稼ぐための方法をマシラウでは教えていた。ここでは、【小さな手】のメンバーが、手の空いた時に授業を行うようになった。

シアは礼儀・マナー・言葉遣い(あと、時々木登り)を、グレンは魔法・格闘・戦闘一般(主に護身術)を、マコットとカイン・ココルは魔導具について、タルトは道具に関する様々な知識を教えていた(ラッタは貴族の嗜みおいかけっこを教えていたらしい)。


「みなさん、そろそろお昼にしましょうねぇ」

「マァマさん……もう、そんな、時間、でしたか」


孤児院の院長であるマァマがお昼の時間を伝えにやってくる。

それに歓声をあげた子供たちは、孤児院の中に駆け出してこうとするが、


「そのまま行ったら……どうなるか分かるわよねぇ」


マァマの静かな言葉に、子供たちはぴたりと足を止め、手洗いをしにスススと早歩きで移動を始める。


「うふふ……よろしい、カインさんもよかったらどうぞ」

「あり、がとう、ございます」

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。……マシラウを離れなければならない時はなんともいえない気持ちでしたが、本当に良かった。貴方のお陰です」

「いえ、そんな……」

「必ず、必ず、この御恩は……」

「いえ、気になさら……」

「レオナが嫁いで返しますのでぇ」

「ずぶっふう!」

「マァマ!!!!!!」

「うふふ~、ゆっくり二人で歩調を合わせて、ゆっくりお昼食べに来てくださいねぇ。ああ、でも、真昼間からはやらかさ」

「マァマー―――!!!!!」


うふふと微笑みながらマァマは去っていく。


「もう! あの人は、もう!」


昔の話を、カインと出会ったときの話を何回も、いや、何十回もしているレオナからしたら、マァマには心臓を握られているも同じだった。


「でも、良かった、の?」

「……え!? 何が!? とつ……」

「『お願い』。もちろん、いや、な訳じゃない、けど、いつもと変わらない、ような」

「いいの。アタシがお願いして、カインが来てくれるのが大事なの」

「そう、なんだ」

「なんせこの院でも油断ならない子がいるからね……!」

「レオナ……?」


カインには何故か勝ち誇ったように微笑むマチネの幻影が見えたが気のせいだろう。

そして、ふと風が吹き、レオナが静かになる。

カインは空気が変わった、そう思った。

そして、レオナが振り返る。

真剣な表情をしたレオナが。


「カイン……あの時ね、アンタが【遺物の工場】で地下に閉じ込められたとき、アタシは祈ったアノー神様に、アンタの無事を……そしたらね、アノー神様の声が聞こえたの」


―彼は戻ってきます。必ず。まだ、わたしに出会っていないのだから―


「って……」

「え?」


カインには意味が分からなかった。


神と出会う?


俺のようなしがない魔工技師が?


何故?


そして、何故神はそんなことを?


「カイン、多分、たぶんね、あなたは、導かれる、神に。そして、とてつもない運命の渦に」

「……」

「アタシは……アンタを助ける。アンタがアタシを助けてくれたように。アノー神様は、アンタを必要としてる。アタシは多分そのために選ばれたのかもしれない。それでも、それでもいい」


レオナがカインの両手を握り祈るように額をコツンと当てる。


「アンタを助けられるなら神にこの身を捧げてもいい」


その瞬間、ぽうっと握り合った手が輝いた気がした。


―カイン、あの時助けてくれたあなたの為に―


声が聞こえた、気がした。

ふわりと風が吹き、何かがとんでいった気配がしてカインは空を見上げた。

青い空が、輝く太陽が、漂う雲が、其処にはあった。

それしかなかった。


「で、でも、できれば身を捧げるのはア、アン……の方がぃいん、だ、けど」

「え? ごめん? なんて言った?」


ぼーっとしていたカインがレオナを見る。

そこには、鬼の面があった。


「カインのばかぁああああああ!」


鬼をレオナに戻すのにひどく時間がかかったカインは大分遅めのお昼となってしまったのだった。


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