SS16 白雪の姫の自慢話
時間が……! 最後のココルとの話が書きたかっただけの小さな話です。
シアとのデート回後のおはなしです。
タルトの場合
「それでね、カインさんがね、『シアみたいになりたいと思う』……って、うふふふ……って、聞いてるの? タルト」
頬を桃色に染めながら上機嫌に笑うシアは、俯いたままのタルトに話しかける。
「う……!」
「う?」
「う……!!」
「う?」
「うるせーですよ!」
タルトが大声を上げながら立ち上がる。
しかし、シアはそれを気にせず呆れたようにタルトに話しかける。
「いや、貴女の方が五月蠅いから」
「はあ!? いや、はあ!? はあ!? はああああああ!? 何言ってんですか、この人! 何言ってんですか、この人!」
「二回も言わなくても聞こえてるわよ」
「大事なことだから二回言ったんですよおおおおお!」
「は?」
タルトが肩で息をしながらシアをじとーっと見ている。
「今、ワタシが何をしてるかシアさん分かってます?」
「私の話を聞いている」
「それは無理やりのほう! 今、ワタシは! 魔吸草をすり潰すという作業をしているんですよ!」
「じゃあ、それやめて」
「馬鹿ですか! アナタは!?」
「この前のデートの話の続きね、カインさんがね……」
「ああー! もう! 馬鹿だ! この人! 色馬鹿! バカ! もう、ばか……ですねえ」
タルトは小さく溜息を吐くと、作業の手を止め、シアの話を聞きながら時折頷く。
シアは【遺物の工場】から戻ってきてからは、何かあるとタルトに一番に話に来る。
シアにとってそんな存在はカイン以外で初めてで、タルトにとってそんな存在は【竜の宮】を出て以来初めてだった。
無邪気に身振り手振りを交えながら楽しそうに話すシアをタルトは優しい目で見つめていた。
「あ、そういえば……」
「なんです? シアさん?」
「さっき、散々馬鹿って言ってくれたわね……」
絶対零度の微笑みを浮かべるシアの顔の手前に彼女の白い手がある。
白く輝く冷気がタルトに向かって薄く広がる。
「ほんぎゃああああ! 凍る! 凍ってる! 氷山亀が出来上がってしまいますからぁあああ!」
レオナの場合
「それでね、カインさんがね、『シアみたいになりたいと思う』……って、うふふふ……って、聞いてるの? レオナ」
「き、聞いてないわよ! アンタが勝手に一人で喋ってるだけでしょ! ま、まあ、好きに話せばいいじゃない、私は全っ然興味ないんだけどね!」
シアはレオナの様子を見てふっと微笑み再びカインとのデートの思い出を語り始める。
一方、レオナは孤児院関連の書類を書きながら耳を澄ませた。
シアとカインのデートは彼女にとって、不機嫌の種でもある。
ただ、恋愛話には物凄く興味がある為、ついつい耳がそちらを向いてしまう。
そして、思わず、書類に、シアとカインのデートで羨ましいポイントをメモし、レオナにとっての理想のカインとのデートプランを書いてしまう。
「へ~、レオナは服をカインさんに選んでもらいたいのね~。意外と好きな人に振り回されるタイプよね、レオナって」
ハッと振り返るとシアが微笑みながら真後ろからのぞき込んでいた。
「あ、あの……これは……」
「うふふ」
「……べ、別にカインとのデートなんて、全っ然したくないんだからねっ!!!!」
レオナの天邪鬼は今日も絶好調であった。
ココルの場合
「それでね、カインさんがね、『シアみたいになりたいと思う』……って、うふふふ……って、聞いてるの? 白く……」
ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!! ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!!
ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!! ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!!
ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!! ぐわぐわぐわぐわぐわぐわ!!!
「あん……! 何【歌う鵞鳥】使ってん……!」
ココルは無表情でシアに歌う鵞鳥を向け、カインとのデートプランを立てはじめた。
シア視点の彼女達
タルト → 親友
レオナ → お転婆仲間
ココル → 宿敵