入れ替わり〜真実のコンソメポテチ〜
「エレフ陛下、何故エディス様に真実を話さないのですか?既に片玉潰されてるんですよ?」
「言ったところで番は信用してくれないだろう。私のやってきた事は確かにエディスを傷つけてきたのだから」
従者のイースが頭を抱えて溜息をつく。番はコンソメポテチというものを作るのに必死になっている。番の気配を把握しながら執務を行う。
「はあ……エレフ陛下が元妃達には殆ど触れていないのに。確かに陛下はエディス様を避けて、元妃達の宮殿で寝泊まりしていましたが、誰一人として閨に呼んでいないのに……」
「だが、そのせいで元妃達を好き勝手にさせ、有る事無い事をエディスに吹き込んだのは確かだ。私も否定せずに放置したのも悪い」
「まあ、信じてくれなさそうですよね……まさかエレフ陛下が番様の為に童貞を貫いているなんて」
「口が過ぎるぞ、イース」
バキィ!!っと持っていたペンを折ってしまい、新しいペンを引き出しから出す。
「ジジイ共が押し付けてきた女など手をつけたくもない」
「正妃エディス様の乱で全員、妃の立場を返上しましたけどね。妃達の宮殿を破壊したエディス様が未だに脳裏に焼き付いて離れませんよ。あれはもう悪夢です。ついでに陛下の片玉を蹴り上げた衝撃は未だに悪夢として出てきます」
「今すぐ、私の愛しい番の姿を脳みそから消せ」
「でも、何故いきなりあんなに避けていたエディス様を今は寵愛しているのです?いや、番であるエディス様を避けていた事自体あり得ないんですけどね」
「……魂が違ったのだ。だが、あの日、番の魂がピッタリと重なったのだ」
頭が痛くなり眉間を抑える。思い浮かぶのは愛しい番の姿。金色に輝き、凛とした姿が美しい。
「よく分かりませんねぇ……。とりあえず、陛下に必要なのはエディス様との会話です。エディス様に信じてもらえなくても真実は話した方が良いですよ。そうじゃなきゃ、ずっと平行線のままです」
「信じてくれるだろうか……番の側にいると、私はポンコツになるのだ……」
「……下手したらもう片方もお亡くなりになる可能性は高いですね」
イースと私は気まずい雰囲気で黙り込んだ。
ーーーーーーーーーー
私は今、とても気分が悪い。
コンソメポテチを完成させ、喜ぶ私にお偉い共の糞ジジイ達が元妃達を連れて私に謁見してきた。
「正妃様、正妃様は陛下と子を残す気はないと見受けられます。ですが、王族の血を絶やす事は許されません。ですから、一度は妃の立場を返上した者達をもう一度召し上げるように正妃様から進言してくださいませんか?」
私は一番大好きなコンソメポテチをお預けさせられている上、阿呆の言葉を聞かされなければならないのだ。ああ、イライラする。本能だろうか、糞夫がまたこの馬鹿女共に触ると思うと反吐が出そうだ。
「正妃様、私達は仲良く出来ると思いますの。大丈夫ですわ、陛下の子が私達の誰かが産みますから、正妃様は大人しく好きな事をしていてくれればそれで……」
バギィ!!!!
私は本能のまま竜化し、カチカチと歯を鳴らす。歯を剥き出しにし、威嚇の唸り声が自然と出る。
『私をいつまで下に見るつもりだ、糞ジジイと小娘共……。今すぐその煩い口を閉ざしてやろう。私は優しいから、私に噛み殺されるか、引き裂かれて死ぬか、炎で焼け死ぬか選ばせてやる』
「落ちついてください正妃様!!下に見てるつもりはありません!!」
『黙れ、糞ジジイ共。貴様達に発言権など無い。さあ、小娘共……どう殺されたい?生憎、私は気が短い。さっさとしろ』
「あ、あ、あの……待って下さい!!正妃様!!」
妃達の中でか弱そうな小娘が震えながら叫ぶ。この元妃は確か、唯一私に何もしてこなかった娘だった。私はギロリと睨みながら無言で小娘の発言を待ってやる。馬鹿な事を言うなら噛み殺そう。
「私達、元妃達は誰一人として陛下に抱かれていません!!」
「ちょっと!!余計な事言わないでよ!!」
『……どういう事だ?』
「確かに陛下は毎夜、私達の宮殿に居ましたが、誰一人として閨に呼ばれた事はありません!!その鬱憤を正妃様にぶつけて、偽りの事ばかり吹き込んでいました!!」
『ほう……。面白い事を教えてくれて有難う、小娘。さあ、他の小娘共……今の言葉は嘘か?真か?本当の事を言えば殺さずに生かしてやろう』
殺気を込めて、謁見室の壁を尻尾で叩き割り、口から炎出して逃げられない様に周りを炎で囲む。
『さあ、早く答えないと焼け死ぬぞ。私はそれでも構わないがな』
「も……申し訳ありません!!真でございます!!」
「わ……!!私達は誰一人閨に呼ばれた事はありません!!申し訳ありません!!」
次々と小娘共は平伏してゆく。じわじわと炎が広がってゆく。エディスもエディスだが、こんな小娘達の嘘に苦しめられていたのか。糞夫も糞夫だ。何故、こんな小娘共を好き勝手にさせていた。呆れて、糞ジジイ共を尻尾で薙ぎ払う。
それを見た小娘共は震えながら命乞いをする。
「真実を告げました!!お願いです、助けてください……!!正妃様!!」
『……勝手に死ぬなり逃げるなりしろ。二度と私の視界に入るな。その時は……分かるな?』
先程尻尾で叩き割った壁の炎だけは消してやる。バタバタと小娘共はそこから逃げる。それと同時に糞夫が炎の中駆け寄ってくる。
「番!!何があった!!」
『糞夫が!!お前のせいでこんな面倒くさい事に巻き込まれてんだよ!!私は出来たてのコンソメポテチが食べたかったのに!!』
糞夫を尻尾でぶっ飛ばすついでに、風圧で炎を消す。竜化したまま、サイズを調整して子犬くらいのチビ竜になる。チビ竜になった私は床に倒れている糞夫の上に乗り、綺麗な顔に尻尾で往復ビンタをかます。
べちべちべちべちべちべちべちべちべち。
『これで許してやる、光栄に思え』
「……番?」
パタパタと小さな翼を動かして隠していたコンソメポテチの元へ向かう。その後をヒヨコの様についてくる糞夫は無視だ。
そして私は遂に念願のコンソメポテチにありつけたのだ。羨ましそうに見てくる糞夫にコンソメポテチを小さな手で一枚だけ差し出す。
「……番!?頭でも打ったのか!?」
『いらないの?』
「いる!!喜んで受け取る!!家宝にする!!」
『いや、食えよ』
さて、これからこのダメ夫から話をちゃんと聞かねばと大好きなコンソメポテチを味わいながら明後日の方向を見る私だった。
ああ、素晴らしきかなポテチ人生。