入れ替わり〜ポテチ海苔塩味〜
「お前は本当の番か……?魂が体とあっていない……お前は何者だ!!本物の番はどこにいる!!」
竜王エレフ様が私を怒鳴りつける。私にもエレフ様の言っている事は何となく分かっていた。私は幼い頃から、自分の体に違和感を覚えていたのだ。だがら、エレフ様が番なのは確かなのだが、魂が本能がそれを拒絶する。
私達は番であり、番では無い。それでも私はエレフ様の番として正妃になった。だが、エレフ様は私を嫌い、妃をすぐに召し上げて私には指一本と触らず、夜は妃達と過ごしていた。
妃達の嫌がらせにもエレフ様は知らん顔で、私の居場所など此処には無かった。でも、そんな私にも楽しみがある。眠りにつくと、私は違う世界の違う誰かになっているのだ。
毎日働き、それが終われば家に帰ってお酒とポテチという食べ物を食べ、テレビという摩訶不思議なものを見る。私は一度でも良いから、ポテチという物が食べたかった。
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「あら、エレフ様に愛してもらえない欠陥品のエディス様じゃありませんか」
「ふふっ、エレフ様は素晴らしいわよ?あんな情熱的に求めて下さるのだもの」
「エディス様は欠陥品の番なのですから、いっそのこと身を引いてはどうです?」
妃達に囲まれ、聞きたくも無い言葉を投げつけられる。私だって、私だって好きで欠陥品とし産まれた訳じゃない。私だって、番であるのに愛されないで拒絶されるのは辛い。毎日のように嫌がらせされるのも、周りから同情されるのもまっぴらだ。
私は何も言わずに私室に篭って泣いた。泣き抜いた。するといつの間にか、寝てしまったらしい。いつもの夢をみているのだが、この日は私は夢の中の私と初めて出会い確信した。この人が本来のエレフ様の番なのだと。
そして私は泣きながらその人に声をかけた。
『お願い……私と貴女との魂を入れ替えて下さい。私にはもう……限界なのです』
「あ?誰、あんた」
黒い髪と目が、エレフ様を思い起こさせる。女性はポテチをポリポリ食べながら私の話を他人事のように聞いていた。というか、テレビを見ていて私には目を向けない。
私は泣いた、泣き抜いた。そしてやっと泣き落として魂を私の力で入れ替える。
『それでは……魂を入れ替えます。竜化の方法は感覚で分かると思います』
「え?竜化?ちょっ!!そこ大事じゃない!?」
そう叫んだ『私』と体を交換し、私は『私』の記憶を共有する。ああ、なんと自由で素晴らしいのだ。私は目の前にあるポテチをポリポリと食べる。こんな美味しいものは初めてだ。
そして、次の日私は仕事が休みだった為、残りわずかな力を使い、ポテチを食べながら私の体に入った本物の番の方を覗き込む。
すると、本物の番の方は窓を突き破り、竜化して自由に飛び回る。あんなにも私を毛嫌いしていたエレフ様を尻尾でぶん殴り、本気の威嚇をし、噛み付くわ引っ掻くわの大乱闘を繰り広げていた。そしてエレフ様に去勢しろと叫び、私の悪夢でもある妃達の宮殿を全壊させ、『黙れ小僧!お前に私の痛みが癒せるのか!?』とノリノリだった。
私は共有した記憶で思わず笑ってしまった。私はテレビをつけ、「もの◯け姫」をポテチ海苔塩味をポリポリしながら堪能した。ああ、心がスッキリしていく。
あんなにも辛かったのに。あの方は私の悪夢を次々と壊してくれた。私には到底出来なかった事を易々とやってしまう。私もあの方のように強くいられるだろうか。いや、もう沢山の勇気をもらったのだ。私はこれから強く生きていこう。もの◯け姫に涙を流しながら鼻をチーーンとかむ。
そして冷蔵庫に大量にあるビールを浴びるほど飲む。エディスだった頃には出来なかった事を次々とやっていく。私は自由なのだ。チータラをもぐもぐと食べながら、抱き枕であるショボーンさんに愚痴を溢す。
「私だってエレフ様が番で本当に嫌でしたの。私だって本能が違うと叫んでいましたのに。でも、話し合いも歩み寄ることもしてくれない。最終的には妃達を迎えて毎夜毎夜……妃達の嫌がらせも知らん顔。酷いと思いませんかショボーンさん……。でも、私はもう自由を手にしたのです!!今度こそ、素敵な一途で誠実な男性を見つけてみせますわ!!」
私はその日、抱き枕のショボーンさんに愚痴を散々語り、ショボーンさんを抱きしめ眠った。
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二日酔いの頭を抱え、スーツを着て仕事の準備をする。ヒールを履き、眩しい太陽の日差しを浴びて目を細める。
そして、私は新しい自由な人生を歩み始めた。
ああ、素晴らしきかな新しい人生。