入れ替わり〜ポテチ〜
あれから一週間、私は竜化したまま、のんびりと世界を満喫していた。毎日のように糞夫エレフは私に懺悔して来るが知った事じゃない。
今日も日課のジェットコースター飛びをして寝ぐらにしている元妃達の宮殿に激突し、穴を開け続ける。あの日の出来事は『正妃エディスの乱』と呼ばれ、今はエディス様正論派と、エレフ様許してあげて派に七対三で意見が別れている。
「番……名を……せめて私に本当の名を教えてくれないだろうか」
『バーカ、バーカ。誰が言うか。私はエディス、あんたが見向きもしなかったエディスです〜。ていうか、去勢まだ?』
「それは……許してくれないだろうか……」
『んじゃ、離婚でよろしく』
「駄目だ!!私はやっと本物の番を手にしたのに!!」
『あ゛あ゛ん?』
私はその言葉にドスをきかせて唸る。糞夫エレフは少しビクつき、しょんぼりしている。色男が台無しだ。無駄に顔だけは良い糞夫だが、男は性格も大事なのだ。顔が良ければ何でも良い訳じゃない。
「聞いてくれ……確かにエディスは番だった。だが、魂が違うと本能が叫んでいたのだ。そんな歪なエディスを私は避けて……傷つけた。本当に悪いと思っている……」
『ふーーん。ねえ、言葉だけじゃ無いって証明してくれる?今から私が貴方にする事を受け入れるなら、竜化解いても良いよ』
「っ受け入れる!!番が私にする事ならば何でも!!」
『言質はとったよ?恨みっこなしだからね?』
私は不敵に嗤い、竜化を解いて糞夫エレフに近づく。私はコキコキと首を鳴らし、後ろからはゴゴゴゴと音が鳴っていそうな威圧で糞夫は少しだけ後退る。
私は不安そうな糞夫エレフに優しく微笑みかける。それを見た糞夫は頬を緩ませる。そして私は右足を後ろに引き上げ、サッカーボールを蹴るように思いの籠った素晴らしいシュートを糞夫の片玉に決めた。
グシャっという感触と共に、糞夫は悲鳴にならない声を上げて地面に突っ伏した。片玉だけ許してあげるなんて、私ってば優しすぎるわ。
周りの兵士達は青ざめ、内股になりながら糞夫に近づき、お気を確かに!!と叫んでいる。
「あーー、スッキリしたわ。ああ、久しぶりにお風呂でも入ろうと」
後にこの出来事は、後世に残るほどの教訓として『エディスの鉄槌』と呼ばれる事になるとは私は知らなかった。
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ちゃぷちゃぷとお風呂に入りながら、エディスの、私のダイナマイトボディを堪能し、サッパリとして喪服用のドレスを着る。さよなら、糞夫の片玉よ。大丈夫、もう一個はまだ残しといてあげるからね。
そして私は正妃付きの侍女にある事を聞く。
「ねぇ、そういえば、糞夫の妃達ってどうなったの?」
「皆、震えながら役目を返上しました。死にたくないそうで……」
「あら、つまらない。もっとドロドロとした愛憎劇でも起こそうかと思ったのに」
さてと、今後糞夫エレフをどうしてくれよう。復讐と恋愛においては、女は男よりも野蛮であると、人生の師匠ニーチェ様も言っているのだから。
まあ、今後の糞夫エレフの態度次第では、煮るなり焼くなりしよう。離婚してくれれば、バッチコーイなのだが。
私は一途で誠実で、程々に容姿が良く生活力がある男性が好みなのだ。糞夫とは真逆だ。今の私ってば美女だし、ダイナマイトボディだし、モテてもおかしくは無い筈だ。だが、やはり糞夫がいうように私達は番なのだ。片玉だけで許してあげたり、逃げないで城に穴を開け続けるほどには離れがたく思うのは確かなのだ。本能とは厄介だ。
兎に角、今は浮気された傷心の私の心の回復が先だ。大好きなポテチを作るために、私は料理場へと向かった。
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「正妃様……?何をお作りになっているのですか?」
「ん?ポテチ」
「ポテチ?聞いたことありませんね……ほう、芋を薄切りにして揚げるのですか……ほうほう」
料理長は物珍しそうにポテチを作る過程をメモしている。次から料理長に作ってもらおう。出来上がったポテチに塩を濃いめにふり、ホクホクと笑顔を浮かべて私室に戻る。
すると息も絶え絶えな、顔色の悪い糞夫エレフが待っていた。此奴ストーカーか?
「番……何を持っているのだ?そして何故、喪服なのだ」
「ポテチ、私が作ったの」
「もしかして私にか?」
「んなわけねぇだろ。失せろ、頭お花畑ストーカー」
私はソファにどかりと座り、ポリポリとポテチを食べる。羨ましそうに見て来るストーカーは無視だ。
ああ、ポテチが美味い。今日も素晴らしきかな。