2話‐6
腕が伸びてきた方向を見ると、一人の男が俺達のすぐそばに立っていた。
先程まで影も形も無かった筈なのに、いつ俺達に近づいたのだろうか。
……というかこの男、さっき俺とぶつかった後に逃げた怪しい奴じゃないか。
「おいお前、何者だ!」
突然の事に呆然とする俺を他所に、文が男に声をかける。
どうやら、突然現れて自分の手から腕輪をひったくった事に大層ご立腹の様子で、その言葉には怒気が含まれている
「俺はJDF特殊作戦部隊所属の……説明が面倒だ。JDFから派遣されたアンタの護衛だ」
「護衛? そんな話ボクは聞いてないし、こんな状況になるまで何をしていたんだ? そもそも、その護衛が転送装置を奪い取って何をするつもりだ? 使い方がわかるのか?」
文は腕輪を奪った男に喚き散らすが、男は意に介する様子もなく腕輪を装着する。
「情報が漏れないようにJDF独自の判断で付けた護衛だからな……道に迷って遅れてしまったのは、すまないと思っている。それにアンタの心配事だが、マニュアルは読んでいるから問題ない」
あ、割と丁寧に質問に答えてくれた。
結構、意に介していたみたいだ。
……しかし、護衛の筈なのに道に迷っていたって大丈夫なのか?
俺がそんな事を考えるしかできないでいると、護衛が弄っていた腕輪が強く発光し、眩い光りが男を包む。
「……仕方ないから使わせてやるが、あまり粗末に扱うなよ」
文が護衛に向けてそう言うと共に、光が消え去る。
……そこにいた筈の護衛の姿は、先程壇上で見たパワードスーツへと変化していた。
「努力しよう。……さあお前達、ここからは俺が相手だ」
「そ、そんなパワードスーツが何だ! こっちは二人いるんだぞ!」
「そ、そうだ! そんな物、俺達にだって用意できる! これでも喰らえや!」
護衛に声をかけられようやく我に返った超能力者が叫び、眼から光線を放つ。
……お前達の目的は、そのそんな物と、開発者である文だったんじゃないのか?
超能力者の放った光線はBM-1に照射され続けるが、装甲の表面を焦がす程度の傷しか与えられない。
「その程度か? 装備のテストにもならんな」
護衛はそう呟き、BM-1の太もも横に装着されていたエナジーピストルを手に持ち、超能力者達に向けて発砲する。
超能力者達は散開して攻撃を回避する事に成功する……ピストルから放たれた光弾だけは。
発砲を行った後、護衛が目にも止まらぬ速さで片方の超能力者へと肉薄した思えば、次の瞬間には護衛の目の前にいた超能力者が吹き飛ばされる。
そして、残った超能力者はその事に反応する前に、再び移動していた護衛によって蹴り飛ばされた後、起き上がらなくなった。
「……動作が少し重いな。他の奴等なら兎も角、俺には無用の長物か」
「おい、お前。今ボク達が作ったBM-1の事を無用の長物って――」
「遅いぞ! 小娘一人を捕まえるのに、どれだけ時間をかけている!」
護衛の呟きに文が突っかかり始めた瞬間、出口からスーツを着た男が声を荒げながら入ってくる。
「……まだ仲間が残っていたのか」
「お前がこいつらを倒したのか……俺だけじゃない。外にはまだ仲間が待機している」
男の言葉を聞いた護衛は再びピストルに手を伸ばそうとするが、急に腕輪へと手を伸ばすと同時に、身に纏っていた装甲服が彼の躰から消えてしまう。
「な、何をやってるんですか!? まだ外に奴らがいるっていうのに――」
「俺はもう必要ない。じゃあな」
護衛の人は慌てる俺に、外した腕輪を放り投げてくる。
「うわっ! いきなり投げるなんて……いなくなってる!?」
「あの野郎! 粗末に扱うなって言ったのに!」
急に投げつけられた腕輪を何とか受け止めた後、思わず叫んでしまいながら腕輪に注目していた視線を男に再び向けた時には、既にその姿はなかった。
「逃げやがったか。まあいい、俺の仕事をするだけだ」
男は俺達の方へと歩いてくる。
何故だ?
何故護衛の人は文を見捨てて逃げたんだ……いや、今はそんな事を考えている状況ではない。
文は最初、この腕輪を俺に渡そうとしていたんだ。
つまりこの腕輪は俺でも使えるはずだ!
「文! この腕輪の使い方を――」
教えてくれ。
そう言おうとした俺の側面を突風が吹き抜け、それに驚いた俺は最後まで言い切る事ができなかった。
突風が吹き抜けた先……男が立っていた場所には、突き出した両拳で男を出口から外まで吹き飛ばした颯花の姿があった。




