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2話‐5

 文たちを追いかけて暫くの間走り続けたが、一向に追いつく気配が無い。

 頭に叩き込んでいた地図だと非常口も近い筈だし、やっぱり俺は必要なかったんじゃないのか?

 まあ、それならそれで穏便に終わるから良いんだけど。


「お前達! 何者――」


 曲がり角の先から男の叫び声が聞こえたかと思えば、途中でその声が途絶えた後に怒号と銃声が響く。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ」


 そして、文と一緒に逃げていた筈の社長が俺達の横を、四つん這いの状態ながら凄いスピードで通り抜けていく。

 まさか、非常口に先回りされていたのか?

 ……戦う力の無い俺が、何の策も無いまま突っ込んでも大丈夫かどうか考えて、ついその場で足を止めてしまう。


「手を離せ! ボクを攫ったとしてお前達に協力すると思っているのか!」


 駄目だ。

 何かを考えている時間なんて無い。


「文! 大丈夫か!」


 注意を俺に引き付ける為に叫びながら飛び出しつつ最初に目に入ってきたのは、床に倒れている二人の警官。

 非常口の前にはサングラスをかけたスーツの男が二人、扉を塞ぐように立っている。

 そして、文の手を引いて連れて行こうとする三人目のスーツの男と、抵抗しようと藻掻く文の姿がそこにはあった。


「おいお前! 文から手を――」


「望夫様を宜しくお願いします」


 文の腕を掴んでいる男に思わず飛び掛かろうとする俺に向けて、月日さんが白金を放り投げてきた。

 ……話は変わるが白金の身長は百八十センチを超えているうえ、それなりに鍛えているらしく意外とガタイが良い。

 対して俺の身長は百七十センチで、普通の男子高校生程度の体格だ。

 要するに、突然放り投げられた白金を咄嗟に受け止めて俺が立っていられるはずも無く、俺は白金の下敷きになってしまう。

 地面に倒れていく俺の視界に、地面を蹴り勢いよく駆け出して文の手を掴んでいる男に向かって突進していく月日さんの姿が写る。

 男の元に辿り着いた月日さんは文を掴んでいる腕を勢いよく蹴り上げる。

 蹴られた衝撃で文の腕から手を離してよろめく男に対し、月日さんは拳の連打をお見舞いした後、男を突き飛ばしてから文の手を引いて俺の隣に戻ってくる。


「兄さん、この人は友達? 凄くカッコいいじゃないか」


「……こんな状況で何を言ってるんだ、お前は」


 上に乗っかっていた白金を退かして起き上がった俺の腕を両手で掴んできた文は、自分が襲われたばかりだというのにいつもと同じ様子だ。

 ……俺の腕を掴んでいる手が少しだけ震えているのには気付かない振りをしておいてやろう。


「私ではなく望夫様と一成様がご友人なんです」


 月日さんは文に俺達の関係を簡単に説明した後、残りの男達に向き合う。


「油断してたから、こうなるんだ」


 非常口を塞いでいた二人の男は月日さんにノックアウトされた男にそう言い放って部屋の隅へと蹴り飛ばす


「おいお前、俺達の邪魔をするつもりなら、只じゃおかないぞ」


「大人しくその女をこちらに渡してもらおうか」


 渡せと言われて渡すわけにはいかない。


「文、俺の後ろに隠れてろ」


 文を俺の後ろに隠すように一歩、前に出る。 


「一成様、私が囮になるのでこの場にいる人達を逃がしてください」


 月日さんは俺にだけ聞こえるように、小さく呟く。

 本当なら有難く従う所だが、そうはいかない。


「必要ないのに態々助けてくれている人を……それも、女の子を囮にする訳にはいかないだろ。俺が囮になる」


「……いつから気付いて……いえ、今はそんな場合じゃないですね」


 俺の言葉を聞いた月日さんは一瞬だけ驚いたように目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。


「一人だけ、引き付けておいてください。私がもう一人を倒したら、すぐに助けに行くので」


 月日さんはそう言うと男のうち、片方に向け飛び掛かって殴りつける。

 残った男が月日さんに注目している間に、俺も男に向かって勢いよく走り出そうとした。

 ……走り出そうとしていたのに、男が向かって来る俺に気付いて顔を此方に向けた瞬間、男の目が光る。

猛烈に嫌な予感がして横に飛び退いた後、俺が直前までいた場所を光の閃光が通り過ぎる。

避けられたことにホッとしてしまうが、今はそんな状況じゃない。


「月日さん、こいつら超能力者かもしれない! 気をつけろ!」


「遅いんだよ!」


「くっ……」


 俺の忠告は間に合わず、男から放たれた閃光が月日さんに炸裂して彼女はその衝撃で身動ぎして呻く。

 ……え?

 それだけ?

 結構勢いよく閃光が出てたからもっと威力があると思っていたのに、必死になって避けた俺が馬鹿みたいに思えてきたぞ。


「隙ありだ!」


「しまっ――」


 しかし、閃光が直撃した際に月日さんに隙ができ、男はその隙をついて男は拳を振るう。

 月日さんは腕で受け止めるが、そのまま突進してきた男に壁に叩きつけられた後、打ちどころが悪かったのか意識を失ったようで動かなくなってしまう。


「月日さん!」


「他人の心配をしている場合か?」


 倒れた月日さんの元へ駆け寄ろうとする俺の前に、先程俺に向けて閃光を放った男が立ち塞がる。


「そこを――」


「おらぁ!」


 男を押しのけて月日さんの元へ駆け寄ろうとする俺の躰に、男の蹴りが直撃する。


「ぐあっ……」


「兄さん!」


 地面に倒れる俺に、文が駆け寄ってくる。

 ……まだだ。

 ここで倒れている訳にはいかない。

 痛みに耐え、文を庇うように立ち上がる。


「おいおい、俺の蹴りが直撃したっていうのに随分と頑張るじゃあないか」


「お前の蹴りが大した事なかったんじゃないのか?」


 男達が何かを言っているが、気にする余裕なんて今の俺にはない。

 男達に聞こえないように、後ろにいる文へ話しかける。


「……文、お前は逃げろ。俺が時間を稼ぐから、逃げて颯花を呼んで来い」


 今俺にできる事、それは俺自身を囮にして文を逃がす他にない。

 ……こんな事になるんなら、先程の月日さんの提案を素直に聞いておくべきだった。


「いや、兄さんを置いていってもどうせすぐにやられちゃうでしょ。それに、ボクの体力じゃすぐに追いつかれるから、その作戦は止めといた方が良いと思うよ」


 文は俺の言葉をはっきりと拒否した……俺だけでなく、男達にも聞こえるほどにはっきりと。

 その言葉に俺だけでなく、対峙している男達も思わず目が丸くして三人で文を見つめて呆然としてしまう。

 ……いや、呆然としている場合じゃない。


「じゃあ他に何かあるのか! 無理だとわかっていてもやるしか――」


「兄さん、これを使うんだ」


 文は俺の言葉を遮り、何かを差し出してくる。

 先程壇上で取り出していた……腕輪?


「これはだな――」


「それが新装備か。少し借りるぞ」


 文が腕輪の説明をしようとした瞬間、横から腕が伸び、文の手から腕輪を掴み取とった。

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