4話‐5
「……と、いう訳だ。俺は全部話したぞ。早くここから出してくれ」
文に拉致からの拘束というコンボをくらった俺は、解放してもらう為に颯花と何があったのか話し終え、文に早く解放してくれるように懇願する。
……文に心配をかけたのは悪いと思っているが、いつまでもこんなどこだかわからない場所に拘束してもらっては困る。
『……それだけ? 他に何か理由はないの? 例えば弱い自分が情けなくなったとか、力の有る颯花ちゃんに嫉妬したとか』
「……俺は、自分の身の程は弁えてるんだよ。だから、颯花の邪魔にならないように突き放したんだよ。さっきも言ったように」
『ハァ……やっぱり、そこから出すわけにはいかないな。兄さん……いや、クソ兄貴でいいな、うん。クソ兄貴にはみっちり反省してもらわないといけない』
文は深くため息を吐いた後、そう言い放った。
「な、何でだよ! というか、クソ兄貴ってお前――」
『そうとしか形容できないから仕方ないだろ。颯花ちゃんの為を思って自分から近づかないようにした? 兄さんはそれでいいかもしれないけど、急に仲の良かった友達から近寄るなって言われた颯花ちゃんの気持ちを考えたの?』
いきなりの暴言に加え、事情を説明すれば解放するという約束を反故にされて憤る俺の言葉を遮る様に文は淡々と捲し立てる。
……それにしても、颯花の気持ちを考えたかだって?
「……考えたに決まってる。だけど、俺が近くにいる所為で颯花の足を引っ張ってしまうんだから、離れる以外にどうしようもないだろ! 他に俺に何ができるって言うんだ!」
『近くにいても足をひっぱらないように力を得ればいいじゃないか』
俺の問いかけに、文は即座に返事をする。
……力を得るだって?
随分と簡単に言ってくれるじゃないか。
「何の取柄もない普通の人間の俺が鍛えた所で何も変わらないだろ。それとも、俺を攫った奴等に頼って超能力に目覚めさせてもらえばいいのか? まあ、その場合奴等の鉄砲玉にされて――」
『落ち着け、クソ兄貴』
いつの間にか感情のままに叫んでいた俺とは対照的に文の声色は冷静そのもので、俺は言葉に詰まってしまう。
……いつもなら俺が折れる所だけど、今は折れる気などさらさらない。
「落ち着け? わかったような口を利くじゃないか。天才の文に俺の何が分かるっていうんだ!」
『こんな所で実の妹にキレ散らかして、大事な人……友人を傷つけて謝る事もできないクソ兄貴の事なんてさっぱり理解できないね。……一番理解できないのは、何でボクを頼ってくれないのかという事だけど』
「文を頼ったって、どうにかなることじゃないだろ! もう放っておいて――」
『どうにかするさ』
俺がどんなに叫んでも、文は冷静に答えを返してくる。
……だったら、どうにかしてもらおうじゃないか。
「……文に頼めば、俺にも力が手に入るのか?」
『勿論。……だけど、一つだけお願いを聞いてもらってもいいかな?』
……即答してきた辺り、どうやら相当に自信があるらしい。
何かの実験台になるとか禄でもないお願いの気がするが、力を手に入れる為なら安いものだ。
「わかった、約束してやるよ。俺は何をすればいい」
『……颯花ちゃんにちゃんと謝って仲直りして。それがボクからのお願いだ。』
予期せぬお願いに俺は少しだけ黙ってしまうが、すぐに口を開いて返事をする。
「謝るのはいいけど、仲直りできるかは保証できない。……颯花が許してくれるかわからないから」
『颯花ちゃんなら許してくれるさ。それじゃあ兄さん、今から颯花ちゃんに謝りに行ってもらおうか』
文がそう言い終わった瞬間、俺の視界が光に包まれて目が眩む。
僅かな間の後、俺の視力が回復したことで周囲の景色がようやく明らかになった。
……とはいえ、よくわからない機械が幾つか置いてあることと、ガラス窓の向こう側から文がこちらを見ている事しかわからない。
とりあえず文の方に向かおうとするが、俺の身体は未だに拘束されているらしく動く事ができない。
この時点で俺が今見ている光景が、頭部全てを覆うモニター越しに映された外の景色だという事をようやく理解できた。
「おい、早く解放してくれよ。これじゃあ謝りにも行けない」
『そのままジッとしてて。今準備してるから』
『十、九』
文がそう言った瞬間、合成音声が俺の耳に聞こえてくると同時にモニターの中央にも合成音声が発した数字と同じ値が表示される。
「……おい文? 何かカウントダウンが始まったんだけど、何するつもりだ!」
『八、七』
『颯花ちゃん、中々大規模な事件の対応してるみたいだから話している時間は無い。説明は道すがら教えてもらうと良い』
『六、五』
突然の事で何が起きようとしているのか全くわからない。
俺にできるのはただ叫ぶ事だけ。
「今すぐ説明しろ! 何が起きてる!?」
『四、三』
『口は閉じておいた方が良い。舌を噛み切ってしまうかもしれないから』
『二、一』
訳の分からない状況でパニックに陥いるが、文の忠告に猛烈に嫌な予感がした俺が言う通りに口を閉じて強く歯を食いしばると同時に、合成音声のカウントダウンが終わりを告げる。
『ゼロ』
『兄さん、幸運を祈っているよ』
その瞬間、強い衝撃が俺を襲ってつんざくような轟音が響く同時に、視界が目まぐるしく変化して文の姿が目の前から消えさる。
目に映る景色が激しく変化し、何が起きているのかわからずにただ衝撃に耐える事しかできない俺の耳に男性の声が聞こえてくる。
『おはようございます、文様。いよいよ実用試験――バイタルデータが文様と一致しませんね。貴方は何者ですか?』
「誰!? 何者かってこっちの台詞だ! お前は誰だ! 一体どうなってる!」
『……相当に混乱しているようですね。私はこのパワードスーツに搭載されているAI『試作AI壱号』です』
混乱して叫ぶ俺に対してあんまりな名前の自己紹介をすると同時に、モニター上に黒いロボットが表示される。
右下には『試作型強化装甲 黒鉄壱式』と表示されており、恐らくはこれが表示されているロボットの名前なのだろう。
『黒鉄重工が工事現場での重作業から人命救助、戦闘行動まであらゆる局面に対応するパワードスーツを開発する為の試作機が、この黒鉄壱式です』
……モニターに表示されているロボットが何の目的で作られたのかは理解できた。
それを何故、今この状況で説明する必要がある?
AIの口振りからするに、まるで俺がこのロボットの中に入っているみたいではないか。
逃避しても仕方ない、現実を直視しよう。
「……文の奴! 実の兄貴を承諾もなくこんなロボットにいれるなんて、本当に何を考えてるんだ!?」
……入っているみたいではない、実際に入っているのだ。
その事に気付き、ここにはいない文に向けて意味もなく叫ぶ。
『落ち着いてください。黒鉄はロボットではなくパワードスーツです。文様の前でスーツの事をロボット何て言うと小一時間はお説教されるので気をつけてください。それでは続きを話してもよろしいでしょうか?』
「……あ、ああ」
AIに落ち着くよう促された事で、多少は冷静さを取り戻す。
……このAI、妙に人間臭いな。
ひょっとして、文が声を変えて遊んでいるだけなのではないだろうか?
『それについては心配ありません。遠隔通信装置の立ち上げに少し時間がかかっているので、今は外部と連絡を取る事ができないです』
「く、口に出してないぞ!? 心でも読んだのか!?」
『顔色を伺いました。……冗談です。貴方のバイタルデータをチェックして、どんな事を考えたのか推察したのです』
このAI、そんな事までできるのか。
……人の体調をチェックするだけで、何を考えているのかわかる物なのだろうか?
凡人の俺には、さっぱり理解できない。
『さて、先程の叫びから推察するに貴方が文様のお兄さんですね? 黒鉄の装着者の候補として文様から話を伺っています』
……俺がコイツの装着者候補?
「俺は一切話を聞いてないけど、どういう流れでそんな事になったんだよ。俺には何の取柄もないぞ」
『スーツの性能をテストするのに、装着者のスペックは平凡である方が良いと文様はおっしゃっていました。少々卑屈な所があるけど許容範囲だとも言ってましたね』
……卑屈だの凡人だの、自覚はあるけど他人からそう言われるのはいい気分じゃない。
後で文に文句を言っておこう。
「……所で、今はどこに向かってる? 教えてくれ」
『目的地は戸羅府刑務所。現在、武装集団によって襲撃を受けており混乱の真っ最中です。そろそろ到着するので、着陸の衝撃に備えてください』
……はい?
「ちょっと待て! まさか、いきなり戦えって言うのか!? 俺は素人だ! 流石に無茶が過ぎるぞ!」
『安心してください。このスーツを用いた戦い方は私が教えます。さあ、着陸体勢に入ります。……検証不足の為、安全に着地できる確率九十五%……まあ、大丈夫でしょう』
「待て待て待て! 検証不足ってなんだ!? それに安全に着地できる確率九十五%って……五%で失敗するのは駄目だろ!? もっと事前にテストを――うわっ!」
AIに向けて着地を止めるように訴えようとするが、無理やり姿勢を変えられた事で最後まで言い切る事はできない。
次の瞬間、俺は……いや、俺と黒鉄は地上に向けて落下しはじめる。
『減速用のジェット点火……あっ、間に合いませんね、これ』
「――――!?」
AIの告げた言葉に声にならない悲鳴を上げた後、凄まじい衝撃がパワードスーツ……黒鉄壱式の中にいる俺を襲う。
『……下半身部が地面に埋ってしまいましたが、無事に着陸できたようです』
……一瞬だが、意識を失っていたようだ。
AIの音声によって気がつくと、何とか地上に辿り着いていた。
しかし、下半身が地面に埋っているのは果たして無事に着陸したと言えるのだろうか?
……何にせよ、命があって良かった。
「……機械人形?」
AIの機械音声とは違う、人間の発する声がスピーカーから聞こえてくる。
しかも、俺が物心ついた頃から毎日のように聞いてきた声だ。
……最近は俺の所為で聞く事が少なくなってたけど。
「……やあ、颯花。こんな所で奇遇だな」
いつも私の拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
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