4話-3
……目を覚ました筈なのに、俺の視界は真っ黒に染まっており何も見えない。
どうしてこんな状況になったのか思い出しながら身体を動かそうとするが、間違いなく立っているのに身動き一つとる事ができないのに気付いてしまう。
「……おい文! 俺に何をした!」
意識を失う直前に何があったのか思い出し、俺はおそらくどこかで見ているであろう文に向けて思い切り叫ぶ。
『……うるさい。いきなり叫ぶな』
暫くの間静寂が続いたかと思うと、急に耳元から文の声が聞こえて少しだけ驚く。
「さ、叫ばれるような事をする方が悪い。それより早く質問に答えろ。俺に何をしたんだ」
……いつまでも妹にイニシアチブを握られているようでは、兄としての面目が立たない。
毅然とした態度で、どういう状況なのかを問いただすべきだと判断して、文を問い詰める。
『おっと、先に質問をしたのはボクの方だったと記憶しているよ。兄さんがボクの質問に答えるのが先だ。……兄さんと颯花ちゃんの間に、一体何があったんだい?』
「そ、それは……黙秘権を行使する」
……舌戦でまともに相手したら、文には敵わないか。
ここは、沈黙を選ぼう。
『……質問に答えてくれたら、今どういう状況なのか教えるてあげるし、解放もしよう』
……無視だ。
流石に死ぬまでここに閉じ込めておく事はないだろうし、根比べなら何とか勝負になる筈だ。
『……さっきはボクの寝覚めが悪いって言ったけど、それ以上に兄さんと颯花ちゃんの事が心配なんだよ。……お願いだから、ボクの質問に答えてくれ』
黙り続ける俺に、相談するように訴えかける。
……その声色は、心なしかくぐもっているような気がした。
「……わかったよ。話せば解放するんだな」
観念した俺は、事件に巻き込まれた日に何が起きたのかを話し始める。
……泣き落としは、ズルいと思う。
*
事件発生の知らせを受けて教室の窓から文字通り飛び出た後、荷物を置く為に自宅に向かいながら、携帯端末の読み上げ機能を起動して事件の内容を確認する。
『戸羅府刑務所にて、謎の集団による大規模な襲撃事件が発生。既に警察や軍、ヒーローが対応に当たっているが、脱獄した囚人もいる事で現場は混乱しており――』
戸羅府刑務所……日々発生する凶悪犯罪に対応する為、通常の刑務所では収監することが困難な超能力者や凶悪犯罪者が多数収監されている。
囚人の脱獄を防ぐ為に常に厳戒な警備体制が敷かれ、陸地から離れた戸羅府島という孤島に建造された大規模刑務所。
そんな場所に襲撃をかけるなんて、どんな目的で動いているのだろうか?
……まあ、そんな事を考えていても仕方ない。
アタシがやる事は、現場に駆けつけて平和を乱す彼等を鎮圧するだけだ。
自宅に到着して荷物を置くと、すぐさま飛翔し刑務所へと向かおうとした瞬間、アタシの脳裏に数週間前に一成に言われた言葉がよぎる。
……たとえ誰に拒絶されたとしても、アタシは皆を守るんだ。
何度か囚人の護送で訪れた事はあったが、あちこちから火の手が上がっており、異常事態が発生している事が一目でわかる。
兎に角、この事態をなんとかして納めなければならない。
「今まで偉そうな態度をとってくれたな。この俺の超音波を――」
地上に降りる途中、建物の外で倒れている看守に何かをしようとしている囚人の姿を見つけて、降下しながら壁まで蹴り飛ばす。
「応援にきました! 大丈夫ですか?」
壁に激突した男が起き上がらないのを確認し、倒れている看守たちに声をかける。
「か、壁だ! 壁にまだ脱走した囚人が残っている!」
看守はアタシの問いかけには答えず、建物の外壁を指差し叫ぶ。
指を差した方へ視線を向けると、一人の囚人が屋上目掛けて壁を這い上って逃げていくのが見えた。
「あ、あんなの相手にしてられるか。俺は逃げさせて――」
「あんなので悪かったね。それじゃあ、大人しくなってもらおうかな」
先回りして建物の屋上に登ってきた囚人を待ち構え、何やら独り言を言っていた囚人の腹部を蹴り上げ、怯んだ囚人の首元目掛け手刀を放って気絶させる。
「た、助かった。応援、感謝する」
「アタシはヒーローだからね、当然だよ。それじゃあ、彼らをお願い。アタシは他の場所の救援に向かいます!」
囚人を抱えて地面まで降りた後、抱えていた囚人を看守に預けて再び上空へと飛翔。
暴動が治まっていない場所へと向かう。
「カッパー! 大人しく牢屋に戻れ!」
河童の着ぐるみが雄叫びを上げ、脱走している囚人の一人に手刀をお見舞いする。
倒れた囚人を抱え上げ建物の中に放り投げる河童の着ぐるみだったが、銃器を持った男がその銃口を彼に向けているのを、アタシは上空から目撃する。
「危ない!」
「ぐあっ……」
ここから近づいても間に合わないと判断し、空気弾を放って男を吹き飛ばす。
「カッパー! 『ディッシュバレット』!」
アタシの出した声と怯む男の姿を見た河童の着ぐるみは、頭頂部の皿を擦り光の円盤を射出する。
放たれた光の円盤は怯む男の顔面に正面からぶつかって爆発し、男の意識を奪った。
「ストームガール、助かったカッパー」
「モンゴルカッパーさん、貴方も来ていたんですね。他のヒーローも駆けつけているんですか?」
アタシは河童の着ぐるみ……ヒーローの一人であるモンゴルカッパーさんの隣に降り立つと、彼に此方の戦力がどうなっているのを問いかける。
「他のヒーロー達と一緒に陸路で駆けつけていたけど、刑務所へ続く唯一の橋を武装集団が占拠していたカッパ。空を飛べる奴も海を泳げる奴も俺以外にはいなかったから、俺だけで海路でここまで来たけど他の奴等は橋で足止めをくらっているカッパ。……先に来ている奴等もいるかもしれないけど、どこにいるかまではわからん……カッパ」
今、語尾を忘れかけたな。
……そんな事よりも、これからの事を考えなくては。
こうしている間にも、被害は広がっている。
「海か空じゃないと、援軍は期待できないってことですね」
「その通りカッパ。……本当は二人で行動した方が良いと思うけど、人手が足りないカッパ」
モンゴルカッパーさんの言う通り、人手が足りないこの状況では別れて動くしかないだろう。
「わかりました。アタシは空から暴れている奴等を探します。モンゴルカッパーさん、気をつけて」
「ストームガールも、気をつけるカッパ。何かあったら逃げるカッパ」
モンゴルカッパーさんの忠告に片手を上げて返事をすると、アタシは再び飛翔した。
いつも私の拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
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