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3話‐4

 アタシが驚いている間にも男は一歩、また一歩と歩みを進め、確実に近づいてくる。

 ……このままでは不味い。

 突風を吹き付けるのを止めて男から距離をとる為、宙に浮いて後退する。


「凄いね。アタシの風の中で動けていられるなんて、おじさんが初めてだよ」


「お主も中々やるが、儂を止めるには及ばなかったな。後、おじさんではなくお兄さんだ!」


 男は再度、地面を蹴って駆け出し、アタシに迫る。


「それじゃあ、これはどう!」


 勢いよく迫る男を目掛け、アタシは数発の空気の弾丸を放つ。

 ……男は信じられない事に見えない筈の空気弾に向けて手を伸ばすと、弾丸の全てに拳をぶつけ、その衝撃で弾丸を相殺しながらアタシとの距離を一気に詰める!


「またなの!? アタシが言うのもなんだけど、おじさんは化け物なの?」


「……儂がどうかは兎も角、お主は人間だろう? 後、お兄さんだ!」


 拳を突き出す男に対し、アタシは風を纏わせた腕で防ごうとする。

 普通ならば纏わせた風によって、男の拳は弾かれて隙が出来る……普通なら。

 先程からの様子を見るに、この男はどう考えても普通ではない。

 案の定、風を纏わせた腕に触れた男の拳は弾かれる事無く、流れるようにアタシの腕を掻い潜って迫る。


「痛ッ……」


 空いていた掌で男の拳を受け止めるが、受け止めた際の衝撃に思わず呻き声が漏れ、顔を顰めてしまう。

 アタシに隙ができたのを見逃さない男は、続けてアタシの腹部を目掛けて空いた手を突き出す。

 ……指先を前に突き出して迫る男の手が、アタシの目には刃物のように見え、言い知れない恐怖を感じてしまう。


「……何!?」


 勢いよく繰り出された男の貫手は、アタシの身体を掠るに留める。

 本能的に危険だと判断し、自身の躰を地面に対して水平になる様に浮かせて男の貫手を何とか躱し、突き出た男の拳を掴み取る。

 至近距離で放った拳が躱されるどころか掴み取られた事に、男は驚愕の声を上げる。


「とりゃぁぁぁ!」


 アタシは男の拳を掴んだまま宙へと舞い、空中で大車輪の様に回転する。


「うおぉぉぉ!?」


 男は叫び声をあげ抵抗の為に足掻こうとするが、回転の勢いでまともに動くことすらままならない。

 そして、回転の勢いがピークに達すると同時に、アタシは男の拳を離してやる……空に放り上げる形で。


「ウオォォォ――」


 遠心力によって遥か上空まで吹き飛んでいく男の悲鳴がどんどん遠ざかっていき、やがて完全に聞こえなくなる。


「「「せ、先生ィィィ!」」」


 上空へと消えていった功夫服の男の姿を見て、犯罪組織の男達の悲痛な叫び声が響き渡る。

 ……何故だろう。

 このまま男を放っておいて地面に衝突しても、死ぬ気がしないなあ。

 ……いや、流石にそんな事はないか。

 男を助けに行く為に、アタシも空に向けて飛翔する。

 計算して打ち上げたから、このまま上昇していけばいずれ男の姿が捉える事ができるだろう。

 アタシがそんな事を考えていると、視界の中央に小さな点が映される。

 その小さな点は、アタシがその場で浮き止まってもどんどんと大きくなって、アタシの元へと近づいてくる。


「――ァァァァァァ」


 ……恐怖で発狂してしまったのだろうか?

 アタシと男の距離が近づくにつれ、男の叫び声が耳に入ってきてしまう。

 如何に人間離れしていたとはいえ、普通の人間なら高所に投げ出されてしまえば発狂しても仕方ないだろう。

 ……そう、彼が普通の人間だったのなら。

 あの男はアタシの超能力に真っ向から立ち向かい、打ち破ったのだ。

 そんな男が、本当に普通の人間なの?

 嫌な予感がアタシの思考を過ると共に、目を凝らして男を見つめる。


「ハァァァァァァ!!」


 男の叫び声は狂気の悲鳴などではない、勇ましい雄叫びだった。

 男は地面に向けて左手を突き出し、右手を限界まで引き絞る。

 そして、その両眼は地面……いや、アタシの事を真っすぐに見据えている。


「嘘でしょ!?」


 落下しながらも闘志を失っていない男の姿に、思わず驚愕の声を上げてしまう。

 ……当然の事だけど、アタシが驚いて動きをとれない間も男は真っすぐアタシに向かい落下を続ける。

 男は上半身を捻ると、落下によるスピードを乗せた拳をアタシに叩きこむために、右手を真っすぐに伸ばす。


「くっ!?」


 ……鬼気迫る男の闘志にアタシは思わず怯み、落下してくる男を避けてしまう。


「……し、しまった!」


 少しの間、呆けてしまっていたがすぐに我に返り、地面へと落下していく男を追いかける為に急降下をする。

 このままだと、彼は地面に激突してしまう。

 男を助ける為に全力で追いかけるが、距離はなかなか縮まらない。

 やがて、地表が見えてきたころにようやく、男に手が届く位置まで辿り着く

 ……驚くべき事に男は空中で姿勢を変え、アタシを見据えて拳を引き絞っていた。

 こ、この状況でまだアタシと戦おうとするの!?

 男が繰り出す拳を躱して腕を掴み取り、墜落を阻止する為に急上昇を始める。


「よいしょォォォォォォ!!」


 アタシは落下速度を下げる為に全力で重力に逆らおうとする。

 ブレーキがかかり落下速度は下がるが、それでも落下は止まらない。


「迂闊に近づくとは、何のつもり――」


「ちょっと! 黙ってて!」


 地表がギリギリに迫った瞬間、アタシは体を大きく捻って男を再び上空に放り投げる。

 ……男が落下しても大怪我しない程度の高さというのが、先程とは違うところだ。

 男は当然の様に地面に着地すると、地面すれすれで男を無理に放り投げた事で辛うじて宙に浮きながらもバランスを崩してしまい、体勢を立て直そうとしているアタシを見据えてニヤリと笑う。

 男は大地を蹴って跳躍、アタシに向けて右足を突き出し、跳び蹴りを放つ。

 勿論、アタシもそのままやられるわけはない。

 アタシ自身を突風で吹き上げて躰を浮かせる事で蹴りを躱すと共に体勢を整え、着地したばかりでこちらに背を向けている男を目掛け、空気弾を放つ。

 ……男はこちらを振り返ることなくその場で側転して空気弾を躱す……もはや、驚きも感じなくなってきた。

 しかし、アタシの本命は空気弾ではない。

 空気弾を囮に、アタシは拳を突き出し男に向けて宙に浮いたまま突進を仕掛ける。


「くっ……!」


 即座に振り向いた男はアタシの拳を受け止めるが、その勢いに呻き声をあげる。

 ……先ほどと同じようにこのまま上空へ放り投げてもいいが、この男はそれ位で気絶するような人間ではないのは、既に理解してしまった。

 アタシは男に拳を掴まれたまま、廃工場の壁へと直接ぶつけてやる為に、突進の勢いを強める。

 男はアタシの意図を察し、足腰に力を入れてその場に踏みとどまろうとするが、そうはいかない。

 自身の背後から吹かせた突風を、文字通り追い風にして突進の勢いを高め、廃工場の壁に男を叩きつける……瞬間だった。


「……やるじゃない。おじさん、本当に何者なの?」


 廃工場に男の躰が叩きつけられる寸前。

 男はその場で飛び上がると工場の壁を両足で蹴り飛ばし、その勢いを利用して両足蹴りを放ってきたのだ。

 アタシは男に掴まれている拳に風を纏わせて男の腕を弾き飛ばし、蹴りを喰らわないように後退してから着地する。


「儂は只の用心棒……と、いうことにしておけ。後、お兄さんだ」


 男はそう呟くと、アタシを見据えて構える。

 ……この人、本当に強い。

 どうしたものかと考えつつ、拳に風を纏わせて戦闘態勢を整える。


「再開する前に聞いておきたいんだけど、おじさん、そんなに強いのに何でこんな事してるの? もっと他にできる仕事あるでしょ」


「金を貰ったからには、義理を果たす必要がある。さあ、戦う準備は――」


「二人とも、そこまでよ」


 アタシ達が再び戦闘を再開しようとしたその時、頭上から野太い声が響いた。

いつも私の拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえると、筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

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