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3話‐1

「返してよ! アタシのおもちゃ、返してよ!」


 隣の家に住んでいる一成や文ちゃんと遊ぶ為に近所の公園で待ち合わせをしていたアタシは、二人組の男の子に持っていたおもちゃを奪われてしまう。

 少し準備をするらしく、先に行って待っていてほしいと言われて先に公園まで移動したが、こんな事になるのなら一成の家の前で待って、一緒に公園に来るべきだったと後悔してしまう。


「女の癖に、こんなおもちゃで遊ぶのかよ」


「これ、ジャスティスマスクの剣じゃん。女のお前には勿体ないから、俺達が貰っておいてやるよ」


 ……一成がヒーローを好きで、一緒に遊ぶ為に持っているのに、そんな事言われてもどうしようもない。

 アタシは必死になって男の子たちからおもちゃを取り返そうとするが、アタシよりも背の高い彼らが手を上げると、ヒーローの顔が描かれた剣はアタシの手が届かない高さまで簡単に達してしまう。


「お願いだから、返してよ!」


「嫌なこった!」


「悔しかったら、取り返して見ろよ!」


 男の子たちはそう言って、必死におもちゃを取り返そうとするアタシをあざ笑うかのようにニヤニヤと笑う。

 ……諦めずにおもちゃを取り戻そうと手を伸ばし続けるが、その手は届くことなく、アタシは思わず泣きだしそうになる。


「泣くのか? 弱虫だな!」


「女だし、仕方ないよな! 俺達は帰るから、そこで一人で泣いてろ――」


「ヒーローごっこしようぜ! 俺がヒーローで、お前らが悪役な!」


 アタシをその場に残して立ち去ろうとした男の子達だったが、突如響いた声と共に現れた人影が、アタシのおもちゃを持った男の子目掛けて突撃する。


「な、何だよ、いきなり! 頭おかしいのか!?」


「かずなり!」


 男の子に組み付いた一成はあたしのおもちゃを取り返そうと手を伸ばすが、もう一人の男の子によって引きはがされ、羽交い絞めにされてしまう。


「返せよ! それはふーかのおもちゃだぞ!」


「もう俺達の物だ! ……お前、あいつの何なんだ? 何でそんなに必死になってるんだよ? ひょっとして、あいつの事が……」


 羽交い絞めにした男の子が、腕の中で藻掻く一成に問いかける。


「違う! 弱い者を助けるのが、ヒーローの役目だ! だから、ふーかをいじめているお前達をやっつけるんだ!」


 一成が男の子達に向けてそう叫ぶと、アタシのおもちゃを持っている男の子が一成の目の前に立つ。


「……ヒーローごっこ、やってもいいぜ。だけど、この剣はヒーローの剣だ。つまり、この剣を持っている俺がヒーローで、お前が悪役だ! そいつをそのまま抑えてくれ! ヒーローに歯向かった悪い奴に、罰を与えてやる!」


「うるさい! お前達みたいに弱い者いじめをしてる奴等なんて、ヒーローじゃない!」


 一成が吼えると同時に、男の子が剣を振りかぶる。

 アタシはその後に起きるであろうことを想像し、思わず目を逸らしてしまう。

 ……しかし、その想像は現実にならなかった。


「君達、兄さんをいじめるのはやめてもらおうか」


 男の子が剣を振り下ろす直前、女の子……文ちゃんが不敵に笑いながら男の子に声をかけ、男の子の動きが止まる。


「あや! 危ないから――」


「お前は黙ってろ! おい! 俺はな、女だって容赦しないんだぞ!」


 男の子が文ちゃんに向けて怒鳴りつけるが、文ちゃんは全く動じず、不敵な笑みを崩さない。


「フフフ……」


「何がおかしい!」


 ……このままでは、文ちゃんが危ない。

 一成が動けない以上、アタシが何とかしないといけないはわかっているが、足が震えて動く事ができない。


「ボク達は負けないさ。何故なら、こっちには大人が付いているからね!」


 文ちゃんがそう言うと、視線を公園のベンチに向ける。

 そこには見知らぬお姉さんが、此方に向けて手を振っていた。

 ……それにしても、ボク?


「……きょ、今日の所はこれくらいで勘弁してやる!」


「ま、待ってよ!」


 流石に大人相手には敵わないと判断したのだろう。

 アタシのおもちゃを地面に放り投げ、男の子が公園から立ち去り、一成を羽交い絞めにしていた男の子も、一成を解放して先に立ち去って行った男の子の後をついていく。


「ふーか、これ」


 一成がおもちゃを拾い上げると、アタシに手渡してくる。


「かずなり、あやちゃん、ありがとう」


「れ、礼なんて言わなくていい。弱い者を助けるのは、ヒーローとして当然の役割だからな」


「……嘘が下手だな」


 そっぽを向いて返事をする一成に、文ちゃんがぼそりと何かを呟く。


「あや、今何か言ったか?」


「いや? ただ、兄さんは無様を晒しただけで、大体はボクのお蔭だったって思っただけ」


「何だと! 俺が最初に立ち向かったから――」


 そう言い放った文ちゃんに一成が抗議を始めたのを見て、アタシは思わずクスリと笑ってしまう。


「ふーか? どうしたんだよ」


「かずなりとあやちゃんを見ていたら、なんだか可笑しくなってきて……じゃあ、そろそろ遊ぼうか。ヒーローごっこでいいよね?」


 アタシの言葉を聞くと、文ちゃんは首を横に振る。


「今日はおままごとでもしよう」


「え? アタシはいいけど、かずなりは良いの?」


 アタシとしてはおままごとでも構わない。

 いや、むしろおままごとの方が良いのだが、一成はそれで良いのだろうか。


「……俺も構わないよ」


「よし、それじゃあ準備をしよう」


 文ちゃんはそういうと、ベンチに座っているお姉さんの元へと歩き出す。


「かずなり、気を使ってくれてありがとう」


「……何をいってるのか、よくわからない」


 アタシが一成にお礼を言うと、彼はそっぽを向いて返事をする。


「そういう事にしといてあげる。……そういえば、あのお姉さんは誰?」


「ああ、あの人は、俺達の叔母さん。ウチに遊びにきてて――」


「二人とも! 早くこっちに来てくれ! もう準備が終わったよ」


 一成が話している途中で、文ちゃんが此方に向けて声をかける。


「わかった! 今行く! ……あやが待ってるし、話の続きは後でしよう」


「うん、そうだね」


 アタシと一成は、文ちゃんの元へと駆け出した。

過去の話から始まる3話

2話程長くはないですが、暫くの間お付き合いいただけるとありがたいです。

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