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回る運命と回るカップと回文女

 昔友人に、「大阪の人って、必ず話にオチがあるね。それに、本当に漫才みたいな話なんだねえ」としみじみと言われた。「大阪人は、いつ、いかなる時も、どこででも大阪人である」とも。

 そんな大阪人が異世界に突然移転してしまったら、戸惑うのは、大阪人か異世界人か?

 魔術師は、追い詰められていた。

 魔術という異端の技術を知る者は年々少なくなって行き、資料ですら残っているものは無い。何しろ、口伝だからだ。使える者としては、最後の一人である。

 最後の大博打として科学を根絶しにしてやろうと画策してみたが、科学力と数の力に敗北し、瀕死の重体だ。

 しかし、あと一発、大きな魔術を使うだけの魔力は残してあった。

 嗤いを浮かべ、口を開く。

「ここまでのようだな。だが、ただでは死なん。永遠に、天災が襲い、魔物の大量発生が起こるようにしてやる。ずっと苦しみ続けろ。人類はいつまで持つかな」

「何!?」

 やっとの思いと多大な犠牲で魔物の大量発生をどうにかしたというのに、繰り返されるだと!?追い詰めていた騎士団の誰もが、そういう思いにギョッと顔を引きつらせる。

 その間にも、魔術師は、円環の呪いの魔術の呪文を紡いでいく。

「ちょっと待て!」

「そして回るその名――でっ」

 噛んだ。

 と、床に紋様が浮かび、光を放ち始めた。


 科内懇親会。さる大手の大学病院の解剖科は、年に1度の懇親会に出掛けていた。関西では有名な老舗の遊園地で、遊具、貸しボートがぎっしりと浮かぶ池、冬にはスケートリンク、夏にはプール、秋には菊人形と、四季を通じて愛されている。

 そのコーヒーカップに、若い2人が乗っていた。

 男女ではない。女2人だ。

「そんなグルグル回しなや。何か、酔って来たわ」

 髪の長い方が若干顔色を青くして言った。

 山田真矢。上から読んでも「やまだまや」、下から読んでも「やまだまや」。美人で人当たりが良くて頭が良い期待の新人と言われて就職してから、早や10年。恋人もいない、結婚願望もない、私生活は謎の、解剖科の通称科長代理だ。後輩からは憧れの先輩、上司からは頼れる部下として、ダラダラと病院に出社していた。

「コーヒーカップやで。回してなんぼやん」

 ショートカットの方が、笑いながらハンドルをグルグルと力一杯回す。

 小仲菜子。上から読んでも「こなかなこ」、下から読んでも「こなかなこ」。いつも明るくて活発で物おじしない、科内のムードメイカー、皆の友人だ。

 2人は同期で、かつ、名前が回文という共通点もあって話をするようになったが、気も合ったので、仲のいい友人となっていた。

 と、何か異音がした。

「ん?今何か、変な音せえへんかった?」

「そうかなあ?」

 菜子が首を傾ける――と、なぜか風景も傾いていく。

「え、なんで。あ・・・カップが」

「傾いてるわ」

 カップがゴロンと転がり、投げ出された2人の上に転がって行く。

「まじかーっ!」

「あ、アカン!」

 そして、意識が途切れた。


 床の紋様の中央に倒れる魔術者。そのすぐそばに、何かがゆっくりと床からせりあがって来る。

 光が収まって来ると、それが、女2人である事が見えて来た。

「え?」

 魔術師の目が点になった。

「うあ?」

「何や、一体」

 その2人は光る床の上に立ち、辺りをキョロキョロとしていたが、武器を手に自分達を見ている騎士団の面々を見ると、ギョッとしたように下がりかけ、足元に倒れる魔術師に気付いた。2人を見上げるその姿勢は、あたかもスカートの中を覗いているような・・・。

「何、堂々と覗いてんねん!チカンか!」

 髪の長い方――真矢が言って、ガンと頭を蹴る。

「女の敵やな」

 菜子が呆れた目で見降ろしながら、後頭部を上から踏みにじる。

「ち、違――うがああ」

 魔術師はなけなしの魔力を使い果たし、精神力のみでどうにかもっていた命の火も、消えた。

「うそ。死んだ?うわ、どないしょう!?」

「私が蹴った時は生きとったで。とどめ刺したんは菜子やな」

「タイムラグみたいなもんかもわからんやん。こう、心臓が、もうあかんなあ、止まらなしゃあないなあ、でも急には無理やわ、みたいな」

「トップスピードで走ってる車ちゃうねん」

 言い合う真矢と菜子に、騎士団の面々が恐る恐る声をかけた。

「あの・・・」

「何なん?」

「今、忙しいねん。どっちが傷害でどっちが傷害致死かの分かれ道や」

「いや、それは我々が元々攻撃してて、死にかけていたし、問題はないので」

「あ、そうなんや」

「良かったわあ。流石に、好奇心で刑務所に入る気はあらへんわあ」

 真矢と菜子は笑って、それに合わせて皆も笑った。

「ところで、ここ、どこ?その恰好、仮装なん?とうとうひらパーも仮装パレードやるんか」

 菜子が訊いて、皆、お互いに顔を見合わせた。




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