4話 雨、駆ける
ここまでくれば反応するだろう、メアリーは懐から小さな機械を取り出しいじり始める。
何があるかはわからないが、近づけば何かしらの反応があるかもしれない。
いじっている小さな機械は簡単な測定器で大雑把にエネルギー毎の方角がわかる。
ベテランともなれば測定器など不要なのだが、メアリーは探知が苦手であった。
コレばかりは経験が必要となるのだが、メアリーの扱いが一人前ギリギリなのは
探知が苦手なせいが大きい。
「うーんどれも反応が無いですね・・・」
ボタンを押して、探知するエネルギーの種類を切り替えていく。
「森で起こる事ですからオドに関するものかと思ったんですけども・・・」
オドとは自然由来で発生するエネルギーの総称である。
星環調整師の仕事とは、このエネルギーのバランスをとることが主な仕事となる。
バランスが崩れると、最悪の場合は星が崩壊してしまう。
「ん~?良く考えると不自然ですね、かなり広い森ですが、オドの量が少なすぎるような・・・?
しかし星によって必要なエネルギー量は様々ですし・・・ぅーん経過観察する時間は無いし、
何らかの事象があるという前提ですと、やはりオドが集められていると考えるのが自然かな?」
星の環境は多種多様である、誕生したばかりの星ではエネルギー闘争と呼ばれている
星が誕生した際に発生した様々なエネルギーによるぶつかり合いがあり、混沌とした状態になる。
この時期は星産者の領分なのだが、星環調整師は研修で見学することが必須となっている。
このエネルギー闘争の覇者がその星の主なエネルギーとなり中核を成す。
この際のエネルギーは1次エネルギーと呼ばれる。
メアリーが見学した時は引力が覇者となったエネルギー闘争であった。
あの戦いは凄かった・・・岩や氷の塊が引力によって嵐のように荒れ狂い、
ありとあらゆるものを粉砕していった。
そうして中核となったエネルギーによって生態系が誕生していくのだ。
オドは生物由来のエネルギーであるため、2次エネルギーと呼ばれるものになる。
2次エネルギーは、1次エネルギーを発生した生態系に適したものに変換されたものになる。
星によっては1次エネルギーがそのまま使われる場合もあるが、多くの場合は2次エネルギーが
発生する。
この2次エネルギーは星によって特性や必要量といったものが大いに異なる為、
長い時間をかけて経過観察を行い、少しずつ調整をしていく必要がある。
以前は星産者がすべての作業を行っていたようだが、自分の星が可愛いあまりに別の星産者の星から
エネルギーや物資といったものをこっそり持ち出してしまうことが多発した為、
メアリーのような長命種に調整を委託するというかたちになった。
「オドが少ない割りにここの木々は生き生きとしていますね?ぅーんそういう特質なのでしょうか、
今は時間が無いので調べられないのが悔やまれます・・・
とりあえず指定された場所に急ぎましょう・・・座標・・・合ってるといいんですが・・・」
測定器を元のところへ戻し、スピードを上げる。
橋、滝、ウナギルスの事もあり、おじいちゃんの情報をメアリーはあまり信じられなくなっていた。
他の星産者よりはマシなのだけれど、マシなのだけれども!情報がある分、違っていた場合の落胆が大きいのだ。
他の星産者の場合、『うちの星が何か変だから調査して!!仕事でしょ!!』くらいのことしか教えてくれない。
そのくせ自分の星が大事なのでしょっちゅう文句を言うのだ。
最悪な場合は手遅れになってから呼んでおいて『お前のせいだ!!』とわめき散らす。
まぁそういう場合はウィルシスさんにお願いすれば何とかしてくれるんだけども・・・
ウィルシスさんは星産者と星環調整師との間でトラブルがあった際に解決してくれる人だ。
元々、星産者の一人だったらしいのだけども、色々あって今の仕事をしているそうだ。
本人曰く、『我々にとって星環調整師の方は必要不可欠にも関わらず、酷い扱いをするのが許せなかったので』だそうだ、お会いした時は冷たい感じのする人だと思ったけども、
可愛いもの好きらしく、報酬は星で見つけた可愛いもののレプリカを渡すという事になっている。
今の仕事のほうが可愛いものを集めやすいからやってるのではないか?という疑念の声もあるが、
大いに助かっているので、星環調整師は星につくと、とりあえず可愛いものを探しておくというのが
第一目標になっていたりする。
ちなみにメアリーは可愛いもの探しは行わない。
何故かウィルシスはメアリーの頼み事であると無償で何でもしてくれるのだ。
メアリーは「ホントいい人だなぁ」と心底思っているが、それだけである。
ウィルシスさんとおじいちゃんは微妙に仲が悪いようなので、今回何かあったら真っ先に駆け込もうとメアリーは心に決めていた。
メアリーはあれこれと考えながらヒョイヒョイと森を駆けていく
彼女は異常に足が速いのだ、移動手段を特に気にしないのはこの特徴によるものが大きい。
ただし、ジャンプは苦手なので出来れば木には登りたくない。
彼女自身は足が速いことだけが取り柄だと思っているのだが、本当に評価されているところは、
なんだかんだあっても問題を解決するという良くわからない能力にある。
ベストともベターとも言いにくいけども、落とし所がいいので、ん~OK!という感じの結果を出す。
「あいつに任せとけばなんとかなるか」と言うのが彼女に仕事を依頼した星産者たちの感想である。
ただ、何とも説明がしにくいのと、星産者たちが彼女を囲っておきたいので余り話を広めない為、
評価はイマイチというか悪いほうである。
当人はそういったことを余り気にしない、まだ駆け出しでそれなりに仕事はもらえているので、
それなりに満足している。
森を駆けているとポツポツと何かが当たる感触を服越しに感じる。
「いよいよ降ってきましたか・・・」
目的地まではあと少しといったところだ、出来ればこのまま駆け抜けたいところだが、この雨が何なのかがわからない。
服や帽子に何か当たる感触はあるものの、雨らしきものが見えないのだ。
「とりあえず雨宿りしてみましょう。」
近くにある木の下へ駆け込むことにする。
ウナギルスが言っていたように、空は晴れているのに雨が降っている・・・と思う。
感想があやふやなのは、雨のような音はするし、木々にあたって枝葉が揺れている様は、まさに雨なのだが・・・肝心の雨が見えない。
「んー?このメガネでも捕らえられないって何なんですかね?」
メアリーがかけているメガネは星環調整師の仕事道具の一つである。
多種多様な環境に対応する為に作られたもので、大半のものは知覚できる。
「うーむ・・・新物質発見ですかね!?」
新発見かとワクワクしながらメガネの調節機能をいじってみる
「あ・・・起動してませんでした・・・」
ただの凡ミスであった。
メガネを起動すると、すぐさま雨の正体がわかる
「これは・・・液状のオドなんですね、なかなか珍しい」
本来オドは自然から発生し周囲を球体でフヨフヨ漂っている場合が多い、
今回の様に、液状で雨のように降るほどの重さを持つには、それなりの密度が必要だ。
「まぁ珍しくはありますけども、液系の星の場合ではそれなりに見ますし、特に害はなさそうです。
先を急ぐ事にしますか。」
オド雨が特に問題ないと判断したメアリーは雨宿りを止め、再び走り始める。
「このまま行けば余裕で間に合いそうですね、しかしウナギルスさんの言っていた厄介なやつとは
一体何なんでしょうか・・・」
先を急ぐメアリーは少し油断してしまっていた。
突然現れたソレを思い切り踏みつけ、滑って、2回点半して、盛大に転んだのである。
「にょわああああああああああああああああああ!!!!」
メアリーの悲痛な叫びは雨音によってかき消されていった。




