2話 滝と橋と
川沿いを進む彼女
山の天気は変わりやすいので少し離れて進む。
だんだんと川幅が広くなり小川と呼べなくなってきている。
「さっき渡ったほうがよかったかな・・?まぁ橋があるって言ってたし・・・」
少し不安になりながら歩みを進める、期間が数十年単位が普通な仕事なので、
あると聞いたものが無いといったことは良くある事だ。
今回はおじいちゃんが数年前にちょっと様子をみて橋があったと言っていたので、
おそらく橋はあるのだろう・・・あまり期待しすぎてはいけないけれど・・・。
急がなければいけないという思いからか黙々と歩みを進める。
こんな時、現地の人々に話が聞ければ早いのだけれども、むやみに接触することは禁じられている。
何年経っても姿が変わらないというのはそれだけで恐ろしい、らしい。
場所によっては長くて千年滞在することもあるので人目は極力避けるようにと決められている。
メアリーにはその感情は良くわからなかった。
自分にとっては短い期間にコロコロ姿の変わる面白い人たちくらいにしか思えないのだ。
それに過ぎていなければ時間は余り関係ない。
「しかし体を動かすのは気持ちいいですね~。
みんなは嫌がりますけど・・・私にはこれくらいの時代が丁度いいです。」
星の発展には大きく3期に分けられる。
創星から生命の誕生までは星産者の仕事とされているので星環調整師の仕事は無い。
だからカウントされないが、この時期を入れれば4期になる。
生命が誕生してから知的生命体が発生するまでを初期、文明の発展期を中期、
流通が発達し星の中をある程度行き来することが出来るようになれば後期となる。
人気があるのは後期であり、中期は余り人気がない。
初期は生命が多く、また調整しなければならない事も多いので、物好きな人たちの人気が強い。
しかし星産者と仲が良くなければ初期に立ち会うのは中々難しいのだ。
後期は流通網があるので便乗することによって移動が楽であったり物資も豊富にある。
それに比べて中期は初期組みが調整している為、変化に乏しく、流通もそれほどなので
移動に手間がかかるのだ。
何よりも食事がイマイチというものが星環調整師に人気が無い理由の大半を占める。
長い年月を生きる星環調整師にとって食事が一番の娯楽となっている。
初期は好きに食べれることと、様々な生命がいるため飽きることも少ない。
後期は文明が洗練されているので美味しいものが多い。
中期は初期と後期に比べると、どうしても見劣りしてしまうのだ。
なので中期は星環調整師の新人研修期と呼ばれていたりする。
「たしかに後期と比べると美味しくないかもしれませんが、素朴な味わいがいいんですよねぇ」
そんな中期の星環調整を一人前となったメアリーが行うのは中々変わった人物だと思われている。
それでもメアリーは初期組よりは普通な方だと思っている。
初期組は・・・なんと言うか・・・当人たちは笑っているのだが・・・
どういう生物を食べて腹を壊したとか得意げに語り合ったりする。
それは自慢にならないとメアリーは常々思っている。
星環調整師は基本的に寿命以外で死ぬ事は無く、体調を崩す事はあっても、少しすれば完治する。
メアリーが生水を気にしたりするのは単に苦しむのが嫌なだけだ。
つらつらと今の状況を考えながら時折独り言を呟く。
体を動かしていると、つい色々なことを考えてしまう・・・そう思いながら川沿いを進む。
途中いくつかの川と分岐していたようで上ってきたのは支流のひとつのようだ。
いよいよ水量も増してきた頃、土砂降りの雨のような音が聞こえてくる。
「滝でもあるんですかね・・・?」
川をさかのぼるといよいよ音が大きくなり、滝の存在が確信へと変わる。
すると滝の音に混じって変な歌が聞こえてくる。
『ワシはヌシ~川のヌシ~この川はワシが作った~この川のヤツは大体ワシの子分~イエイ』
思わず足を止め、呟いてしまう。
「・・・なんですこの・・・音痴な歌は・・・」
『誰が音痴やねん!』
あたりを見回すも何も無く、ただ滝の轟音が響く。
そうこうしていると滝つぼから黒い影が現れ、次第に大きくなっていく。
『おうおう譲ちゃん、ワシの歌にケチつけるっちゅうのはどういうつもりや?えぇ!?』
ザバァという大きな水音と同時に顔を見せたのは、大きな・・・それはとても大きな・・・
うなぎだった。
『事と次第によってはワシの美声だけでなく電気で痺れてもらうで!!』
外見は明らかにうなぎなのだが、左右の口の横あたりから伸びている太いヒゲを
顔の前で近づけるとバチバチと電流が走った。
「そうは言われましても・・・下手ですよ?」
メアリーは全く物怖じせず止めを刺す。
『ワ・・・ワシが”かみさん”に教えてもらった大事な歌を・・・!許さへんで!』
怒り心頭といわんばかりに、左右の大きいけれど小さいヒレをパタパタと動かしながら
鎌首をもたげるうなぎ
今にも襲い掛かってきそうだ
「”かみさん”・・・あぁ・・・それで・・・」
メアリーはふと以前おじいちゃんが変な歌を歌っていたことを思い出す。
なにやら自分の作った星で流行っていた歌にハマったらしく、帽子にサングラスを着けて
『ワシ、ひっぷほっぷで食っていく』
などと世迷言を言い出した時があった。
メアリーが冷めた目で小一時間見つめていると小さく『スイマセン・・・』と呟いて
帽子とサングラスを外し、大きく咳払いをしたあと、何事も無かったかのように話しかけてきた。
あの時おじいちゃんが歌っていたものに良く似ていた。
「あなたがウナギルスですか?私はメアリーと申します。」
おじいちゃんから道に迷ったら川にウナギルスがいるから聞くといいと言われていた。
てっきり地元の人がいると思っていたのだが・・・
巨大うなぎだとは教えられていない・・・あと、こんな大きな滝があることも。
こんな事ならもっと前に渡っておけばよかった。
こういう大雑把なところは何とかならないかぁと常々思っているが・・・
星産者だし仕方ない・・・こういう場合の常套句である。
『ん?なんや、ワシのこと知っとるんか?ってことは”かみさん”が言ってた人か』
「はい、メアリーと申します。困った時はウナギルスさんに聞けといわれておりまして、
この近くに橋は無いですかね?見当たらなかったのですが・・・」
さっきまで怒り心頭といった顔をしていたのに今はキョトンとしている。
このうなぎ面白い顔してるなぁと思いながら橋について訪ねてみる。
『あー困ってたら助けてやれって言われるからなぁ”かみさん”のお願いやし、しゃあないな。
ちなみに橋は無いで』
「え、橋・・・無いんですか?」
『無いで、何年か前にごっつ雨降ってな?流されてもたわ
かみさんおらんくなってからやし・・・まぁ知らんでもしゃぁないな』
衝撃の事実・・・だが想定していなかった訳ではない。
「困りました・・・すいませんが私を対岸まで運んでもらえますか?」
こういう場合は切り替えが大事だ、この際、丁度いいので運んでもらおう。
「できれば滝の上だとうれしいです。」
想定していなかったのかキョトンとした顔のうなぎの目が完全に点になっている。
『なんや遠慮ないな・・・”かみさん”みたいな人やな・・・・』
「それは心外です。」
間髪いれずに否定する、おじいちゃんと一緒にされるのは本当に心外である。
『・・・まぁええわ・・・ほな頭の上に乗りぃ』
巨大な頭が近づいてきて地面にあごをつける
乗ろうとした時に、ふと、うなぎはヌルヌルしていることを思い出し少しためらう・・・
恐る恐る触ってみると・・・ヌルヌルしていない・・・が、ブヨブヨしてこれはこれで気持ち悪い。
『ちんたらしてんとさっさと乗りぃなぁ』
体は長いくせに気の短いうなぎはヒゲでメアリーをまきつけると頭の上にちょこんと乗せた。
メアリーは非常に微妙な顔をしていた。
色々と予想外な展開だったけども、すんなりと問題を解決したことに安堵する。
時刻は・・・おそらくお昼をまわって少しした頃だろう。
言われている時間にはまだ間に合いそうだ。
1話だけではと思い続きを、まだ仕事には入っていませんね。
評価で続けるか別のものにするか考えようと思っています。
よければご意見ご感想をよろしくお願いします。




