届かぬ想い(前)
(前)と(後)に分けました。
思っていたよりもブクマがついててびっくりしました。ありがとうございます!
財宝があちらこちらに散りばめられた部屋、今まで奪ってきた物が置かれていた財宝室で、1人佇む者がいた。
その者、ゴルダは実に悩ましそうな顔をしながら、奥に置かれた玉座に座っていた。
「何故フリードが山賊などに堕ちているんだ!」
それはもっともだった。何故ならゴルダの知っていたフリードは、情熱的で正義感が強く、国のためなら命を捨てるような男だったのだ。
それが何故、あんな無機質で、さらには山賊の長になっているのか、どうしても納得がいかなかった。
「王都叛逆の後、一体何が…」
バンッ!
勢いよく扉が開き、財宝室の中に入ってきたのは、下っ端の1人だった。
「報告です!アジト内に侵入者が入りました!」
「数はいくつだ?」
下っ端は、慌てた様子で、そう報告してきた。最初は、フリード達が奪われたものを取り返しに来たのだと思った。
だが、次の報告を聞いた瞬間、ゴルダは唖然とした。
「数は1人、髪を一つ結びにした銀髪の女です!」
1人。このアジトには、総勢500人もの戦闘を得意とする盗賊がおり、それを知りながら侵入するなど、天界に住まう天使ぐらいでないと制圧は不可能だった。
しかも、相手は女だ。もしかしたら、召喚された女の勇者が単独で攻めてきたという可能性もあったが、銀髪の勇者なんて聞いたことがなかったため、この可能性もなかった。
となれば、当てはまる可能性は1つ。
1人で危険を犯してまでアジトに侵入する理由がある女。
「わかった、下がれ」
「あの、ゴルダ様はどちらへ?」
立ち上がって、どこかに行こうとするゴルダに対し、下っ端が恐る恐るどこへ行くのか聞いた。
それに対し、ゴルダは不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「ちょっと拷問室までな」
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アジト内は大混乱だった。既に何人かの死傷者が出ており、盗賊総員で侵入者を探していた。
2人の盗賊は侵入者を探し走っていたが、T字路で一旦立ち止まった。
「俺はこっちを探す。お前は向こうを探してくれ」
「わかった」
その声とともに、2人の盗賊は二手に分かれた。やがて、その盗賊の足音が聞こえなくなると、物陰に隠れていた私は姿を現した。
服についたほこりを払い、一息つくと、また走り出した。
「早くミラ姐を見つけなきゃ」
私はミラ姐が連れていかれた後、しばらく何も喋らなかった。アルラさんや、他の山賊達に慰められたが、心の傷は癒えることはなかった。
そして皆が寝静まった後、アルミナ地方の地図を盗み、ゴルダ達のいるアジトに侵入した。
それで現在に至るわけだがーー
「なっ、お前は!?」
運悪く、曲がり角を曲がった瞬間、盗賊と鉢合わせてしまう。向こうは2人だったため、仲間を呼ばれる前に、殺してしまうことにした。
2人の盗賊が剣を引き抜くよりも早く、盗賊の1人の喉をナイフで切り裂いた。
もう1人は剣を引き抜いて、大きく振りかざしてきたが、それをひらりと避けて、その心臓を貫いた。
もう誰の血か分からないほどに血に濡れた自分の手を見て、嫌悪感を抱きながら、また走り出す。
人を殺す感触。やはり慣れるものではないし、楽しいものでもない。ただ、嫌悪感だけがあるはずなのに、私は違う何かを感じていた。
「あぁ、どうしてっ。私はミラ姐を助けたいだけなのに、なんで!」
それはあの時と同じ。あの夜、2人組の山賊が私を襲ってきた時と同じだった。
その感覚はよくは分からなかったが、ただ1つだけ言えることはあった。
気のせいだと思いたかった。それはーー
「なんで、こんなにも体が疼くの!」
私は立ち止まり、右腕の呪印を睨んだ。
やはり呪印は黒く光っていて、発動している状態だった。それどころか、呪印はさっきよりも広がっていた。
私はナイフを強く握り締め、自分の右腕の上まで持ってきた。このままだと、自分が自分でなくなってしまうのではないかと、不安でしょうがなかった。
故にここで右腕を切り落としたかったが、ここで切ってしまえば確実に、ミラ姐を助けることが出来なくなってしまうので、耐えるしかなかった。
私は右腕の呪印を憎みながら、ミラ姐のいる部屋まで走り続けた。
途中、女奴隷を連れた盗賊がいたので、その盗賊を軽く切り裂き、助けた女奴隷に、今日新たに連れてこられた女の人はいないか尋ねた。
「今日連れてこられた女の人……もしかして茶髪の人?」
「そう、その人!今どこにいるか分かる?」
ミラ姐は茶髪でロングヘアだ。今日という点と茶髪という点が合っていたので、ミラ姐と見て間違いなさそうだ。
居場所さえ分かれば、あとは連れて帰ればいいだけだった。
しかし、希望が見えてきた中、次の言葉で絶望する。
「その人なら、1時間ぐらい前に拷問室に連れていかれたはずよ」
「っ…!」
私は、ミラ姐は牢屋に入れられているものだと思っていた。
だからミラ姐には危害は加わってないとばかり思っていた。ミラ姐の命が危ないと分かった今、手段は選べなかった。
「拷問室はどこ!?」
「えっと、この道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がった先にあります」
思ったよりも近くにあることが幸いだったが、時間はかけていられなかった。それを聞くなり、私は拷問室に向かって走り出した。
小さい頃にカイルに王国に連れてこられて以来、私には友達と呼べる存在や、大切な存在はいなかった。
周りからは、「元農民のくせに」とか、「カイル様に媚びを売ったんだわ」とか色々言われていたため、私と仲良くする者はカイル以外いなかった。
それ故にミラ姐と会った時は、最初は警戒したものの、話していく内に山賊内で一番仲が良くなっていた。
ーー私の初めて出来た友達
だから、どうしても失いたくなかった。カイルに一番最初に紹介したかった。
そんな想いを胸に、私は拷問室の前まで来た。
どんな光景が来ても耐えられるように、1つ深呼吸をした。そして扉を思いっきり開ける。
「ミラ姐ぇっ!!」
「あ………アリア……?」
そこにいたのは、体中傷だらけで鎖に繋がれながら、必死に痛みに耐えるミラ姐の姿だった。