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奪われたものは

ブレイズドグラを討伐し、宴会をしていたフリード山賊団のメンバーは、正体不明の盗賊団、約200人に攻められ陥落した。


30人で勝てるはずもなく、死傷者は出なかったのが幸いだ。


敗北したフリード山賊団のメンバーは、全員外に集められた。


「ゴルダ団長、これで全員です」

「遅いぞ!もっと早く占領できんのか!」

「申し訳ありません!」


ゴルダ団長と呼ばれた、背が高くてゴツイ、蛇のようの鋭い目をしていて、顔についた傷跡は、いかにも盗賊の長というのに相応しかった。


ゴルダ団長は、私たちの前に出ると、こう脅迫した。


「我らの言うことに従えば命だけは助けてやる」


それは、定番の盗賊のセリフ。こう言われるのは皆、覚悟の上だった。


悔しながらも、誰もそれを顔に出すことはしなかった。


「さて、お前らの長は誰だ?」

「俺だ」


ゴルダ団長が問うと、フリードさんが名乗り出た。フリードさんの顔には、少しの焦りも見られず、いつもの冷静なままだった。


それが気に食わないのか、ゴルダ団長は顔を少し歪めた。


「誰も殺さないでおいてるのは我らの温情だ、感謝しろ!」


ゴルダ団長は、嫌らしい顔でそう言ったが、特に効果はなく、逆に言い返されることになった。


「………どうやら、道中一回も盗賊に会わなかったのは、盗賊達が連合を結んだからか」

「なっ、どうしてそれを!」


ゴルダ団長は、脅したつもりだったが、逆効果だったようだ。


フリードさんは驚くゴルダ団長を無視して、言葉を続ける。


「盗賊達は、お互い争い合うより手を結んだ方が利益が大きいと気づいた。だが、誰が長に?そうなった時、一番部下の数が多く、強い力があった。王国から追放された騎士達は、盗賊の長に成り上がった」


次々と暴かれていく真実に、ゴルダは無意識のうちに1歩1歩後ずさりをしていた。そしてフリードさんは、その鋭い眼光でゴルダ団長を睨みながら、こう言った。


「そうだろ?アルミナ騎士団、元騎士団長 アラス・ゴルダ」

「な……貴様は一体!?」


そういえばフリードさんの素性のついては聞いたことがなかった。副団長のアルラさんでさえ知らないらしいので、その正体は謎に包まれていた。


フリードさんは、胸のポケットから古ぼけた小さな銀時計を取り出した。


それを見たゴルダ団長は、見て分かりやすいぐらいに驚愕していた。


「それは、アルミナ騎士団の…!?」

「お前の1つ前だ。俺がアルミナ騎士団の騎士団長だったのは」

「まさか、お前はあの王都叛逆のアイザス・フリードか!」


フリードさんは、フッと笑って返した。


色々とわからない言葉はあったが、フリードさんとゴルダ団長は同じ、元アルミナ騎士団長だったということと、お互い顔見知りだということはわかった。


ゴルダ団長は、フリードさんを強く睨むと、剣を腰から引き抜き、フリードさんの首に当てた。


「アイザス・フリード!本当はここでお前を殺したいが、騎士の誓いがある。先王、ヴァルス様に感謝することだな!」


ゴルダ団長はそう言うと、剣を腰にしまった。私はフリードさんとゴルダ団長が知り合いで、騎士の誓いというもので、私たちには危害を加えないものだと勘違いした。


だが、違った。


「だが、それとこれとは別だ。お前ら、あり金と食料を全部持ってこい!」


ゴルダ団長の手下達が、私たちの身につけていた装飾品やら、食料やらを奪い取った。


山賊達は、最初から分かっていたかのような表情だった。慈悲などない、それが奪う者のの掟だと分かっていたからだった。


私はまだ、この時はその掟を知らなかった。


大方奪い終わると、ゴルダ団長は引き上げようとした。そのまま終われば良かったのだが、そうはいかなかった。


「そういや忘れていたな。あと女だ。そこの女2人を連れてこい」

「!」


そこの女2人とは、もちろん私とミラ姐のことだ。私が連れていかれれば、遠征は台無しになる。それを分かっていたため、山賊達はそれを阻止しようと動こうとした。


だが、真っ先に動いたのはミラ姐だった。


「待って、連れていくなら私だけ連れて行きなさい!」

「そんな権利、お前達にあると思っているのか?」


ゴルダ団長は最初、無駄な足掻きだと思った。故に、力づくで2人とも連れて行こうとしたが、次のミラ姐の行動で固まった。


ミラ姐は私の側に来て、私の腰のナイフを引き抜くと、私の首に当てた。


「ミ、ミラ姐?」

「どうしても2人とも連れて行くというのなら、私とこの子の命はないわ」

「貴様ッ!」

「連れて行くなら私だけ、いいわね?」


最初はどういうことか分からなかったが、やっとここでミラ姐の言っていることがわかった。つまりは、自分を犠牲にして私を助けようとしているということだ。


それが分かり、ミラ姐を引き留めようとした時には既に遅かった。


「分かった、貴様の度胸に免じてお前だけ連れて行くことにする」

「ま、待ってミラ姐!どうしてそんなっ」


ミラ姐は私の首からナイフを下ろし、私の腰にナイフを戻した。


私は泣きそうな顔でミラ姐にしがみついた。ミラ姐とこんな形でお別れするのは嫌だったから、カイルに真っ先にミラ姐を紹介したかったからだ。


ここで別れるなんて嫌だ。心にあったのは、その想いだけだった。


ミラ姐は、そんな私を優しく抱きしめてこう言った。


「ねぇアリア。あなた、料理はできる?」

「……うん」

「だったら大丈夫。私の代わりに、みんなに美味しい料理を作ってあげてね」


そう言うと、私の頰に優しくキスをし、私からそっと離れた。それが別れの瞬間と分かった私はそれが嫌で、追いかけようとするが、アルラさんに押さえられた。


私は必死にミラ姐を追いかけようとするが、アルラさんの力には及ばず、追いかけることはできなかった。


「アルラさん離して!このままじゃミラ姐が!!」

「ダメだ、離すわけにはいかない!」


遠くなっていくミラ姐に向かって手を伸ばすが、届くはずもなかった。


やがて、向こうまで行ってしまったミラ姐は、ゴルダ団長の手を取った。


「お願い、行かないで、ミラ姐!!」


最後に、ミラ姐は泣き叫ぶ私の方を向き、苦しそうな笑みを見せて、私に向かって何かを呟いていた。


しかし、遠すぎてそれが私に聞こえることなく、そのままミラ姐はゴルダ団長達と向こう側へ、歩き出してしまった。


「待って、ミラ姐!ミラ姐ぇぇ!!!」


この叫びは、ミラ姐には届かなかった。

分かりづらいですが、山賊がフリード側で、盗賊がゴルダ側です。

次話が残酷な話になります。

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