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ブレイズドグラ『炎の獅子王』

ーー嗚呼、風の音すらも聞こえない


以前とはすっかり変わり果てた様子の私は、黒いドレスを身に纏い、無機質な表情で、崖の上で月の光を浴びながら黄昏ていた。


崖の向こう側に広がる空は、暗く漆黒のように澄み渡り、その中心に見える光は、ダルガ大陸最大の王国、アルデンだ。


私は、アルデン王国をしばらく眺め続けた後、こう言い放った。


ーーいつか必ず、壊してやる


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「アリア、いい加減起きろっ!」

「ん………」


最初は起きるのを拒んだが、朝ごはんのいい匂いに釣られて、ゆっくりと目を覚ました。


目の前には、アルラさんが怒った形相でこっちを見ていた。アルラさんの怒った様子を見て、私は慌てて起きると急いで着替え始めた。


その様子を見ていた、アルラさんはやれやれ、といった様子だった。


「アリアって本当に王妃様だったのか?」

「もちろんよ!」

「だといいんだが……生活面を見てるとそうは思えない」


それもそのはず、私の寝ていたところには、道具が散乱していて、とても寝れるような状況ではなかった。


そんな状況で私は寝ていたのだから、ある意味尊敬に値すると思う。


なんてくだらないことを考えていると、ふと思いついたようにアルラさんが聞いてきた。


「そういや、昨晩は随分とうなされてたけど、どんな夢見てたんだ?」

「んー、よく覚えてないなぁ…」


どこか苦しかったのは覚えていたが、鮮明な内容は覚えていなかった。


アルラさんは、「そっか」とだけ言うと、どこかへ行ってしまった。


そんなことより、今はご飯の方が重要だったので、急いで食事場へと向かった。


王都遠征を開始して、3日が経過した。旅は思ったよりも順調で、今のところまだ一回も盗賊には襲撃されていなかった。


のどかな平原が続き、生息する魔物や動物は、穏やかな気性のものが多かった。


故に食料調達も順調で、このままいけば、あとはブレイズドグラを狩り、竜との交渉だけだった。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、ミラ姐」


私は食事担当の1個上のお姉さんこと、ミラ姐から朝食をもらい席に着いた。


今日もいつも通り1人で食事をしていると、今度は、副団長のアラルさんーーではなく、ミラ姐が向かいの席に座ってきた。


「ミラ姐、料理当番は?」

「アリアでちょうど終わり。あなた、起きるの遅すぎよ」

「あはは…」


ミラ姐曰く、私で食事を渡すのが最後らしい。


ミラ姐は、小さい頃に前の団長、カグロス・アルーザさんに拾われたらしい。元から戦闘能力の低かった彼女は、料理担当として、山賊団を支える重要なメンバーとなった。それ故に、この山賊団には十分に感謝していた。


私のお姉ちゃん的な存在だ。


「それにしても、魔法ってすごいのね。こんな大きな建造物を一瞬で作ったり消したりできるのだから、便利なことこの上ないわ」


ミラ姐が、関心したようにそう呟いた。


現在私たちがいるこの建物は、マジックハウスといって、魔法によって小さくして、持ち運びが可能なのだ。故に、冒険家や旅人が愛用していたりする。


ただし便利性が高く、高位の魔導師しか作成できないため、なかなかに高価だった。


「ほんとだよね!私、こんなの初めて見た」

「アリアって案外子供っぽいところあるわよね」

「そ、そう?」


ミラ姐から子供っぽいと言われて少し戸惑ったが、たしかに私は1個下なので子供っぽいと言われるのはしょうがないと思うことにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いたぞ、あれがブレイズドグラだ」


私たちは竜が最も好むという、ブレイズドグラを狩りに来た。王国にいた時、名前だけは聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。


『ブレイズ』 炎

『ドグラ』獅子王


つまりはこうだ。ブレイズドグラ、人呼んで、『炎の獅子王』


その姿は恐ろしく、燃え盛るたてがみに、燃えるような真っ赤な翼。その牙は、竜であろうと喰い千切ると言われている。


私が王国にいた時でさえ、よくおとぎ話で何度か耳にしたことがあったが、まさか本当に実在するとは思わなかったのだ。


ブレイズドグラは、その鋭い眼光でこちらに気づくと、恐ろしい雄叫びを上げ、こっちに突進してきた。


「お前ら、構えろ!」


私たちは、言われた通りに武器を構えた。


ブレイズドグラなんて、普通ならば、人間が30人でかかっても勝てない相手だろう。


もちろん普通ならの場合の話だ。


「今だ!」

「「「魔法書展開!」」」


フリードさんの計画通りに、山賊たちは魔法書を発動した。魔力の持っていない山賊には魔法など扱えるはずがなかった。


しかし、魔法書にあらかじめストックされれいる魔法であればどうだ、魔力を保持していない者でも、魔法が扱えるのだ。


「喰らえ!アイシクル・フォグナ・エガースト!」


山賊達の放った魔法は、氷属性の広範囲呪文、エガーストだ。ブレイズドグラの周辺を凍らせることができた。


グルアァァァァアア!!


ブレイズドグラの熱気は少し収まったものの、まだその動きは、鈍っていなかった。


地上が不利と判断したのか、今度はその真っ赤な翼をはためかせ、空を舞いはじめた。空中から吐かれる炎は、瞬く間に地上を焼き尽くした。


だが、これも計算内だった。


「空に行ったぞ!総員、対空魔法展開!」


フリードさんの指示通りに、対空魔法の魔法書を取り出し、詠唱にかかる。


「アイシクル・フォグナ・ブレイスト!」


氷属性の攻撃魔法、ブレイスト。つまりは、氷の弾丸を放つ魔法だ。


放たれた弾丸は、ことごとく炎で相殺されるか、避けられた。


が、これも計算内だ。


氷の弾丸の嵐の中、次の手が打たれた。


「今だ、ライル!閃光弾!」

「まかせてくだせぇ!」


山賊団屈指のスナイパー、ライルが魔導銃で閃光弾を放った。


それは、ブレイズドグラめがけて真っ直ぐ飛び、氷の弾丸を避けるのに必死だったブレイズドグラは、閃光弾に気づかなかった。


「目を塞げ!」


山賊達は、その指示に従ってすぐに目を塞いだ。それと同時に、ブレイズドグラの目の前で閃光弾が爆発する。


グガアァァァアア!!


ブレイズドグラの断末魔と共に、ブレイズドグラが地上に落下する音が聞こえた。


「拘束詠唱!」

「あいさぁ!」


フリードさんはブレイズドグラが落下するのを確認すると、すぐさま仕上げに入った。


「アイシクル・フォグナ・バイスト!」


バイスト、対象を動けなくする拘束魔法。かつて私に使われたのは、闇属性のバイストだた。


これによって、見事にブレイズドグラの動きを封じた。抵抗して、力で拘束を抜け出そうとすれば、もう一回バイストをかければいいだけだった。


フリードさんは、拘束されているブレイズドグラに近づき、剣を振り上げた。


グルウゥ…


ブレイズドグラは、獣ながらどこかフリードさんを恨めしく見ているようだった。そんなことは気にせずと、フリードさんは剣を振り下ろした。


「恨むなよ」


フリードさんは、そうとだけ言い残すと、こう私たちに宣言した。


「我々の勝利だ!」

「ウオォォォオオ!」


特に、戦争に勝ったわけでもないが、おきまりの台詞だったため、違和感はなかった。


ここまでは、順調だった。あとはアテラ山に登り、ブレイズドグラの肉を捧げ、竜の助けを借りるだけだった。


ーーその日の夜のことだった。


山賊のメンバーは、狩りの成功を祝い、浮かれながら酒を飲んでいた。


誰だって、あんな戦闘をした後じゃ、浮かれて酒ぐらい飲みたくなる。それを分かっていたので、フリードさんは宴会を許したらしい。


だが、当のフリードさんの顔は浮かない様子だった。何か、納得いっていないというか、悩んでいる様子だった。


気になった私は、思い切ってフリードさんにどうしたのか聞くことにした。


「フリードさん、浮かない顔してるけど何かあったの?」

「……確実におかしい」

「??何が?」


フリードさんは、どうしても納得いかない顔をしていた。


最初、私は何がおかしいのか分からなかった。フリードさんは、重たそうに、納得のいっていない原因を呟いた。


「ここは盗賊地帯だぞ。なんで盗賊に一回も襲撃されないんだ」


そう、奇妙な点はここが山賊地帯であるはずなのに、まだ一回も盗賊に襲撃されていなかった。


普通なら、商人が絶対通らないことで有名なアルミナ平原に、盗賊がいないことの方がおかしかった。


何か異変が起きている、そう確信した。フリードさんは、すぐにアテラ山に移動するように指示をしようとした、その時だ。


「ッ、敵襲あり!東の方向、盗賊の襲撃です!数は……おおよそ200人!」

「予想通りか、もっと早く気付くべきだった」


200人。いくら盗賊団といえど、ありえない数字に驚愕しながらも、総員は戦闘態勢に備えるのだった。

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