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記憶の中で


 一番古い記憶の中で、最初に出てくるのは、重く冷たく錆びた手枷だった。

 食事する事以外、此奴が離れる事は無かった。両肩一杯に広げる事も出来ず、俺に出来る事は、指遊びだけだった。だからなのか、今でも暇になると癖で指遊びをする。今に思えば、不便とは思わなかった。何故なら、当時の俺はそれが全てで、それ以外は知らなかった。

 次に、覚えているのは、暴力。

 ただ、その場に居るだけで顔を殴られて、腹も蹴られては、嘔吐すればそれが気に入らないのか、また殴られて蹴られた。抵抗する気も湧かず、何故こんな事をされているのかも分からなかった。そもそも、理解しようと俺はしなかった。何故なら、俺にはそれしか分からなかった。だけど、大人しく従えば暴力が降ってこない事は分かった。だから、俺は言われた事には、黙って従った。

 その後は、文字や言葉を教えられた。けれども、教え方は酷く雑で適当で毎回違った事を教えられては、困った。それに、違っていればまた暴力。そして、食事が出される事は無くなり、三日三晩は水も出されなかった。だから、俺は懸命に聞き耳を立てて覚えた。

 どうやら、俺が世間で言う生まれてから十年目を迎えた時。

 俺を奴隷として雇っている大人が、次に教えたのが、殺す方法だった。

 ただ、これまで様々な大人が俺に教えていたけれども、今回は変な大人だった。同じ奴隷なのか、それとも雇っている大人だったのか、今はもう亡くなって分からない。どんな過去を持っているとかは、知りたいとも思わない。けれども、今の俺を作ってくれた貴重な人間だったと思う。

 その人は、自分の事を呼ぶならば、師匠と言えと言われたから、呼んだ。

 代わりに、俺の事も『レオン』と呼ばれた。

 師匠は、俺にあらゆる殺害方法や人体の仕組みや、どんな事をすれば効率的に殺せるのか、どんな武器が世界に有るのか、どう扱えば良いのかと、一般的には教えない事を俺に丁寧に教えてくれた。それに、世間での出来事や生き方と色んな事を教えてくれて、これまでの中で一番俺は熱心に、師匠の話を聞いていたと思う。

 最初に、人を殺したのは、師匠と出会って一か月目の夜だった。

 相手は、中年の男性だった。殺すのは、簡単だった。

 そいつは、酒でも飲んで泥酔状態で道端に寝込んでいる所を、襲った。近くに転がっていた小枝で、そいつの首筋に一気に差し込んだ。

 泥酔していたからなのか、特に悲鳴も抵抗も無く簡単に死んだ。

 噴水の様に、首筋から血が噴き出して、俺は茫然と頭から血を浴びて人が死んで行く瞬間を傍観していた。

 人間から、屍に変わる瞬間を見届けて、俺は師匠の元に戻ると、豪快に笑われた。そして、殴られた。

『バカだな、殺したんだなら、早くその場から退散しろ、アホ。こんなに血塗れになって、お前の服を洗う人間の事を考えろ、馬鹿野郎』

 良く分からなかった。けれども、次からは血を浴びない様に努力した。

 それから、俺の両手が血で真っ赤に染まる日々が始まった。

 そうして、月日が流れて、師匠が亡くなって、奴隷主から名前で呼ばれ、幾千の戦場を駆け巡り、生まれてから、二十年目の夜を過ごした。

 それでも、俺の手首には枷が外される事は無かった。

 あの、女に出会う時までは。




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