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008,自由意思



 ネズミの王国は、最低ランクの迷宮だ。

 でてくる魔物も弱く、罠もない。

 通路も難しいものではない。一階層はほぼ一本道のようなものだったし、二階層でも、分岐があってもどちらに進んでも合流するような事実上の一本道だった。


 ルトの殲滅速度が上がったおかげで、一階層と比べて牙ネズミが一種類増えた程度では何の問題もなく進むことができた。

 ご機嫌な骨がスパイクブーツでネズミを踏み殺す姿は、なかなかホラー極まっていると思うけど。


 結局、三階層への階段へたどり着いたのは、夕方の四時くらいだった。

 一階層から二階層までかかった時間は五時間くらいなので、ルト張り切りすぎだろう。

 まだ夕ご飯には早い時間だが、ちょっと足がつらい。

 戦闘には一切参加していないけど、幼女の足で一日中迷宮を歩くのは大変なようだ。

 かといって、ポチは骨なので乗り心地悪そうだし、狼ズはルトと一緒に戦闘に参加している。

 ポチと狼ズの一匹を交換したらいいのかもしれないが、ぶっちゃけポチのほうが狼ズよりずっと有能なので、護衛をさせるとしたらポチだろう。

 まあ、一階層、二階層ともに一匹たりとてオレのもとまでこれたネズミはいないが。


 三階層に降りても、迷宮の構造自体には変化はない。

 だが、二階層で牙ネズミが追加されたように、魔物の出現傾向にはなにかしら変化があるはずだ。難易度が高まる方向で。


 オレの足もつらいので、一回だけどんな魔物が追加されるのかを確認したら帰る予定だ。


 ルトと狼を先頭としたいつもの陣形でしばし進むと、毎度のことながら大量の魔物の群れを発見した。

 しかし、その群れにはネズミはネズミなのだが、二足歩行する亜人と呼ばれるタイプのネズミが混ざっている。

 だが、脅威度でいえば大したことはなさそう。


 オレたちを補足して一気に動き出したネズミの群れだが、四足歩行の大ネズミや牙ネズミよりも、亜人のネズミ――ネズミ人の動きは遅い。

 明らかにスピードに差があり、ルトたちが大ネズミと牙ネズミを倒したあとちょうどいいタイミングでネズミ人が到着し、撲殺あるいは噛み殺されていた。

 二足歩行でさらに手も人のように進化しているのに、武器も防具も身に着けず、噛みつきやひっかきで攻撃してくるようでは、こんなものだろうか。

 武器や防具を装備して集団で連携されたら、強いかもしれないが、まだまだ大丈夫だろう。


「さあ、帰ろうか」


 散らばった魔石を回収し、本日の迷宮探索はこれにて終了と相成った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 部屋へ戻り、ルトには狼ズの洗浄を頼み、オレは残っている魔石の換金作業を行う。

 手を洗うのはそのあとでいいだろう。

 もう足もだいぶ疲れているので、リビングまで行かずキッチンの前あたりに座って作業を行う。

 だらしないけど、文句は誰も言わないしね。


 午後の迷宮探索の結果、合計金額は一万の大台を超える、12,210円

 午前中の稼ぎを少し上回るくらいだったかな?

 まあ、探索時間が午後は午前中より少なかったのでこんなものだろう。

 それより、ネズミ人が大ネズミの倍の値段になったのが美味しい。

 魔物が強くなれば強くなるほど、魔石の値段は上がっていく。

 手に負えないほど魔物が強くなるのは勘弁してほしいが、倒したあとに得られる魔石は魅力的だ。

 それでも強すぎる魔物一体を苦労して倒すよりも、安定して倒せる魔物を複数体倒すほうがいいけど。

 だが、いずれはそういった強力な魔物も相手にしていかねばならないだろう。

 オレのやるべきことは迷宮の駆除なのだからね。


 作業が終わった頃に、狼ズの洗浄を終えたルトがお風呂場から出てきた。

 しっかりとお風呂場の掃除も終えているようで、湯船にはお湯を入れている最中のようだ。

 夕飯前にお風呂に入りたいと思っていたので、さすがルトだ。


 それにしても、現状ではみんなでお風呂場を使っているが、将来的には別々にしたい。

 ルトがピカピカに掃除をしているから、返り血を洗浄する程度なら気にならないが、これからも使役する下僕の数は増やしていく。

 そうなると、どうしても洗浄に時間がかかってしまうようになるだろうから。

 迷宮においてくるわけにもいかないし、部屋に上げる以上は洗浄は必須だ。


 まあ、それも通販アプリで購入可能なので、お金が貯まったらいずれ追加したい。

 一万円程度ではとてもではないが無理だけどね。


 だが、一万円あればルトの装備をもっと追加できる。

 まだまだお金は必要だなぁ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 お風呂を堪能し、いや堪能したのはお風呂ばかりじゃなかったけど。

 とにかく、迷宮探索の疲れはだいぶ癒やされた。


 ホカホカのまま、クローゼットにあった替えのタンクトップ一枚で夕飯の準備を進めていると、庭でポチたちと遊んでいたルトがやってくるのが見えた。

 料理はだめかと思っていたが、勘違いだったのかな? お手伝いだけでもありがたいけど。


「あいたっ」


 手伝いにきてくれたのかと思ったルトだったが、なぜか頭を叩かれた。

 でも反射的に声がでただけで、本当は全然痛くなかったけど、すごく驚いた。

 いくらルトが自由意思を持ち、本当に自由にしているとはいえ、使役者であるオレの頭を叩くという行動が取れるなんて。

 普通、使役されている者は使役者に害を与える行動は取れない。

 そのルールがある限り、使役者を傷つけるなんてことは絶対にできないのだ。そのはずなのだが……。


「な、なんでたたい……あー、はい。ごめんなさい」


 驚きながらもルトに叩いた理由を問いただそうとしたところ、目の前に布を突きつけられた。

 よく見なくてもそれは、替えのワンピースだった。

 つまり、タンクトップ一枚というはしたない格好をしているな、ということだったのだ。

 そういうことなら、叩いたのだって害を与えるためではないのだからできたのだろう。


 確かに、タンクトップ一枚という姿ははしたない。

 自分が幼女だということが、頭からすっぽりと抜け落ちていた。

 それに、使役しているもの以外は誰もいないのだから、別にいいかな、という思いもあった。

 でも、使役しているとはいえ、ルトには自由意思があるのだ。

 もう少し気をつけるとしよう。


 ちなみに、ワンピースを渡し終えたルトは、ちゃんとオレが着るのを確認してから庭に戻っていった。

 ……手伝いはしないのかよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕飯を摂って後片付けを終えると、テレビをつけて……テレビないわ。

 BGMが庭で遊ぶアンデッドたちというのが、ちょっとホラー気味だが仕方がない。

 通販アプリで音楽配信とかしてくれないかな。


 そんなことを考えながら、通販アプリで次のルト用の装備を検索する。

 靴はスパイクブーツがあるからいいとして、次はなんだろう。

 スパイクブーツは装備としては、どちらかっていうと武器だよな。

 大きな骨があるから両手に持つ武器はいいとして、次は防具か。

 防具とは、身体を守るためのものだ。特に急所を。

 では、スケルトンにとっての急所とはどこだろう?


 使役する際にも重要なパーツとなる、頭骨や胸骨などの大きな骨パーツなどがそれにあたるのだろうか。

 そもそも、スケルトンはどの程度ダメージを受けると活動できなくなるのか。

 アンデッド系がでる迷宮に行ければ確かめられるのだが、今行ける迷宮はネズミの王国のみなので無理だな。

 外の世界から直接行く方法もあるが、目当ての迷宮がどこにあるのかわからない。

 まあ、前回同様ルトの好きに選ばせるか。


「おーい、ルト。ちょっときてー」


 ポチに足を引っ掛けられて庭を滑っていた骨を呼ぶ。ポチすごいな。

 やってきたルトは、全面の骨が見事に庭の土塗れだったが、皮膚がない分そういった汚れは落としやすく、自ら用意してたタオルと雑巾ですぐきれいになった。

 庭で汚れるのは織り込み済みで、しっかりと用意しているのだから、本当に頭が下がる。

 ちなみに、スパイクブーツは玄関で脱いでいるので素足だ。骨だけど。


 そのまま話を伝えて、カテゴリー選択をさせると、今度は手袋が欲しいことがわかった。

 ルトのジェスチャーからわかったことだが、どうやら骨の手ではグリップ力が低く、大きな骨を保持するのが大変だったらしい。

 骨の手には皮膚がないから、そうなのかもしれない。


 ルトが選んだ手袋は、防振・防滑手袋鉄板仕込みというものだった。

 手のひら側にしっかりとすべり止めがされており、防振対策もされている。

 手の甲側には鉄板が仕込まれてある程度までなら刃物も受け止められそうだ。名前が非常にシンプルだが、性能はそこそこよさそう。

 ちなみにお値段は、3800円。

 これも例のフリーサイズ(魔法)で1000円追加となる。

 骨の手では絶対フィットしないしね。


 支払いを確定させてすぐに玄関から取ってくると、ルトは嬉しそうに手袋をつけていた。

 骨の手でも、握り込むと仕込まれた鉄板がしっかりとフィットして、あれで殴られたら相当痛そうだ。

 まあ、狙いは大きな骨をしっかりと保持することだから、殴るのは少ないかな?


 まだ色々買えそうなので、楽しそうにシャドーをしている骨を呼んで買い物を続けた。


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