042,魔法の装飾品
現場はディエゴたちが後処理をしたので、オレが行くまでもない。
当然ながら放たれていた斥候なんかもルトとポチ、キールが狩ってきてくれたのでこれで男爵の手勢は全員始末できた。
領地や屋敷にはまだいるかもしれないが、この辺りにいるやつらはこれで全部だ。
うちにはルトとポチという強者の中の強者がいるからね。
そのくらいの判断はできる。
ちなみに、イリーたちフレイムリンクス組が男爵たちをものの数秒で殲滅したのは、戦力測定の際に使った大火球ではあるが、爆発はしないタイプだ。
さすがにドユラスの街からそれほど離れていないので、あれを使うと爆発音が聞こえる可能性がある。
なので、火柱が一定の高さまで上がって留まり、内部を焼き尽くすタイプ――大火柱を使わせた。
男爵の手勢が数十人ほどは陣取れる程度には、森の中でも開けた場所だったとはいえ、周囲の木々や下草に延焼しなかったわけではない。
無論、後詰めのディエゴとブラックオウルが消したわけだけど。
それでも爆発するタイプよりは、燃える位置を限定できたのでマシだろう。
あとは、消し炭になった男爵たちをディエゴが土操作で埋めて終わりだ。
掘り返せば遺体がでてくるだろうけど、それが男爵たちだと特定するのはかなり難しい。
それくらい大火柱の威力は高いのだ。
何せ、ほとんどの遺体が原型を留めなていなかったそうだからね。
斥候を片付けたあとに、キールに確認に行かせたので間違いない。
外の世界には、魔物という脅威がいるため、たとえ護衛を大勢連れて移動する貴族といえど、絶対安全などということはない。
一般人よりは遥かに安全ではあるが、こんな森の中では魔物に襲われて壊滅するなんてことはよくある話だ。
いくら袖にされて腹がたったからといって、こんなところで待ち伏せを行うこと自体ちょっと脳みそが足りないと言わざるを得ない。
典型的なバカ貴族だったのだろうね。
まあ、あのひどいセリフを開口一番に聞かされれば確定みたいなもんだけど。
こうして、ひとりの男爵がこの世から消えたわけだが、捜索はされてもオレたちまでたどり着くことはまず無理なので心配ない。
さあ、足止めを食らった分さっさと進もう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドユラスの街を発ってから数日。
迷宮探索と移動の毎日を過ごしている。
そろそろ迷宮都市も近くなってきてはいるが、それでもまだ数日はかかるだろう。
今は、迷宮都市に向かう街道の名所のひとつに向かっている。
迷宮都市への街道からは少し逸れることになるが、強い魔物が跋扈する樹海が近くにあるそうなのだ。
その樹海の前には大きな要塞が設置されており、軍が睨みを効かせている。
そのおかげというわけではないが、樹海から魔物が溢れ出てくることは稀だそうだ。
大抵は軍がなんとかしているらしい。
街を飲み込むような大氾濫のような大量の魔物が溢れてくることもないことから、樹海には特に迷宮があるわけでもないという。
それでも何かしらの理由で、その樹海には強い魔物が何体も集まってくるのだそうだ。
強い魔物。
実にそそられる響きだ。
修練者や強い相手を求めている奇特な人間でもなけば、近づかない場所だが、オレは強い魔物に用があるので寄っていくことにした。
分岐点となっている街で、リウルとキールを中心とした情報収集部隊が集めてきた情報によれば、要塞といえど樹海全体を見張っているわけではなく、地形的に通られると厄介な場所を重点的に監視しているらしい。
なので、要塞の警戒網に引っかからずに樹海に入ろうと思えばできなくはない。
馬鹿正直に要塞を通って真正面から樹海に入る方が難しいし。
オレたちには魔法銀証級の冒険者がふたりいるとはいえ、それはそれ。
要塞は国の管轄だし、よほどの事情がなければ通してくれるわけがない。
ちょっと中に入って強い魔物殺して使役してくるだけです、なんて話が通るわけないのだ。
樹海も、奥に行くほど魔物の強さが上がっていくという、定番の状況のようだし、ある程度時間をかける必要があるだろう。
この数日の迷宮探索で、夕暮れの花園の到達階層もついに十四階層にまで及んでいる。
ドユラスの街で十三階層の半分くらいまで探索できていたので、実に順調だ。
十二階層では、トゲトゲの薔薇で形作られた人型が各種剣や槍、斧などの近接武器で武装した薔薇戦士が追加されたが、追加戦力のイリーたちもいるのでまるで問題にはならなかった。
十二階層ではグンドやリウルたちは別行動だったので、ここでは彼らは戦っていない。
十三階層の後半には参加してきたが、グンドたちはさすがは魔法銀証級というだけあって、この程度はなんなく倒せている。
彼らの戦力も大体わかったが、やはりルトには遠く及ばないようだ。
それでもリウルたちとは明白に違うほど強い。
彼らは鋼要塞の拠点を引き払う際に、予備の装備や道具、お金なんかも全部持ってきたのだが、装備には魔法の武具がたくさんあったし、道具も魔道具の類が結構あった。
お金はともかく、これは結構嬉しい。
なので、リウルとリーンにもいくつか選ばせて、装備させている。
おかげで、彼らもかなり強くなることができた。
それでもやはり、グンドたちには遠く及ばないのはある意味仕方ないところだろう。
ちなみに、オレは数日の探索で得られた資金をガンガン使ってアクセサリー系の防具を揃えてみた。
まずは、防御に重点を置いて、指輪をふたつ。
大きなアメジストがついた指輪と、こちらも大きなエメラルドがついた指輪だ。
アメジストの方が魔法防御力をかなり向上してくれるもので、試しにグンドにもたせてディエゴの石弾を受けさせると、透明な障壁によってしっかりと弾かれた。
この障壁は、魔道具のような残量制のものではなく、装備者の魔力を使用するタイプだ。
装備者の魔力を使用するので、魔道具よりは長く使えるが、ずっと使えるものではなく、使用する魔力の量によってどんどん耐久値が削られていく。
そう簡単には壊れないが、オレの現在の魔力を毎日消費するほど魔法を防いだ場合は、一週間と持たずに壊れる。
まあ、オレに攻撃がくること自体が稀なので、年単位で持ちそうだけど。
エメラルドの方は、物理防御バージョンの指輪だ。
アメジストの指輪が魔法を防ぐのなら、エメラルドは物理全般を防いでくれる。
こちらもアメジストの指輪同様の装備者の魔力を消費するタイプだ。
クマ耳のフード付きローブも防御系の障壁を張ってくれる装備だが、攻撃全般すべてに対応している。
ただし、指輪の方が特化している分、消費する魔力なども同じダメージ量なら少なく済む。
優先されるのは、より効果が高い方らしい。
ほかにも、自己治癒力を高めてくれる小さなイルカが模られたネックレス。
敵対するものの注意力を減らしてくれるという、三日月型のイヤリングなども購入している。
イルカのネックレスのような、回復系の装備や道具というのはなかなか売っていない。
ポーションなんかに至っては、通販アプリですら一切販売されていないほどだ。
ヘイト減少効果がある、三日月のイヤリングも珍しい効果なので、これ以上のものとなると値段が跳ね上がる傾向にあるようだ。
ちなみに、アメジストの指輪は、八十九万円。
エメラルドの指輪は、七十五万円。
三日月のイヤリングは、六十四万円。
イルカのネックレスに至っては、なんと百四十四万円もした。
回復系装備やばい。
これだけ高額な装備を揃えても、迷宮探索で得られた資金はまだ余裕があり、ルトの装備も更新しておいた。
攻撃力は過剰なので、防具一式の更新だ。
イリーのような規格外としかいえない魔物と今後戦うことになるのは避けられない。
そのときに不意の一撃をもらって、消滅してしまうなんてことにならないようにするのだ。
以前の装備では、イリークラスの攻撃力の前にはただの布同然だからね。
なので、ここはドーンと大盤振る舞いだ。
ルトの戦闘スタイルは、その速度を活かしての高速戦闘。
動きを妨げるような重い装備はだめなので、オレみたいに魔法障壁系の防具で固めてみた。
ただ、ルト自体はオレと比べるまでもなく、魔力があまりない。
基本的に物理攻撃専門の戦士系なので仕方ないが、そうすると自前の魔力を消費するタイプの装備では問題が出てくる。
だが、その辺もちゃんと解決できる電池のような魔道具があり、専用の装備もあった。
なので、ルトの装備はそういったものを購入している。
見た目は、ただの布にしかみえない装備だが、その実イリーやブラックオウルの魔法攻撃にも余裕で耐えて見せる高性能っぷりだ。
これら一式を購入するのに、約四百三十万ほどかかっている。
今まで使っていた防刃程度の性能しかない衣服に比べれば、ずいぶん値が張っているが、それだけの性能があるので満足だ。
これ以上のものとなると、さらに一桁値段が跳ね上がるので、もっと資金を稼げるようにならないと無理だろう。
つまりは、現状で揃えることが可能な最高性能の防具たちということだ。
もちろん、グンドたちみたいに金属鎧で固めている方が性能が上なのはあるんだけどね。
そこはスタイルの違いなので仕方ない。
尚、さすがにこれだけ高額な装備を立て続けに購入してしまえば、がっつり貯めた資金もついに底をついてしまった。
まあ、一応食費や雑費のために六十万円くらいは残してあるけど。
あ、そうそう、リーン用に魔法障壁の魔道具も追加で購入している。
いやあお金がかかってしょうがないね!
気に入ったら、評価、ブクマ、よろしくおねがいします。
モチベーションがあがります。