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004,vs狼

毎日投稿? あいつは死んだ!



 狼を狩りにきたのは、何もびびった自分の弱さを払拭するためだけではない。

 迷宮では倒せば消滅する魔物も、外の世界ならば消滅することはない。

 つまりは、肉体まるごとゲットなのである。

 まだ使役可能数は二体残っているので、狼を最低二匹倒して使役する。

 できる限りの戦力を用意して、迷宮に挑むのだ。


 しばらく草原を進んでいるが、一向に狼がでてくる気配がない。

 だが、前回は明らかに弱そうな幼女がひとりだけだったから、狼も血気盛んに襲ってきたのかもしれない。

 さすがに、スケルトンとスケルトンドッグを連れてきては怖気づいてしまったのだろうか。


 まあ、目的は下僕の確保だから、最低でもそれができればいい。

 ルトたちを拾ったように、骨が落ちていれば目標は達成できる。

 ただ、骨一本拾ったくらいでは意味がないので、最低でも頭骨とか重要なパーツがほしい。


 そんなことを考えていたら、ポチが急に止まり、ルトも腰を落として戦闘態勢を取った。

 何事だと周囲を見回してみるが、特に何も見えない。

 だが、確かに二体は警戒している。


 そして、ルトが腕を振りかぶったと思った瞬間には、凄まじい勢いで大きな骨がすっ飛んでいった。

 直後に、犬の悲痛な鳴き声。


「狼か!」


 少し高くなった下草が揺れ、オレたちを包囲するように動いていく。

 どうやら相手は待ち伏せしていたようだ。

 下草が揺れて相手が動いているのはわかるが、全部で何匹いるのかがわからない。

 こっちの戦力はルトとポチの二体だけ。

 まさか待ち伏せなんて手段を取ってくるとは思っていなかっただけに、少し不安だ。


 ルトが持ってきた大きな骨も残り一本しかない。

 せめて、包丁くらい持ってくるべきだった。

 二体がいるから安心して鍋のヘルメットしか被ってきていないのだ。

 ここはもう逃げてしまうべきだろうか。

 包囲されていても、どこにでもドアが出せるのだ。逃げることはできる。


 だが、戦闘態勢になっている二体を見ていると、不思議と不安がいっぱいだった心が落ち着いてくる。

 そうだよ。思っていたよりずっと有能なこの二体がいればなんとかなるんじゃないだろうか。

 まだ逃げる決断を下すには早いよな。


 そして状況は動き出す。


 前方の草むらが大きく動き、狼が二匹ルトめがけて飛び出してきた。

 同時に、背後からも狼が二匹。

 さすがは狼。連携は抜群にうまいようだ。


 だが、ルトもポチも負けていなかった。

 ルトが持っていた最後の大きな骨が、人間には不可能な動きで背後に投擲される。

 さらに、投擲の反動をうまく使い、襲い掛かってきた前方の狼二匹を巻き込むようにルトの放った回し蹴りがやつらを強かに打った。

 最初に回し蹴りを食らった狼の首には、足の骨がそのままめり込んだようで、少なくない血を撒き散らしている。

 巻き込まれたほうの狼は大したダメージにはなっていないようだが、足の骨がめり込んだ狼は立つことも難しいほどのダメージを受けてしまっていた。


 背後の狼はというと、一匹はポチがカウンターで首に噛みつき、すでに仕留め終わっていた。

 もう一匹はルトが投擲した大きな骨が直撃したようで、転げ回っている。

 さらにポチはルトが放った大きな骨を回収してきており、追撃を行わず警戒していたルトへと渡し終わっているという徹底ぶり。


 ……何このハイレベルな連携。君らほんとになんなの?


 唖然としている間に、あっという間に事態は収拾してしまった。

 残っていた狼二匹のうち一匹は、回収した大きな骨でルトが滅多打ちにし、残りの一匹もポチが組み付いて噛み殺してしまっていた。

 襲撃から十秒経たずの殲滅劇ではあったが、彼らは味方なのだ。頼もしいことこの上ない。


「……最初の狼は?」


 ルトが戦闘態勢を解いていたので大丈夫だとは思っていたが、最初の投擲を受けた狼がどうなったのかはまだ見ていない。

 しかし、声をかけると同時にポチが動き、下草の中から頭部が凹んで死んでいる狼を引っ張ってきてくれた。

 どうやら初撃で即死していたらしい。

 そのあと、投擲した大きな骨も回収してくる辺り、ポチの有能ぶりがやばい。


 合計五匹の狼の死骸が手に入ったので、目標は完全に達成だ。

 問題があるとすれば、どの死骸を使うか。

 骨を使役したらそのままスケルトンになったので、死骸を使役すればゾンビだろうか。

 そうなると、できるだけ損害の少ない死骸を使うべきだろう。

 ポチにやられた狼は損傷が酷い。

 ルトが倒した狼は、滅多打ちにした狼の損傷が最も酷い。

 回し蹴りでつま先をめり込ませた狼と、初撃で頭を凹ませた狼が一番損傷度合いとしては低いだろうか。


 とりあえず、この二匹を使役してみよう。


 部屋に運びいれるのは面倒だし、汚れそうなのでここでぱぱっとやってしまうことにした。


「下級下僕使役!」


 三度目になると、もうお手の物だ。

 魔力が抜けていき、魔法陣が下から上に上がっていく。

 ルトたちと違う点は、吸い込む骨がなかったのでそこが省略されていることと、魔法陣が上がりきっても狼が寝ているままだったことだろうか。

 しかし、すぐに目をあけて伏せの体勢を取ったので使役は成功だ。


「あれ? 凹んでたのが治ってる」


 最初に使役を試したのは、頭部が凹んでいた最初の狼。

 そのままかと思っていた損傷も、綺麗に治っているので驚いた。


 ここでひとつ仮説を思いつく。

 ポチは足りない骨を魔力を追加徴収してカバーしていた。

 死骸の場合は、少ない損傷なら最初に消費する魔力で治し、酷いものなら追加徴収して治すパターンなのではないだろうか。


 幸い、魔力はまだまだ残っている。

 ここはひとつ仮説の立証のために、一番損傷の酷い死骸を使役してみることにした。


 今度は声に出さず、念じて下級下僕使役を行使する。

 すると、やはり仮説は正しかったようで、追加で魔力が徴収され、ボッコボコになっていた死骸は、完全に復元されて使役が完了していた。


「まあ、これなら綺麗に洗えば部屋にあげても問題ないかな?」


 正直なところ、生々しい傷が残ったままの狼を部屋にあげるのは抵抗があった。

 だが、これなら獣臭いのをなんとかすれば大丈夫だろう。

 お風呂でめいっぱい洗えばダニとかもなんとかなるだろうし。


 狼二匹の使役を完了させ、さあ帰るかと振り返ると、そこには猟奇的な現場があった。

 ルトが残りの死骸を切り開いていたのだ。


「何してんの!?」


 思わず大声をあげてしまったが、当のルトは特に何のリアクションも返すことなく、小さな石を掲げて見せてくるだけだった。

 石は、狼の血で濡れていたが、それでもわかる程度には赤い。

 あれ? この石どこかで見たことがあるぞ?


「あ、それもしかして、魔石?」


 コクリと頷くルトにようやく合点がいった。

 すっかり忘れていたが、この狼は魔物なのだ。

 魔物は、体内に魔石があり、通販アプリの通貨になる。

 だから、ルトは魔石の回収を行なっていたのだ。

 本当に有能で頭が下がる思いだ。


 命令せずとも色々とやってくれるルトがいなければ、魔石の回収もしなかっただろうし、そもそもあの狼の群れにすら勝てたかどうか。

 ポチはポチでオレの側にずっといて、護衛していたようだし、君らほんとに有能すぎじゃない?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 部屋に戻り、狼たちをお風呂場で徹底的に洗浄する。

 もちろん、幼女のオレがやったらすごく時間がかかりそうなので、ルトにやってもらっている。

 回収した魔石は血を洗い流して、タブレットの通販アプリの指示に従って通貨として変換した。

 そのやり方は、なんとタブレットに魔石を押し付けるという、なんともいえない方法だったけど。


 そして、通販アプリを使ってみた。

 初の通販アプリの購入品目は、ノミとりシャンプーお徳用600mlである。

 なぜかセールをしていてお徳用が少し安かったのだ。妹神の粋な配慮かね?


 購入した品は、支払い完了と同時に玄関に届くという瞬間配送っぷり。

 ただ、大きなものを購入したときはどうなるんだろうか。ちょっと気になってその辺を検索してみると、庭に配送されるそうだ。

 大きな工事が必要となるものなんかは、工事が一瞬で済むらしい。

 地球でもそのサービスやってくれないかな。


 玄関に届いたノミとりシャンプーは、すぐにルトに渡して使ってもらう。

 ついでに、ルトたちの汚れた足を拭いた雑巾を回収し忘れていたので、それも一緒に洗っておいてと渡しておいた。

 足ふきマットとか購入したいなぁ。

 ルトには靴もか。


 明日からは、迷宮に挑むつもりなので、魔石も徐々に貯まっていくだろう。

 武器や防具なんかもちゃんとしたものが欲しいし、これから通販アプリはどんどん使っていくことになる。

 そのためにも魔石をガンガン集めなければいけない。


 一緒に召喚されたという、ほかのメンバーはもう迷宮に入っているのだろうか。

 連絡手段がない以上は知る由もないが、迷宮駆除を続けていけばそのうち会うかもしれない。

 世界救済システムが召喚できた人数はあまり多くないのに、迷宮は世界中に残ってしまっている。

 効率よく迷宮を駆除するには、かち合わないように分散するのが望ましい。

 そういうわけで、ほかにもオレと同じような人がいることは知っているが、それだけだ。


 まあ、競争しているわけでもないので、今のところは考えても仕方がないことだけど。



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