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038,後処理



 巨大なフレイムリンクス――イリーと、小さい方のフレイムリンクスの使役を無事に終えた。

 残念ながら小さい方は自由意思持ちではなかったが、あの強烈な火球が示す通り、火魔法の使い手として十分な戦力となるだろう。

 それに、山猫なので、動きも相当早い。

 爪や牙も使役していた狼なんて目じゃないくらい鋭いので、肉弾戦も強そうだ。


「さて、次は鋼要塞の面々かな」

「こちらが、リーダーのグンド。魔法銀証級の冒険者でその防御力は相当なものだったようです」

「その割にはイリーたちに殺されてたようだけど」

「イリーは明らかに規格外ですし、従えていたアーマーリンクスの数も多すぎてとてもではないですが、魔法銀証級パーティひとつではどうにもならなかったと思います」

「まあ、そうだよね」


 アーマーリンクス百頭ってだけでも、うちみたいに魔法により多数を一気に殲滅できるような手段がなければお手上げだろう。

 それに加えて、フレイムリンクスが二頭だ。

 うち一頭は明らかに巨体で規格外の力の持ち主であれば、どうにもならなくても不思議ではない。


 それを見事に打ち倒したうちの子たちがすごいのだ!


「それに、魔法銀証級といっても、実力の幅はかなり広いみたいです。リウルの話では、グンドの強さは魔法銀証級でも下から数えたほうが早いものだったようです。ただ、防御に特化しているためにそういった評価になっているようです」

「そんなもんかあ。実質的な最高ランクだしね。これ以上ないなら幅は広くても納得だよ。ルトなんて明らかに強さが突出してるもの」

「その通りですね」


 目の前に転がしてある鋼要塞の死体は六体。

 冒険者ギルドのランクでは、最高ランクが魔法銀証級になっているので最高ランクではあるが、その中でも下から数えたほうが早いというのだからあまり期待はできないかもしれない。

 ただ、それは防御に特化しているという理由らしいし、火力は現状でも過剰気味なところへ、イリーたちが加わってさらに上がっている。

 今回、魔法障壁の魔道具を使ったように、防御面でのパワーアップを図るのは悪いことではないはずだ。

 その点でみるに、グンドはタイミングがいい。


 ちなみに、ほかの鋼要塞のメンバーも防御に特化していて、全員が魔法銀証級だ。

 ほかのメンバーはグンドよりもさらに評価が下だが、それでも魔法銀証級。

 リウルやリーンよりは遥かに強いはずだ。

 ただ、ちょうど空きが六枠あるとはいえ、全員を使役するとアーマーリンクスが使役できなくなってしまう。

 自由意思がない場合、解除する方向でいくべきだろう。

 全員が自由意思なしだった場合はまた考えるということで。


「では使役開始っと」


 イリーたちを使役したときに比べて、ずいぶん気合の入り方が違うが、それはまあ、仕方ないよね。

 あちらはルトたちが苦戦するほどの大戦力。

 比べてこちらは、イリーたちに深手を負わせることすらできていないようだったし。


 魔法陣が展開し、いつものように使役が完了する。

 すると――


「この度は使役していただき、ありがとうございます! 姫様!」

「ひめ」

「はっ! 私の仕えるべき主人であるソラ様は、麗しき容姿と気品高き心をもった完璧なる姫君にあらせられます」


 ……呼び方は一先ずおいておいて、これはどうみても自由意思持ち。

 喋っているし、瞳も問題ない。

 リウルのときみたいに、騎士がやるような片膝立ちだ。

 流行ってるのか? でもリーンはやらなかったしなぁ。


 欠損していた手足は追加徴収された魔力で完璧に復元されている。

 ということは、丸焦げになった死体でも復元されるのかな?


「あー。呼び方はまあ、好きにするといいよ。グンド、でいいのかな?」

「はい、姫様。申し遅れました。私の名はグンド。魔法銀証級の冒険者パーティ、鋼要塞のリーダーをしておりました」

「そうらしいね。横の死体はグンドのパーティメンバーだよね?」

「はい。判別不能なまでに黒焦げの三名はわかりませんが、そこの二名はそうです」


 さすがに、丸焦げになって顔どころか性別すら判別できなくなっている三人に関しては、明言をさけて答えてくれる。

 わからないことをきちんとわからないと答えているのは、性格かな?

 真面目っぽいし、適当に答えられるよりはいいか。


「じゃあ、ほかの人も使役するからアーマーリンクスの運び込みを手伝って。あ、靴が片方ないのか。えーと、フリーサイズでいいか。これ使って」

「はっ! ありがとうございます!」

「リウルー。これ、グンド。手伝わせてー」

「はい!」


 人手が増えたので、さっそくグンドにはアーマーリンクスの運び込みを手伝わせる。

 ただ、足が片方なくなっていたので、もちろん装備や靴なんかも失くしてしまっている。

 一応探してはもらったが、どうやらボロボロになってしまったようで、使い物にならない。

 裸足のまま作業させるのも忍びないので、通販アプリで適当に購入してそれを履いてもらうことにした。

 安い靴程度なら今の資金から考えれば、出費にすらならない。


「さて、次次っと」


 グンドが下僕先輩であるリウルとルトたちに挨拶して手伝い始めるのを見送り、残り五体の使役を続ける。

 グンドは、リウルが集めた情報でも有名だったので、ひとりだけ名前を覚えていたので先にやったが、ほかの五人はあんまり覚えていない。

 パーティリーダーなので、一応グンドの名前を覚えていただけだ。


 丸焦げの三人をまず使役してみたが、残念なことに、三体とも丸焦げのまま肉体の復元なしに使役されてしまった。

 しかも三体とも自由意思はないようだ。

 燃えたときに声帯が潰れ、眼球は弾け飛んでしまったようだが、それでも自由意思持ち特有の勝手に動くということをしなかったのだ。

 まあ、このショッキング過ぎる見た目で自由意思持ちだったらかなり悲しいことになっていたし、正直よかったと思おう。

 ありがとう、君たちは尊い経験値となりました、南無。


 残りは、丸焦げにはなっていないが、そこそこ損傷があるふたりだ。

 グンドほどではないが、それなりに重そうな防具で固めた人と、革鎧などの軽装で動きやすさを重視したような人。

 とりあえず、重そうな防具の人から使役してみたが、追加徴収された魔力できちんと肉体は復元されたものの、虚ろな瞳と微動だにしない動きにより、自由意思持ちではないことが判明した。

 もうひとりの方も期待せず使役を行使したのだが――


「ボクはキールといいます。姫さま、よろしくお願いします」

「君も姫呼びなのか」

「すみません、変えたほうがよろしいですか?」

「まあ、グンドもそうだし、別にいいよ」

「ありがとうございます」


 自由に喋っているし、瞳も虚ろではない。

 どうみても自由意思持ちだ。

 彼はグンドと違って、落ち着いた様子で挨拶をし、周囲へそれとなく気を配ってもいる。

 装備からみても、斥候とか似合いそう。

 グンドは三十歳前後の巌という言葉がぴったりのタイプだが、キールは線が細い二十歳くらいの青年だ。

 リウルたちよりは年上だが、優しそうで静かな印象がある。

 グンドは、鋼要塞のリーダーだけあって、ハキハキ喋るし、行動力と実行力がありそうで、キールとは真逆のタイプだ。


「キール。もしかしてパーティでは斥候役とかやってた?」

「はい。その通りです、姫さま」

「ほほう。リウルが街中での情報収集とか担当してるんだけど、キールはできる?」

「ええ、そちらもボクが担当していましたので、ご協力できるかと。ほかにも斥候として様々な場面で先行しての情報集めも得意です」

「外の世界だとそういうのも必要だろうし、ちょうどいいね」

「ありがとうございます」


 キールにも靴を与え、グンド同様にアーマーリンクスの運び込みをさせる。

 数が多いので、まだまだ残っているが、オレの魔力もまだまだ残っているので使役と解除で数は減らせるだろう。

 ちゃっちゃと処理しないと、森の外で待機してた職員たちがこちらに様子をみにこないとも限らないからね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あとはボチボチやるかな」


 アーマーリンクスの運び込みも無事終わり、戦闘跡地には死骸は一頭もなくなった。

 あとは、完全に腐る前に毎日使役と解除を繰り返すだけだ。


「姫様。私たちはこれから姫様と行動をともにするわけですが、ここにはフレイムリンクス討伐の依頼を受けてきています。そちらはどうしたらよいでしょうか」

「あー。討伐失敗でフレイムリンクスは逃げたことにしたらいいんじゃない?」

「承知致しました。では、待機させている職員たちにその様に伝えることに致します。ただ、そうしますと後処理のために少し時間をいただくことになるかと思います」

「……どのくらい?」

「二、三日もあれば十分かと」

「まじかー。ここの用事は済んだし、とっとと出発したいんだけど」


 敗北したとはいえ、グンドたちのパーティ、鋼要塞は仮にも最高ランク――魔法銀証級だ。

 キールとグンドのふたりがオレの下僕になった以上は、これからの道中一緒に行動することになる。

 外の世界では顔を隠したり、部屋で待機しているという手もあるが、どうせなら大手を振って歩けるようにしておくべきだろう。

 そのためなら二、三日程度で後処理が終わるならそのくらい待つべきか。


「んー。仕方ない。じゃあ待ってる間はドユラスの街で情報収集でもしてもらおうか。フレイムリンクスみたいな強力な魔物の情報があったらラッキーだし」


 そうと決まればあとは早い。

 グンドとキールとは一旦別行動をすることにし、ドユラスの街へと戻ることにした。



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