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037,イリー



 化け物としか表現できない巨大なフレイムリンクスを見事撃破することに成功した。

 ただ、こちらにも今までにないほどの被害が出ている。

 まず、リウルの腕だ。

 肘から先がなくなってしまっている。

 アンデッドなので痛みはないが、人間だった頃の習慣で痛いように感じてしまっているのは仕方ない。

 だが、それも少し時間をおいたことで幻痛と認識し始めたのか、最初の頃よりはずっとマシになっているみたいだ。

 ただ、時折痛そうに顔を顰めているので完全には痛みはなくなっていないようだけど。


 ほかにも、とっておきの魔法障壁の魔道具を使わされてしまったし、火球攻撃の負荷で残量がだいぶ減ってしまった。

 ひとつで五十万円もする高級品なので、これはだいぶ痛い。

 だが、そのおかげでリウルたちのダメージは腕だけで済んでもいる。

 それを考えたらまだマシと思うべきだろうね。

 アンデッドといえど、一定以上の損傷を受けてしまうと使役が強制的に解除されて灰になってしまうのだ。

 ただ、ブラックオウル戦で狼が行動不能なほどにダメージを受けていても使役が解除されていなかったのをみると、相当なダメージじゃなければ大丈夫っぽい。

 それでも、炭化してしまうような攻撃は要注意だろう。

 なぜなら、狼三頭の使役が強制解除されているのだ。

 おそらく、巻き添えを食って火球攻撃で消し飛んでしまったのだろう。

 タブレットで確認すると、確かに狼三頭がオレの使役対象から消えている。


「あれ?」

「どうしました? ソラ様」

「あ、いや、狼がやられて使役解除されちゃったのを確認したんだけど、なんかそれ以上に使役可能数が増えてる」

「それはおめでとうございます!」


 狼については完全に捨て駒扱いだったので別に使役が解除されていても問題はない。

 アーマーリンクスの死骸が大量にあるし、狼よりもあちらのほうが強そうだ。

 しかし、問題は残りの使役可能数が三体ではなく、八体になっていることだ。

「もしかして……」


 ===

 Name:ソラ

 Class:死霊術師Lv4

 Skill:下級下僕使役Lv2 使役数増加Lv2

 ===


 やはり、使役数増加のLvが上がっている。

 使役する以外でもLvが上がるらしい。

 というか、Lv1からLv2で一気に五体も増えるのか!

 さすがは全然上がらないだけあって、増えるときは数が多い。

 いいぞもっとやれ!


 フレイムリンクス二頭は使役するのは確定だが、さらにアーマーリンクスが六頭も使役できるのはかなり嬉しい。

 数は力だよ、兄貴!


 まあ、その数も魔法の圧倒的殲滅力の前には無駄だったのだけど。

 ともかく、嬉しいことには変わりない。


「ふふん。ふふー。ふふーんふんふん」

「あ、ソラ様。ブラックオウルが何か持ってきたみたいです」


 上機嫌で下手くそな鼻歌を歌いながら、リウルたちが激しい戦闘で散らばった死骸を集めているのを眺めていると、双眼鏡を片手に周囲の警戒をしていたリーンが報告してくれる。


「おや? 人、だよねあれ」

「はい。ですが、すでに死んでいるようです」


 言われてオレも確認してみると、ブラックオウルが大きな足の爪でがっちりと掴んで運んできたのは、人間の死体のようだ。

 片腕と片足が真っ黒になって欠けている。

 おそらくだが、フレイムリンクスにやられたのだろう。


 フレイムリンクスたちは、交戦していたはずの鋼要塞を無視してこちらを襲ってきたとは思えない。

 つまり戦闘を終わらせて、新手のオレたちを襲ったと考えるのが妥当だ。

 ということは、あれは鋼要塞の誰か、ということになる。

 そこへ、もうふたり分の死体を担いだルトとリウルもやってきた。


「主様。あちらの岩場の奥に戦闘跡があり、鋼要塞の死体を発見しました。六人中三人の死体は丸焦げになっておりましたが、どうしますか?」


 リウルたちが運んできた死体は、損傷の比較的少ない者たちだったようだ。

 残っているのは丸焦げで顔の判別すらつかないひどいものらしい。

 骨だけでも使役できるので、丸焦げでも使役は可能だろう。

 だが、そのままの状態で使役されるのか、修復されて使役されるのかまではわからない。

 正直、骨ならまだしも、丸焦げの状態で使役するのは遠慮したい。

 使役して即解除でも経験値を稼ぐにはいいかもしれないが、あいにくとアーマーリンクスの死骸が百頭近くある。

 どう考えてもオレの魔力のほうが先に尽きるし、すべての死骸を使役し終わるまで確保しておくというのは、微妙だ。

 大きな冷蔵庫でもなければ、庭に置いておいても腐敗し始めそうだし。

 こういうときに氷系の魔法が使える下僕がいれば助かるのに。


 ……あ、でも、適当に庭を掘って、その中に氷をたくさん入れておけばそれだけで氷室として使えるか?

 冷蔵庫を買うよりも、氷を買う方が安くあがるだろうし。


「一応、持ってきておいてくれる? あと、装備とか道具とか? そういうのもできる限り回収して」

「かしこまりました!」


 百頭の死骸とはいえ、数日もあれば使役する魔力は問題ないだろう。

 丸焦げの方は最初に使役してしまおう。

 丸焦げのままで自由意思があったりしたらどうしたらいいのかわからないけど、まあ、そのときはそのときだ。


 リーンに後の指示を出し、ディエゴと一緒に部屋に戻って氷室作製を行うことにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「氷室にどんどん運んじゃってー」

「はい!」


 集めたアーマーリンクスの大量の死骸を、即席の氷室に運び込む作業を任せると、その間にオレは新たな下僕の使役にかかる。

 お待ちかねの新戦力たちだ。

 しかも、ルトですら苦戦を強いられたあの巨大なフレイムリンクスとそれよりは小さいが、なかなかの強さを誇ったもう片方も一緒だ。

 それに、鋼要塞のメンバーが六人。

 うち三人は丸焦げなので、ちょっと直視するのがきついし、臭いもやばい。

 人間の焼ける臭いってなんともいえない嫌な感じだ。


 使役数増加がLv2になったおかげで、残り使役数は八体。

 まずは、戦力として確定しているフレイムリンクスたちからいこうか。


「下級下僕使役!」


 気合も高らかに頭部が分離した巨大なフレイムリンクスに向かって下級下僕使役を行使する。

 その巨体を範囲に収める、大きな魔法陣が展開され、分離していた頭部が追加徴収された魔力によって結合される。


「なーお」

「可愛いかよ!」


 使役が完了すると、横たわっていた体を起こした巨大なフレイムリンクスがなんとも可愛らしい鳴き声をあげる。

 というか、鳴き声を発したということは、自由意思持ちか!


「瞳も虚ろじゃないし、自由意思持ちっぽい」

「なー。ゴロゴロ」

「ふむ。剛毛だにゃー。これは洗い甲斐がありそうだよ、ルト!」


 オレが手を出すと、見上げるほどの高さにあった頭をちゃんと下げて、というか地面に顎をつけてくれる。

 大きさを無視すると、完全に猫なので、顎に腕を突っ込んでグリグリしてあげると気持ちよさそうな鳴き声をあげる。

 だが、その毛はかなり堅く、臭いもあまりよろしくない。

 ノミ取りシャンプーが何本いるかなぁ。

 だが、ルトはアーマーリンクスの死骸運びで忙しいので、フレイムリンクスの洗浄は後回しだ。


 お次は小さい方のフレイムリンクスだ。

 小さいとはいっても、大型犬サイズのアーマーリンクスよりも遥かに大きい。

 オレどころか、リウルが乗っても問題ないほどのサイズなのだから、大きさだけみれば十分に巨体だ。

 同種の比較対象が規格外なだけなのだ。


 さくっとこちらにも使役を行使するが、残念なことに完了しても鳴き声ひとつあげない。

 瞳は虚ろだし、近寄ってきた大きい方のフレイムリンクスが毛づくろいをし始めても微動だにしなかった。

 こちらは自由意思がなさそうだ。


「なー……」

「おまえたちもしかして、番とかだったの?」

「なー」


 毛づくろいをしても反応がないことに悲しそうな鳴き声をあげる大きい方。

 その鳴き声と伝わってくる感情に、二頭の関係性を朧気ながら理解してしまった。

 ……うーん。でも自由意思持ちになるかどうかは、条件がまったくわかってないし、使役を解いちゃうと灰になっちゃうしなぁ。


「ごめんな。今のオレにはどうすることもできないんだ」

「なー」


 悲しげな鳴き声ではなく、なんとなく「わかっている」といった感情と鳴き声をあげる大きい方。


 ……いつまでも大きい方じゃやりにくいな。


「んーと。あ、メスだったのか。じゃあ、おまえは今からイリーだ」

「なー」


 大きい方――イリーに名前をつける。

 小さい方はたとえ番であっても、自由意思持ちではない以上は名前はつけない。

 これは、オレの小さな拘りだ。

 でも、小さい方のフレイムリンクスも十分に戦力として通用するだろうから、捨て駒扱いはまずないだろう。

 期待してるぞ、二頭とも。



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