表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/44

034,岩山



 翌日、オレの部屋から宿の部屋に戻ってくるとリウルが待っていた。

 別室にいるはずの切り株お化けもいることから、そっちの部屋をとったのはあまり意味がなかったっぽい。

 まあ、人数的に怪しまれないためと思えばそれでいい。

 これからも宿に部屋をとるとはいえ、寝泊まりするのはあちらになるわけだから、そのテストとしておこう。


「おはよう、リウル。情報収集の結果はどう?」

「おはようございます、主様! はい! 十分に情報は集まりました」

「じゃあ聞かせて」


 日が落ちてからの数時間程度しか情報を集める時間はなかったはずだ。

 それでも十分な情報を集めてくる辺り、本当にリウルはこの手の行動を得意としている。

 実際に結果を報告してもらっても、必要な内容はすべて押さえてあった。


「じゃあ、その岩山で目撃されて、すでに調査も終わって依頼まで張り出されていた、と」

「はい、さらにはすでに一組の魔法銀証級パーティが依頼を受注しています。まだ出発はしていなかったようですが、すぐにでも出るでしょう。被害はまだですが、フレイムリンクスが確認された以上、時間の問題です」

「魔法銀証級かぁ。先を越されちゃうかな?」


 噂でしかなかった情報は、この街で情報を集めた結果、確定となり、すでに調査自体も済んでいて討伐段階にあるみたいだ。

 しかもすでに受注した冒険者がいるという。

 魔法銀証級は、鉄証級のみっつも上のランクだ。実質的な最高ランクでもある。

 フレイムリンクスがいくら強くても討伐されてしまう可能性が高そうに思う。


「受注したパーティの名は、鋼要塞だそうです。防御に重点を置いたパーティで持久戦が得意なのだそうです。フレイムリンクスは火魔法を得意とする銀証級パーティ推奨の魔物ですので、魔力切れを狙っているのでしょう。ですが、すぐに倒されるとは思えません。何せ、アーマーリンクスも同時に確認されていますので。ただ、問題は一度戦闘を始めてしまった場合、横から手を出すと敵対行為ととられることですね」

「魔法銀証級でも銀証級におまけの魔物がいると、倒すのはやっぱり時間がかかるの?」

「そうですね。たとえばブラックオウルも銀証級パーティ推奨の魔物ですが、森の中で戦う場合は難易度が高くなります。銀証級パーティでも慣れているものでなければ難しいでしょう。今回もフレイムリンクスは自身のテリトリー内での戦闘になるでしょうし、アーマーリンクスを従えています。難易度は魔法銀証級にさえ届くかと。ですので、魔法銀証級のパーティでもすぐに倒すのは無理です。特に鋼要塞は防御に重点をおいているため、攻撃力がほかの魔法銀証級と比べて落ちるようですし」

「ふーむ……。でもどっちにしろ、倒す自信はあるんだろうね、やっぱり」

「時間はかかっても討伐する可能性は高いと思います」


 そうと決まればやることはひとつだ。

 鋼要塞とやらがフレイムリンクスを見つけるよりも早く、オレたちが倒すしかない。

 もしくは、先を越されていた場合は、鋼要塞諸共殺すことも視野に入れよう。

 だって、魔法銀証級ということは、リウルたちよりも確実に強い。

 もしかしたらルトに迫る強さを持っているかもしれないのだから、もし使役できれば確実な戦力アップだ。

 まあ、先を越されていたら戦闘を実際にみて、倒せそうならという話だけど。

 まさか返り討ちにあったりでもしたら目も当てられない。


 でもとりあえずは先にフレイムリンクスを抑える方針でいこう。

 たとえ冒険者ギルドで依頼が出ていても、対象の魔物を倒してはいけないというわけではない。

 依頼を受けた冒険者には恨まれるかもしれないが、そういうことはたまにあることだ。

 魔物だって同じ場所に居続けるわけではないし、逃げてしまうことだってあるし、逆に依頼を受けていないものが襲われることだってある。

 討伐依頼とはいっても、ある程度違う場所に逃げられてしまうと無効になる可能性があるのだ。


 そういった場合は、ギルドの職員が派遣されて調査の上で結果が決定される。

 虚偽報告などの可能性もあるからね。


 基本的には、依頼達成不能と判断され、受注を解除される。

 失敗した場合などは違約金を払わなければいけなかったり、なんらかのペナルティがあるそうだが、解除の場合は特にそういったものはない。

 だが、準備や移動など、かかった経費については補償されないし、成功ではないので当然報酬は支払われない。

 面倒なだけなので普通は嫌われる行為だ。


 しかし、そんなことは知ったことではない。

 フレイムリンクスは、出現するのも珍しい強力な魔物だ。

 これを逃せば次はいつ巡り会えるのかわからないほどだろう。

 ブラックオウルはまだあの森の奥地に行けば会えるだけマシな部類だが、フレイムリンクスはそうではないらしい。

 なので、ぜひともここで手に入れておきたい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 チェックアウトをさっさと済ませ、馬車で進めるところまでガンガン走らせる。

 迷宮都市へ向かう街道をハズレ、ドユラスから西に向かうと岩山がある。

 岩山までは、木々がまばらな森が続いていて、そこを抜けるとゴツゴツとした岩がたくさんある場所にたどり着く。

 さらに進むと勾配がきつくなり始め、崖が急に現れる。

 そこからがフレイムリンクスの目撃情報があった岩山だ。


 オレたちの馬車で五時間かからない程度の距離なので、フレイムリンクスたちがその気になればドユラスの街へ簡単に襲撃をかけることができる距離だろう。

 銀証級であるフレイムリンクスは名前通りに火魔法の使い手だ。

 石壁で周囲を囲っているドユラスの街とはいえ、門などは木製なのであっという間に内部への侵入を許してしまうだろう。

 そうなればあとは蹂躙が待っている。

 特に、目標のフレイムリンクスはアーマーリンクスというリンクス系の魔物でも中位の魔物を従えているそうだ。

 一体でも厄介な魔物が複数体の魔物を従えて襲ってくるのは、一般市民からしたらかなり絶望的なものだろう。

 冒険者だって、一人前とされる鉄証級程度ではアーマーリンクス一頭抑えるのでさえ厳しい。

 魔鉄証級でなんとか一対一が成り立つくらいだろう。

 従えている数にもよるが、ドユラスの街ではもし襲われでもしたら、被害なしで収めるのはまず不可能だというのが、リウルの見立てだ。


 だからだろう、鋼要塞の面々の行動はリウルの読みよりもずっと速かった。

 森に入る前に二頭立ての馬車が待機しており、御者は冒険者ギルドの職員で、その護衛に数名の冒険者がついていた。

 彼らからの警告で、その馬車を使っているのが件の鋼要塞だとわかったのだ。


 つまり、もう鋼要塞はフレイムリンクスを討伐すべく岩山に向かっている。


「申し訳ありません、主様。私の読みが甘かったです」

「仕方ない。森には馬車で入れないし、あいつらが見えない位置まで進んでから岩山に向かおうか」

「かしこまりました」


 申し訳なさそうにしょんぼりするリウルに声をかけ、部屋に馬車を仕舞うべく移動を開始する。

 幸い、彼らがオレたちを追いかけてきたり、偵察しにきたりすることはなかった。


 安全マージンを十分にとったところで、部屋に戻り、馬車を置いてくる。

 そのあとは急いで森に入り岩山に急行だ。


 狼の背に鞍をつけ、オレはその上にまたがる。

 森はそこまで広くはないし、木々も密集していないので見通しも良くはないが、悪くもない。

 だが、下草や灌木などで森の中を走るのは大変なので、緊急措置だ。

 移動時間も長くはないだろうし、前回のような悲惨なことにはならないだろう。

 もしだめそうなら残ったポーションの出番だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 森に入って五分もしないうちに、遠くの方で大きな爆発音が聞こえてきた。

 大地を揺るがすような振動を伴うほどのものではないが、かなりの威力の爆発だったというのはわかる。

 どうやら鋼要塞とフレイムリンクスが遭遇してしまったらしい。


「主様」

「あーくそ。だめだったか。なら漁夫の利を狙おう。慎重に行くよ」

「「はい!」」


 二度、三度と爆発音が続いたあとは静かなものだったが、オレたちは急ぎつつもある程度速度を落とし、ほかの魔物やフレイムリンクスが従えているアーマーリンクスに気取られないように爆発音がした方向へ進んでいく。

 森が切れ、巨大な岩がたくさん点在している場所に出ると、ルトとポチが警戒態勢を取る。


 それをみてリウルとリーンも武器を構え、周囲を警戒するが、オレにはどこに敵がいるのかまったくわからない。

 でも、無駄にお喋りするような行動はとらない。

 明らかに戦闘ではお荷物になっているオレだが、自分のできることはするのだ。

 今オレがすべきことは、声を出さず、なるべく音も出さず、ジッとしていること。


 警戒態勢のまま、ジリジリと岩山に近づいていくと、大きな岩の上からひょっこりと大型犬サイズの剛毛の猫が顔を出した。

 と、思ったら一瞬にしてその姿は串刺しの前衛芸術へと変貌していた。


 ディエゴの魔法だ。


 断末魔の鳴き声すら出させないように喉を狙って貫いている完璧な不意打ちだ。

 いや、岩の上に現れたのはあちらなので、不意を打たれたのはこちらか?

 まあ、どちらでもいい。

 だが――


「主様、来ます!」


 リウルの緊張した一声とともに、前衛芸術と化した剛毛の猫とは別に、岩の上や横から大量の同種が雪崩出てきた。

 悲鳴ひとつあげさせないで倒したのはあまり意味がなかったようだ。

 まあ、確かに岩の上で絶命しているからみればわかっちゃうよね。

 でも、あんな形で出てこられたら仕方ないだろう。


「リウル、あれはアーマーリンクス?」

「そうです! どこかにフレイムリンクスもいるはずです!」

「ルト、ポチ、ディエゴ、頼んだよ!」


 鋼要塞はどうしたのか、十や二十ではきかないほどのアーマーリンクスが岩の向こうから大量にこちらに牙を剥いてくる。

 もしかしてもう彼らはやられてしまったのか?

 だが、魔法銀証級という、冒険者ランクの実質的な頂点らしいのに?

 やっぱり人間って弱いのだろうか。

 そうするとルトは一体なんなのだろうね?


 飛び出してきたアーマーリンクスとの戦闘が始まった。



気に入ったら、評価、ブクマ、よろしくおねがいします。

モチベーションがあがります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ