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033,ドユラスの街



 数日の間、午前中は移動し、午後に迷宮探索をするいつもの日々を送る。

 数日かけて八階層と九階層の掃討を終え、十階層に足を踏み入れることができた。

 九階層で新たに追加された魔物は、一階層にもいたツタ人の大型版の巨大ツタ人だ。

 こちらは大きくなった分盾役として最前衛に配置されていたのだが、オレたちに近づく前に後続に追い越されるというなんともいえない存在だった。

 耐久度的には確かにでかい分硬いのだが、リウル以外は特に問題にもならない。

 結局殲滅速度も変わらず、でかい分魔法のいい的だった。


 十階層はボス部屋なので、出てきたのは巨木としか表現できない魔物だった。

 某なんでも吸い込む丸いピンクに出てくるボスみたいなやつだ。

 なんとこいつ、魔法で攻撃してきた。

 驚いたけど、ディエゴが的確に石壁でガードしてくれるので被害はまったくなく、ブラックオウルがリウルたちを殺したときに連発していた風大砲を連打してあっさり倒してしまった。

 一発ごとに太い幹がボロボロにへし折れていくのは、見ていてなんとも悲しい光景だった。


 そして、現在は十一階層を探索中だ。

 ここでの新しい魔物は、花妖精という、頭に花が咲いている可愛らしい妖精だ。

 大きさも手のひらサイズだが、草魔法を使ってくる。

 大きさ的に物理攻撃ではないとは思っていたが、やっぱり魔法主体だ。

 草魔法は攻撃力は高くなく、どちらかといえば妨害系の魔法のようだ。

 草で編んだトラップや蔦を絡めて動きを封じようとしてくる。

 ここでもリウルが若干苦戦しているが、ほかは気にもしないで殲滅してくれている。

 妨害魔法といっても、本当に大したことがないのでルトたちには無意味なのだ。

 あっさり引きちぎったりかわしたりしてしまうのだからね。


 リウルだって苦戦とは表現したけど、完全に動きを封じられるというほどでもないし、うざそうにしていた程度だ。

 まだまだこの程度なら問題ない。


 それと、九階層あたりから、一階層に出てくるツタ人や触手花がまったくでてこなくなった。

 元々八階層でも一匹二匹くらいだったので、階層が深まると低階層の魔物は出現しなくなるようだ。

 魔石の単価も低いので、こちらとしてはありがたいが。


 今日までに稼いだ額は、約二百万円くらいになる。

 毎日の食費や雑費を差し引くと正確には、1,870,800円だ。

 四日程度でこの額なのだから、本当に美味しい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 午前中の迷宮探索を終えて、午後の移動を開始する。

 とはいっても、もう禁忌も読み終わっているし、外の景色も飽きた。

 なので、がっつり稼いだ資金を使って電子書籍を購入してタブレットで読んでいる。

 異世界で異世界もののラノベが読めるのは、なんとも不思議な気分だ。

 いや、現代で現代ものの小説も普通に読んでいたし、それを考えれば普通のことかな?


 ちなみに、リーンには希望する書籍を購入して渡してある。

 ふたりとも揺れる馬車で静かに本を読んでいるが、特に酔ったりしない。

 まあ、リーンはアンデットだし、オレは車酔いには強いからね。

 狼に揺られるのと馬車程度の速度ではまったく違うのだ。


 ただ、その馬車の速度が突然遅くなればさすがに気づく。

 急停止とかではないので、徐々に遅くなっていった感じだが、それでもやっぱり気づくのだ。

 ちょうど電子書籍もきりのいい場面だったのもあるが。


 どうしたのかな、と思ったところで、馬車の速度が通常時に戻ったので道が悪かったりしたのだろう。

 たまに、速度を落とさないと危ないような道があるのが、外の世界の道路状況だ。

 雨なんか降ったらぬかるみがひどいときなんてのもあったからね。


「主様。先程商人が噂をしていたのを聞きまして、主様のお耳にいれたほうがよいかと」

「ん? ああ、だから速度落としたのね。それで?」


 どうやら、道が悪かったわけではなく、商人たちの会話を聞くためにあえて速度を落としたようだ。

 うちの馬車とほかの馬車では、使われている技術に差があって出せる速度が全然違うからね。

 普通に走っていたら簡単に追い越して会話なんて聞いてる暇がない。


「はい、それがどうやら近くの山でフレイムリンクスの目撃情報があったようなのです」

「フレイムリンクス?」

「森の死神ほどではないですが、強力な魔物です。炎を自在に操り、強い個体は配下のアーマーリンクスを率いるため、討伐難度は森の死神以上とされている魔物です」

「ほほぅ。炎か。火魔法っぽいね。いいね、すごくいい!」


 うちでは、切り株お化けのディエゴが土魔法。ブラックオウルが風魔法を使える。

 魔法はまだこの二種類だけなので、ぜひともほかの属性の魔法もほしい。

 全属性揃えて、どんな敵にも対応できるようにしておきたいからね。

 そうと決まれば話は早い。

 迷宮都市へは急いでいるといえば急いでいるようなそうでないような、微妙な感じなので、ちょっとくらいの寄り道は大した問題ではない。


「じゃあ、さっきの商人たちに話を聞く?」

「いえ、次の街で情報を集めたほうがよいかと」

「オッケー。そうしようか」

「かしこまりました」


 リウルの情報収集能力はオレたちの中でも随一だ。

 というか、ルトたちでは情報収集できないし、リーンはオレのお世話がある。

 オレはもちろんそんなのやりたくないので論外としても、リウルのそれは評価に値するものだ。

 彼に任せておけば、必要な情報はしっかり集めてきてくれるだろう。

 その間に、今回は普通に宿にでも泊まってみるか。

 領主の館には泊まったけど、普通の街の普通の宿にはまだ泊まったことがない。

 さすがに安宿のような安全性も、清潔度も期待できない宿に泊まる気はないので、それなりの宿だ。

 外の世界のお金に関しては、マッシールの街でリウルが情報収集した際に、残しておいた魔石を売却して得ているし、ミリニスル嬢の護衛と救出の謝礼でそこそこもらっているので問題ない。

 リウルにも必要な分はもたせているし、基本的にはリーンが管理している。

 彼女はオレのお世話役なんだから、支払い関係も彼女が率先してやってくれるそうだ。

 むしろ、それもお世話役の仕事だそうな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日が落ちる前には、次の街であるドユラスの街についた。

 マッシールの街に比べて少々規模は小さいが、それでも今まで通り過ぎてきた村よりは確実に大きく、石壁で囲ってあるので安全性も高そうだ。

 日が落ちると門は閉まってしまうが、まだ時間に余裕があるため、中に入るのにそれなりに並んでいたので少し時間がかかった。

 これが貴族と一緒だと並ばなくていいのだから、貴族特権がちょっと羨ましくなる。

 まあ、それに伴う義務のほうが面倒くさいわけだからどっちかっていわれたらいらない、と答えるけど。


 一応まだ日が落ちる前だが、宿を確保しておかないといけないので、門番に聞いた中堅どころの宿へ向かう。

 厩舎がしっかりしており、ポチや狼、馬たちが預けられる宿なので、安宿なんかに比べてかなり高くなっているが、部屋もその分広めで綺麗らしい。

 実際に、到着してチェックインしてみると、十二畳ほどの広さの部屋で掃除もしっかりされており、ベッドも比較的柔らかい。

 調度品に関しては最低限だが、宿としてみれば十分だろう。

 ちなみに、部屋は二部屋借りて、オレとリーンとルトとポチ、リウルとディエゴたちで別れている。

 男と女での部屋割りだね。

 ディエゴたち、切り株お化けは老人にみえるから厩舎というわけにはいかない。

 狼とブラックオウルは馬と一緒に厩舎だが、ポチだけはオレたちについてきた。

 部屋にあげても問題ないというので、そのまま連れてきたが、これも安宿などではだめなのだそうだ。

 動物を飼っているのは珍しいという話なので、その辺は仕方ないだろう。


「主様、それでは情報収集に向かいたいと思います」

「うん。いってらっしゃい。任せたよ」

「はい!」


 リウルが一番活躍できる場面なので、彼の張り切り様は最高潮だ。

 意気揚々と出掛けるリウルを見送り、空中に鍵をさしてオレたちの部屋へ続くドアを開く。

 宿のベッドはそれなりに柔らかいが、部屋で寝た方が絶対にいい。

 それに、お風呂もないし、灯りもランタンなので割と暗い。

 部屋にいけば普通に照明があるし、お風呂もベッドもある。

 この宿で寝る意味はないのだ。

 ちなみに、素泊まり限定なので、食事は別でとる必要がある。

 すぐ近くに食事処がいくつかあるようだが、資金に余裕があり、高級食材を使えるのでリーンに作ってもらったほうが絶対美味しいから外に食べに行くつもりはない。


「それじゃ、戻ろっか」

「はい! ソラ様」


 ルトたちも遊びたいので、不思議な踊りを踊っているし、部屋割りしたはずのディエゴもいつの間にかいて踊りに参加している。

 まあ、あってないような部屋割りだから別にいいんだけど。

 一応とっておいた隣の部屋には、自由意思のない切り株お化けがポツンと待機しているのかな。

 それを思うとちょっと物悲しい感じがするが、そんなことを思う意思もないだろうし、別にいいか。


 部屋へのドアは開けたままにしておくのは不用心なので閉めてしまうので、リウルが戻ったら宿の部屋で寝ることになる。

 まあ、睡眠の必要がない彼なのだけど、皆が寝静まった夜では情報収集もできないから仕方ないよね。


 さて、今日の夕飯は何かな?

 最近リーンの料理の腕が格段に良くなってきているので、とても楽しみだ。

 高級食材や各種調味料なんかも惜しげもなく使っているのもあるが、それでもリーンが料理本をたくさん読んで腕をあげているおかげだろう。


 これが外の世界で食事をしたいと思わない要因でもあるんだけど。

 だって、絶対リーンが作った料理の方が美味しいし!




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モチベーションがあがります。

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