032,日常
マッシールの街でリウルが集めた情報を聞き、迷宮都市の道中にある街や村の状況がなんとなくみえてきた。
基本的には、迷宮都市へ向かう冒険者が路銀稼ぎに依頼を請け負ってくれるため、依頼の消化率が高く、比較的安全。
魔物退治と平行して、盗賊なんかもガンガン捕縛ないし討伐されているようだ。
まあ、そもそも迷宮都市へ向かう冒険者が多い道なのだから、襲撃をかけても返り討ちに合う可能性が高いため、あまりいないのだが。
ミリニスル嬢たちを襲ったのは、なんとかという子爵が雇ったものたちだったしね。
街のほかにも道中にある村も宿場として利用できる場所が多く、大体こちらの世界の馬車で一日移動すれば村がある。
冒険者ギルドの出張所も大体の村にあるそうで、ほかの地域の村に比べると外貨獲得の手段も多く、比較的裕福なものだそうだ。
迷宮都市は現地だけではなく、周囲にも経済的に良い影響を与えているようだ。
オレの目的はお金儲けとかじゃないから別にいいんだけど。
村とかにも泊まるつもりはないし。
たまに現れる強力な魔物や、高い賞金がかかった有名な盗賊なんかの情報もないようなので、リウルが集めてきたものは基本的に周囲の状況を知るためのものばかりだ。
あとは、マッシールの街がどんな感じだったか、程度。
ただ、それでもたった一晩で集めたにしては、情報量も多い。
やはり、リウルにはこちらの才能があるようだ。
迷宮都市では、迷宮よりも情報集めの方が重要なので、とても期待できる。
戦闘ではからっきしだけど、こういうルトたちが活躍できない場所で頑張れるのならよかった。
リーンもオレのお世話で大活躍しているし、ふたりともよかったね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本日は、いつもと違って午前中いっぱいは移動に費やし、午後から迷宮に入ることにした。
何組かの冒険者の集団や商人たちを追い越し、いくつかの村を通り過ぎたところで近くの林の中へ入っていく。
周囲の魔物は、先行したブラックオウルたちが殲滅済みだ。
ついでに人気がないのも確認してあるので、街道から見えない位置で部屋へと戻る。
次出てくるときもここになるので、街道から見える位置で入ってしまうと面倒になるからね。
「はー。やっと帰ってきたー。なんか長かった気がするよ」
「色々ありましたから」
「そうだね。じゃあ、ルトたちは遊んでていいよー。ご苦労さま。でも午後から迷宮行くからそれだけは覚えておいてね」
お昼の準備に向かうリーンと代わって、リウルが馬車と馬の世話をする。
とはいっても、馬は骨だし、馬車も軽い点検と清掃程度だ。
ルトたちはオレが許可を出した瞬間には、高層アスレチックに向かって走っていってしまった。
ルトが乗っていた馬は馬具とか全部つけっぱなしだけど、リウルが片付けるか。
いつもは遊べる時間に遊べていなかったのが大きいのか、テンション高くアスレチックを駆け上がっていっている。
彼女たちは毎日遊ばないとだめっぽいね。
できるだけこっちに帰ってくるようにしてあげたい。
まあ、オレも外の世界より部屋の方が落ち着くから帰ってきたいんだけど。
「じゃあ、リウル。あとは任せたよー」
「かしこまりました! 主様!」
昨日は領主の館に泊まったとはいえ、所詮は外の世界だ。
現代日本のシャンプーやリンス、石鹸などのお風呂用品があるわけではないし、お風呂も一応あったが満足できるものではなかった。
何より、介添に何人も見知らぬ使用人がいるのがだめだ。
オレはひとりでお風呂に入りたい人間なので、誰かと一緒になんて銭湯やスパでもなければ遠慮したい。
だから昨日はさっぱり疲れがとれなかった。
慣れない馬車での長時間の移動というのもあったが、貴族相手の会話や対応なんかも疲れた。
それでもミリニスル嬢はオレに気を遣ってくれるし、マクドガルも同じだからまだマシなほうだろう。
緊張でボロボロになることもなかったわけだし。
面倒ではあったが、色々と貴族たちの基本的なことは知れたのでそれはよかった。
あと迷宮都市での大きなコネができたのは、かなり運が良かっただろう。
まあ、基本は頼らず自力でなんとかするつもりだけど。
一応相手は貴族だ。
命の恩人といえど、そう容易く頼るべきではないだろう。
顔見せのために一度くらいは行く必要があるだろうけど。
「ソラ様、おまたせしました! 今日は鶏むねのソテーですよ!」
「おー。美味しそう。昨日の晩餐は豪華なだけだったからなー。やっぱりこういうのが一番だよね」
「ソラ様の大好きな味付けです!」
「うん。美味しい。さすが、リーンだね」
「ありがとうございます!」
晩餐と朝食を領主の館で頂いたが、やはりオレの好みの味付けで日本の食材と調味料を使って作るリーンの料理の方が美味しい。
幼女な体だから微妙に以前とも味の好みが変わっているし、領主の館で出された料理は基本的に大人向けだった。
今やオレの好みを知り尽くしているリーンの味付けには敵わない。
ちょっと甘めに調整されたソースも、柔らかく下処理された鶏むねも実に今のオレ好みだ。
サラダにかかっているシーザードレッシングなんか、外の世界ではお目にかかれないだろう。
飲み物だって、基本的にあちらはアルコールばかりで、子ども用にすら薄めたワインだ。
果実を絞ったジュースは一応露店で販売されているようだけど、キンキンに冷やしておくことなんてできないし、常温でも長持ちさせるためにやはりアルコールが入っている。
なので、一口飲んだあとは一切飲まなかった。
元々アルコールはあまり好きではないし、幼女の体には良い影響があるとは思えない。
まあ、以前は炭酸大好きだったのが、この体になってからはちょっと厳しいので果汁百パーセントの無炭酸にしているけどね!
今は資金にも余裕があるので、ちょっとお高めの一リットル五百円くらいするやつだ。
がぶ飲みできるほど幼女の胃は大きくないので、消費するのに結構かかるからコストパフォーマンス的にはそこそこ良いのだけど。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
昼食を綺麗に完食して、ニッコリ笑顔のリーンが片付けをしている間に食休みをとる。
午後からは迷宮探索の続きだ。
今日もしっかり稼いでおきたい。
昨日は、ドレスなどを買ったのでそこそこの出費になっている。
馬車に乗っているときに着ていたドレスで、貴族の晩餐に出るなんてとてもではないができなかったのだ。
ミリニスル嬢も着替えていたし、何着か追加で購入しておいてよかった。
ただ、オレは貴族ではないし、そこまでしないでも見逃してもらえたかもしれないが、一応というやつだ。
購入したドレスなどは、数千円の安物ではなく、最初に購入したフォーマルドレスのような少しお高めのものだ。
それを数着分なので、そこそこかかっている。
安いのはなんだか逆に目立ちそうな光沢があったり、縫製がしょぼそうだったので何度か着れるように少し高いものにしたのだ。
資金に余裕があるからできることなので、今後もある程度余らせておくべきだろう。
今日の探索も殲滅の方向で進めるので、資金はすぐに貯まると思うが、今後購入していく装備や道具は値段の桁が跳ね上がるので油断できない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後はちょっと夕食の時間が遅れるくらいがっつり探索を進めた。
とはいえ、八階層にもなるとフロアの数がかなり多い。
六時間以上探索したのに、まだすべてのフロアを回り切ることができていないのだ。
ただ、転移陣は見つけてあるので、すべてのフロアをまわったらすぐに次にいける。
八階層でもまだまだルトたちの殲滅速度は落ちないので、本日の稼ぎも四十万を超えている。
たった六時間でこれなのだから、最初と比べても効率がとんでもないレベルになっている。
これから迷宮のランクが上がり、さらに階層が深まっていくともっと効率がよくなっていくと予想できるので日に百万単位で稼げる日も近いだろう。
そうなったら、魔法の武器とか購入して魔法幼女デビューの日も近い。
ディエゴやブラックオウルたちの魔法をみていれば、その強さが並大抵のものじゃないのがよくわかる。
魔法の武器でオレが無双を始める日もいつかやってくるのだ。
実に楽しみじゃないか。
それに、オレが魔法の武器を使えるのだから、当然リウルとリーンも使えるはずだ。
それはルトも同じことだが、彼女は魔式トンファー雷がお気に入りなので、新しい武器を欲しがるかどうか今ひとつわからない。
今でも火力は過剰気味だし、戦力になっていない三人が先だろう。
オレは前に出るのはだめなので、魔法幼女を楽しめる程度でいい。
オレが死んだらそこで終わりなのだから当然だ。
安全策はできる限りとる。
ただ、それでもやっぱり魔法使ってみたいし、無双したい。
ポチたちにがっちり守ってもらいながらならきっとだいじょうぶだろう。
それには武器だけじゃなくて、しっかりと防具も揃えておかないといけない。
つまりは、まだまだ無双できる日は遠いということか。
だが、手がまったくでなかった品にも出せるようになってきたのだ、これからこれから。
毎日の食材に関しても、資金に余裕があるのでグレードアップしている。
今日のお昼に食べた鶏むねなんて百グラム五百円もするやつだ。
一体何の鶏だったのだろうか。
美味しかったから別にいいんだけどね!
魔法の武具が余裕で買える頃には、毎日高級食材を食べられるくらいにはなっているだろう。
外の世界の料理を少し知れたので、通販アプリの凄さが改めてわかった。
本当に外の世界は、あんまり魅力がない。
それでも迷宮都市で、迷宮内での魔物の死体を得る方法だけは絶対に知っておかなければならない。
現状では、外の世界で唯一優先すべき事柄なのだから。
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