003,ルトとポチ
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命からがら確保してきた骨は、見事にスケルトンとして蘇った。
いや、スケルトンはアンデッドだから蘇ったというのは語弊があるが。
しかし、このスケルトン大きいな。
あ、違う。今オレは幼女だった。
今のオレの身長はだいたいだが、百二十センチくらい? いっても百三十はないだろう。
だとすると、そんなに大きくはないな。むしろ、小さいほうか?
たぶん、百七十センチはいっていないだろう。
だが、オレも幼女だ。
小さいもの同士頑張ろうぜ!
「って、なんで撫でるし。気をつけ!」
考えごとをしていたら、いつの間にか下僕一号が頭を撫でていた。
フードは脱いでいたので、骨の手の硬い感触が伝わってきたが、撫で方は優しく手慣れたものに思えた。
ぶっちゃけ気持ちよかったし。
だが、何も命令していないのに動いていたのが引っかかる。
直後に行なった命令はきちんと実行していたので、使役できていないわけではないようだが。
「まあ、命令はちゃんと効くようだし、撫でるくらいなら実害ないか」
気をつけの姿勢のまま微動だにしなくなった骨を眺め、とりあえず大丈夫そうなので残った骨の山に視線を移す。
拾ってきた骨は人の頭骨と犬のような頭骨がひとつずつあった。
そして、人ひとり分以上の量の骨があったわけなので、当然あまりが発生する。
多少足りない分にはSkillを行使したときに抜けていったなにか――魔力を多めに消費することでカバーできるらしい。
ただ、足りない部分はどんなものでもいいわけでもなく、核となるパーツがなければどんなに魔力を追加しようとも成功はしない。
スケルトン系の場合は、核となるパーツは頭骨や胸骨などの大きな骨だ。
幸いなことに残っている骨には犬のような頭骨がある。
つまりはこの残りの骨で、もう一体下僕を使役することが可能なはずだ。
死霊術師は、使役できる下僕の数に上限があるが、使役数増加のようなSkillでその上限値をあげることができる。
最初は弱い下僕を使役し、徐々に強い下僕へと乗り換えていくのが基本だ。
死霊術師Lv1では、使役可能数は一体。
しかし、使役数増加Lv1でさらに三体の使役が可能なので、合計四体まで使役可能だ。
使役数増加はかなり強力なSkillといえるだろう。
「というわけで、下級下僕使役!」
先程同様に、魔力が体から抜けていくと、魔法陣が骨を吸い込み、楕円形に変形した魔法陣が下から上へと動いていく。
ただ、今回は骨が吸い込まれたときに追加で魔力が少し抜けていった。
どうやら骨が足りなかったらしい。
ちなみに、気をつけのままの下僕一号には拾った覚えのない細かい骨がある。
だが、追加で魔力が抜けていく感覚はなかったので、ある程度は最初の魔力で賄われているのだろう。
それでも足りない分が追加徴収される、と。
かくして、魔法陣が消えたあとには、犬っぽいスケルトン――スケルトンドッグが完成していた。
「おすわり」
骨とはいえ、犬は犬。
犬に命令するのならば、「気をつけ」ではなく、これだろう。
オレの命令通り、おすわりをしたスケルトンドッグに、次々と命令をしていく。
しっかりと使役ができているようで、出した命令すべてにスケルトンドッグは応えてみせた。
うむ、なかなかだな、これならいけそうな気がする。
ちなみに、気をつけの姿勢のまま微動だにしていなかった下僕一号はいつの間にかスケルトンドッグへの命令に交ざって同じことをしていた。
なぜか残っていた骨を投げて、とってくるのをスケルトンドッグ相手に競うのはどうなのとは思ったが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
確認を終えて骨キャッチゲームをやめると、まだ遊び足りなさそうにしょんぼりする骨たち。
仕方なく骨たちだけで遊んでなさいと、命令と言うか許可というか、なんともいえないものを出すと飛び跳ねながら再開していた。
スケルトンってあんなに感情豊かなものなのだろうか。
これから敵として出会うスケルトンまであんなだったら、戦いづらいことこの上ないんだけど……。
それにせっかくこれから一緒に戦うんだから、ちゃんと名前をつけることにした。
あまりにもオレの知っているスケルトンと違っていて、いつまでも下僕扱いしているのが辛くなってきたから、なんてことはないんだからね!
スケルトンのほうは、ルト。
スケルトンドッグのほうは、ポチ。
安直と思うなかれ、そう名付けたら骨たちは飛び跳ねて喜んでいたのだからいいのだ。
ルトたちはそのまま遊びを続けるようで、庭を走り回っている。
今のうちに食事をしておこう。
次は、あの狼どもを狩るのだ。しっかりと英気を養っておかねば。
冷蔵庫の中身は、翌日には補充されるが、それはつまり同じものしか食べられないということだ。何もしなければ。
外の世界には、ルトの元となった人骨があったように、人間がいる。
魔物に怯え、強固な壁を築いて細々と生きているようだが、人間がいるのならば料理もしているはずだ。
そんな街に入れば、新たな食材や調理済みのものが手に入るかもしれない。
ただ、それは当分先の話になる。
それまでは、タブレットにインストールされている通販アプリを使うしかない。
魔物は、体内に魔石と呼ばれる魔力の結晶を持っている。
迷宮内では、魔物を倒すと肉体が消滅し、魔石を落とす。
いちいち解体している時間を省略し、その分の時間で勇者を成長させよう、という姉神の配慮の結果だ。
その魔石が通販アプリの資金代わりのようで、それなりの魔石を払えば違う食材を入手可能なのだ。
ただ、自動補充の対象外だけど。
そのほかにも、通販アプリで買えるものは色々とあり、装備なども買えるのですぐに新しい食材を買うということは難しいだろう。
まあ、今ある食材に飽きたらの話だし、その前に十分な魔石を集められるようになればいい。
炊飯器に急速モードでセットしたお米が炊けるまで、通販アプリを眺めながらこれからのプランを立てることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
分厚いステーキ丼をがっつりと食したあと、長めの食休みをとり、狼を狩りに行くために重くなってしまったお腹……じゃなくて腰をあげる。
正直ちょっと食べすぎたと思う。
ちょっと多めに炊きすぎたご飯は冷まして冷凍しておいたが、肉は全部食べきった。
幼女の体では、胃も小さくなってしまっていたのは計算ミスだな。
次からはもう少し減らそう。
「ルト、ポチ。行くよ!」
食事中もずっと庭で遊んでいた二体を呼ぶと、すぐに駆けつけてきた。
二体ともやる気は十分である様子。
しかも、ルトに至っては骨キャッチゲームに使っていた骨とは別の大きな骨を両手に装備しているほどだ。
どこにあった、それ。
ポチは自前の牙があるし、犬型だから装備は何もない。
「てか、足とかめっちゃ汚れてるな……。足ふきマットとか庭用の立水栓とかほしいな。とりあえず、待ってなさい」
たっぷりと遊んでしっかりと汚れている二体用に、雑巾とタオルを持ってくる。
通販アプリには、ガーデニング用品まであったから、庭用の立水栓もあるはずだ。
いくらかかるかあとで調べておかないとな。
二体の汚れを落とし、今度こそ玄関まで移動してタッチパネルを操作する。
少々時間が経っているからか、覗き穴からは狼たちの姿は影も形も見えなくなっていた。
まあ、その辺は予想の範囲内だ。
ちなみに、玄関ドアから外の世界へ行く場合は、ドアを最後に開いた場所にしか出れない。
ただ、迷宮からも外へ出れるので、外の世界へ行く方法は玄関ドアだけではないが。
「よし。じゃあ、ルト。先に出て」
玄関ドアはオレしか開けられないというルールがあるので、少しだけ開けてからルトを先に出す。
覗き穴は前方しか見えないので、完全に安全とはいえない。
ルトならオレよりも強いだろうし、両手に持った大きな骨もあるので大丈夫だろう。
ルトが完全に外へ出て、周囲を確認したあと問題ないというジェスチャーを返してくる。
そういえばそんな合図決めてなかった。
有能な下僕を持つと助かるなぁ。
外へ出ると、ポチもスルリとドアを潜り、後ろ足でドアを蹴って閉めてしまった。
そして、何も言わずともオレの横にぴったりとついてくる。
開けるのは確かにオレしかできないが、閉めるのは誰でもできる。
ルトといいポチといい、なんでこいつらこんなに有能かね?
嬉しい誤算とはこのことをいうのだろう。
幼女のオレはひ弱だが、仲間が有能ならば非常に心強い。
さあ、狼どもを狩りにいこうか!