027,八階層
夕飯を食べたあと、ルトたちが高層アスレチックで盛大に遊んでいるのを横目に、リウルにもってこさせた馬の骨を使って使役の準備を整える。
とはいっても、骨さえあれば問題ないので準備というほどのものではない。
魔力もそこそこ回復しているし、馬を数頭程度の使役なら問題ないだろう。
あ、結局、馬は三頭使役することにした。
馬車を引くのに二頭。抑止力用の護衛騎乗用の一頭といった具合だ。
騎乗するのはルトになるだろう。
あれ? でもルトって馬に乗れるのだろうか。
「ルトーって! ちかっ! 遊んでんたんじゃなかったの?」
高層アスレチックでボール遊びをしていたと思っていたルトたちだが、いつの間にか近くに待機していたのでびっくりした。
……ああ、馬の骨をリウルがもってきた時点で使役対象、つまりは仲間が増えるのはわかっていたのだから集まってきたのね。
仲間が増えるのはとても大事なことだ。
それがたとえ、戦力目的でないとわかっていても。
頭骨を捻って不思議そうにしているルトからは、いいから早く使役しよう?って感じが伝わってくる。
小首をかしげる仕草なのに、可愛くないのはスケルトンだからだろうか。
いや、これはこれで、もしかしたら可愛いのか? わからない。スケルトン愛好家じゃないからわからない!
「……ゴホン。じゃあ、始めるよ」
益体もないことを考えるのはやめて、さっさと使役してしまおう。
大量の馬の骨に向かって、使役を行使する。
そして、骨がより集まり完成したのは、馬の形をした骨、スケルトンホースだ。
……わかってはいたけど、乗りづらそうだなぁ、骨。
鞍なんかをつけたらまた違うのだろうか。
というか、鞍つけられるのかな?
骨だけで肉なんかがないからなんとも、不安だ。
しかし、使役が完了したスケルトンホースは微動だにしない。
骨なので目が虚ろなのかはわからないが、これは自由意思なしかな。
続けて、同じ様に二頭スケルトンホースを使役したが、すべて自由意思なしという結果になった。
自由意思を持つかどうかの条件って本当になんなのだろう?
だが、これで馬車も動かせるようになった。
二頭を馬車に繋いで、残りの一頭には鞍をつける。
リウルとルトが、手慣れた様子で作業をしてくれたので、骨ばかりの馬でもちゃんとできたようだ。
鞍はフリーサイズ(魔法)でサイズ調整させた結果、しっかりとフィットしてくれたので問題なさそう。
やっぱり便利だな、フリーサイズ(魔法)。
鞍をつけたスケルトンホースに、さっそくルトがひらりとまたがり歩かせる。
馬車に繋いだときや鞍をつけているときから思ったが、ルトって馬の扱いにかなり習熟している。
スケルトンホースに乗ったルトは背筋をピンと伸ばし、堂々と乗りこなしていた。
戦闘もできて、馬にも乗れる。
ルトって本当にすごいな。
……いや、外の世界の移動手段の基本は徒歩か馬なんだから乗れて当たり前なのかな?
まあ、何にせよ馬の扱いが問題ないならいい。
馬車もスケルトンホース二頭で問題なく引けているようだ。
こちらの方はリウルが御者席に座り、それっぽく動かしている。
でも実際には命令で動かしているみたいなので、御者は飾りだな。
馬車を止めて、実際に乗り込んで走らせてみる。
とはいえ、庭は広くても馬車で走り回るには狭い。
ゆっくりと走らせてもすぐに庭を一周してしまった。
乗り心地は、サスペンションとか色々現代の技術が詰まっているだけあって、全然揺れない。
凹凸のない庭だからということもあるだろうけど。
馬車内で優雅にティータイムができるほどではないが、これなら長時間乗っていても問題ないのではないだろうか。
普通の乗用車くらいの快適さだ。
試乗を終えると、ルトが乗っていたスケルトンホースにはなぜかディエゴが乗っており、器用に走らせていた。
いや、うん。命令があるからディエゴでも操れるんだろうけどさ、鐙とかまったく意味ないよね。
しかも、鞍は普通に人間用だから今にも落ちそうで怖い。
大丈夫だと思うけど、心配だ。
乗り終わった馬車の方では、リウルが馬車とスケルトンホースを繋いでいたハーネスを外しているところだった。
あれもフリーサイズ(魔法)がかかっているやつだ。
でも、スケルトンホースの場合、繋ぎっぱなしでも問題ないんじゃないだろうか?
まあ、緊急で馬車を使うことなんてそうそうないだろうから別にいいんだけど。
スケルトンホースは、自由意思もないし、みんな同様食事も排泄もしない。
厩舎とか専用の施設も必要ないので、馬車の近くで待機しているように命令して終わりだ。
あとは、ルトたちが遊ぶのに使ったりするだろうけど、その程度なら自由にしてもらっていい。
というか、さっそく鞍もつけずにひらりとルトが跨ってディエゴの乗ったスケルトンホースを追いかけ始めたし。
……鞍なくてもいいのか。オレがやったら骨でお尻がブレイクされそうだけど。
一応、ほかの二頭にも鞍を用意しておくか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
いつものように午前中は迷宮駆除を行う。
夕暮れの花園の七階層の殲滅もお昼前には無事終わり、八階層へに到達している。
ランク1のネズミの王国が五階層で終わりだったので、順当に考えてランク2は十階層で終わりだろうか?
まあ、それはそこまで行ってみればわかる。
ちなみに、七階層のフロア数は合計で五十以上にものぼっている。
一フロアに魔物が平均五十~六十はいるので、七階層だけで単純計算二千五百以上の魔物を殲滅したことになる。
もちろん、それ以前の階層も階層が深まるにつれてフロアが増えていっているので、似たような量を殲滅してきている。
このままランクが上がっていくと、殲滅の場合はとんでもない量の魔物を倒すことになりそうだ。
もちろん、迷宮の特性によってもこれは変わるだろう。
今回のようなフロアタイプの場合は、特にその傾向が強いように感じる。
何せ、フロアごとに確実に魔物が大量にいるからね。
ネズミの王国は、通路と部屋に別れていたが、等間隔に配置されていたわけではない。
まあ、ランク1ということもあるだろうけど、夕暮れの花園に比べればかなり魔物の量は少なかった。
今後は資金との兼ね合いなんかもあるだろうが、常時殲滅をするかどうかはわからない。
まあ、現状ではとにかく資金がほしいから殲滅一択だけど。
そんなわけで、やってきました、八階層。
八階層で新たに追加された魔物は、見たまんまウツボカズラだった。
いわゆる食虫植物である。溶解液がたまった袋が特徴的なアレだ。
しかし、ここは迷宮。
当然のように大きく、根っこが足代わりになって移動する上に、溶解液を吹きかけてくる。
なんだか、突然難易度が上がったように感じるが、実際のところ、ルトたちにとっては大差はなかった。
ただ、リウルにとっては違ったようで、ルトの指示でウツボカズラには一切近寄らせなかった。
おそらく、リウルには荷が重い相手なのだろう。
相性の問題なのか、単純に強さの問題なのかはわからない。
だが、後者ならこれからどんどん辛くなっていくことになる。
それでも、以前の階層から出現していた魔物がいなくなることはあまりないので、完全に出番がなくなることはないだろう。
まあ、八階層まで来ると、一階層あたりで出ていたツタ人や触手花なんかは一匹いればいいほうだけど。
新たな魔物が増えても殲滅時間的には変わりはない。
しかし、ウツボカズラの魔石の単価は一個480円にもなる。
七階層で追加されたウッドマンも似たような金額ではあるが、種類が増えたことによって収入も格段によくなっている。
お昼までに八階層のフロアを回れた数は、時間もなかったこともあり、たった四フロアであったが、そこだけでも七万円ほども稼げている。
午前中すべての収入となると、三十万円を少し超えるほどにもなった。
現在の通販アプリ用資金の総合計は、604,670円。
毎日三十万円以上稼げるだろうから、でかい買い物をしない限りは結構贅沢できちゃうかもしれない。
まあ、でも実はさっそくでかい買い物するんだけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「収納とベッドは用意したけど、何か他に必要なものとかあったら言ってね。水回りやシャワーに関しては外のを使ってもらうけど、その辺はまあ我慢して」
「ありがとうございます! 主様! まさか部屋まで用意して頂けるとは……! 感激で前が見えません!」
「あーうん。まあ、プレハブだけど」
リウルやルトたちはアンデッドなので、基本的に睡眠も食事も必要ない。
風邪もひかないし、庭でそのままでも問題ない。
今までは、ディエゴが土操作を使って簡易的な休憩所などを作っていたが、資金も余裕があるのでプレハブを購入することにした。
装備や道具なんかも増えてきたし、収納なんかもあったほうがいいと思ったのだ。
物置用のプレハブでもよかったのだが、どうせだからと広めのものを購入している。
八畳ほどの広さで、ドアと掃き出し戸がついている。
いわゆるプレハブハウスで、二段ベッドのほかに、安物のタンスや縦長のロッカーなど色々収納できそうなものを揃えてみた。
プレハブハウスの値段が、五十六万ほどかかっているが、その他合わせて六十万以内で収まっている。
アンデッドの彼らにベッドは普段は必要ないだろうが、損傷したりしたときに必要となるしね。
床で寝るよりはベッドのほうがいいだろう。
ちなみに、このプレハブハウスはリーン以外の下僕たち用だ。
リーンはオレの身の回りの世話なんかもあるから、元からある部屋に住まわせている。
あとで、ポチ用の犬小屋も用意してあげないとね。
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モチベーションがあがります。