026,死霊術師Lv4
外の世界での魔物狩りを初めて小一時間あまり経った頃、新しく魔物を使役した際に、なんだか魔力の消費が少なくなっているのに気づいた。
魔力が増えると、相対的に使役の際に消費する魔力の量が少なく感じる。
魔力が増えるのは、今までだと死霊術師のLvが上がったときだ。
すぐにタブレットで確認してみると――
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Name:ソラ
Class:死霊術師Lv4
Skill:下級下僕使役Lv2 使役数増加Lv1
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やはり、死霊術師のLvが上がっている。
死霊術師のLvがあがったということは、使役可能数も増えているということだ。
何体増えたのかを確認すると――
「うお。一気に五体も増やせるよ!」
「主様、何が増やせるのでしょうか?」
「ああ、死霊術師のLvが上がったんだよ。使役できる数が増えたの」
オレの突然の快哉の叫びに、リウルすぐに反応を示す。
リーンやルトたちも何事かと、周囲を警戒しながらも視線を向けてくるので、笑顔で答えてあげた。
「それは、おめでとうございます!」
「おめでとうございます、ソラ様!」
「うん、ありがとう。みんなもね」
我がことのように嬉しそうに祝福してくれるリウルとリーン。
もちろん、ルトたちからも喜びとお祝いの感情が伝わってくる。
しかし、一気に五体も使役数が増えたのはびっくりだ。
死霊術師のLvによる使役数の増加は、実際にそのLvになってみないことにはわからない。
ガイドブックにも記載されていないことなので、ちょっと不便だ。
まあ、簡易説明なので仕方ないだろう。
一気に五体も使役数が増えたことで、最大で十三体も使役できるようになった。
Lv3からLv4まで結構かかった気がするが、これだけの強化がなされるのならば納得だ。
Lv5になったら一体何体使役できてしまうのか、今からちょっと楽しみなような、いつになったら上がってくれるのか心配なような、複雑な気分だ。
だが、今は素直に使役数が増加したことを喜ぼう。
馬用に二頭分は枠を確保するとして、あと三体も増やせる。
あ、でも、箱馬車に護衛もなしだと盗賊とかのいい標的になったりしないかな?
わざと盗賊に襲わせて、死体を確保するって手もあるにはあるけど、リウルやリーン程度の戦力でも冒険者として一人前の鉄証だった。
鉄証になると、街から街への護衛の依頼なんかも受けられるようになるらしく、それはつまり鉄証の戦力であれば盗賊を倒せると見込まれるということだ。
もちろん、一概にそうとはいえないけど、ミサドの街から護衛をする場合は鉄証でも十分なのだろう。
つまり、この辺には強い盗賊なんていないってことだ。
迷宮都市への道は、当然ながら鉄証以上に戦力を保持しているものたちが多いはずだ。
迷宮都市で一旗あげようってやつらなのだから。
リウルたちも鉄証のひとつ上の黒鉄証になって装備を整えてから行くつもりだったそうだし、無計画なやつでもなければそれなりに戦えなければ行かないだろう。
もちろん、商人や迷宮都市で迷宮を探索する以外で働こうと思う労働者もいるだろうけど、そういった人たちの場合は、命あっての物種なわけだからしっかりと護衛のついている乗合馬車なんかを利用するそうだ。
第一、強い盗賊なんていたら、すぐに有名になって指名手配されるのだそうな。
もちろん、毎回皆殺しにするならわからないかもしれないが、そこまでやると冒険者でも上位の人たちが出張ってくるし、兵や騎士団とかも出てくる場合もあるそうだ。
騎士は、個人で魔鉄証以上の戦力を保有している場合が多いらしい。
毎日欠かさず訓練され、まともな装備に身を固めていればただの冒険者よりもずっと強いのは当たり前の話だ。
それに、騎士が派遣される場合は、当然ひとりではないのでそれなりの数が相手になる。
冒険者は多くても、五、六人程度で動いているので、数が違う。
そうなると多勢に無勢で大抵は逃げ出すか、討ち取られてしまうそうだ。
そんなわけで、盗賊の死体に魅力はあまりない。
何より、盗賊って臭そうだしね。
となると、盗賊は面倒なだけとなる。
護衛もいない馬車では、襲ってくださいと言っているようなものなので、御者のほかにひとりふたりは抑止力として護衛をつけるべきだろう。
御者席以外では、屋根の上しか空いているスペースがないので、やはり馬などに騎乗させるのが手っ取り早い。
狼やポチもいるので、抑止力としてはひとり入れば十分かもしれない。
五体の使役枠のうち、半分が馬で埋まってしまうのはどうなのだろうか。
馬だけに。
少し前までは考えられなかった実に贅沢な悩みだね。
ちなみに、今日外の世界で倒した魔物の中に、どうしても使役したいと思えるほどの魔物はいない。
こちらにいる狼は、草原にいた狼と違ってなんだかずいぶん弱くて頼りない。
ほかの魔物も同じように弱いので、戦力としては微妙すぎる。
リウルとリーンでも余裕をもって狩れる程度の魔物なのだから仕方ないといえば仕方ない。
まあ、ミサドの街からも大して離れていないわけだし、そんな近くで強い魔物がいたら危ないか。
あの草原だって、ミサドの街から四日もかかる距離なわけだしね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目的でもある使役数の増加は達成したが、まだ魔力は残っているし、使役枠も余っている。
いつもの夕飯の時間まではまだあるので、もう少し狩りを続けることにする。
戦力として通用しそうな魔物の死体を得るためにも、少し奥の方へと進んでみることにしたが、リウルたちによるとこの辺は数こそ多いが、強い魔物はほとんどいないそうだ。
もちろん、数日かかるほどの奥地にはそういった魔物もいるそうではあるが。
当然ながら、そんなに時間をかけていくつもりもないので、今日のところは魔力が続く限り使役をして経験値を集める作業と割り切ることにした。
そうと決まれば、あとはもうひたすら魔物を倒して使役しまくるだけだ。
魔力の総量も上がったことで、多少の傷で徴収される程度の魔力なら気にしないでもいい気がする。
それだけ魔力の上がり方は激しい。
闇系統とかの魔法が使えたら、戦力として確固たる地位を築けるような気がするレベルなのだ。
……死霊術師なんだから属性的には闇っぽいしね。
まあ、使えないものは仕方ない。
数は力とはいうけれど、現在の戦力過剰状態では、弱い魔物が一匹二匹増えたところで大して意味がないのが正直なところだ。
やはり、一騎当千級のルトやディエゴ、ブラックオウルクラスじゃないと戦力増加とはいえない気がする。
どこかで偶然強い魔物とばったり遭遇するか、強い人の死体でも落ちてないだろうか。
もちろん、骨でもいいぞ!
そういえば、あれだけ強いルトって、生きていた頃は有名な冒険者とかだったりするのだろうか。
ポチも同じところに骨があったわけだし、犬をつれた有名な冒険者で調べればわかりそうな気もする。
ていうか、リウルたちに聞けばいいんじゃない?
ミサドの街が一番近い、あの草原で死んでたわけだし。
「リウル、リーン。犬を連れた有名な冒険者で、もう死んじゃってる人とか知ってる?」
「え? 犬、ですか?」
「犬……。動物使いは、冒険者にはあまり多くはないはずです」
「そうなの?」
「はい。訓練が大変ですし、魔物と違って普通の動物はそこまで強くなれませんから」
ふーむ?
ポチって幻術魔法ではサモエドみたいな犬っぽい感じだったんだけど、生きてた頃の姿ってわけじゃないのかな?
「じゃあ、リーンくらいの女の子で、活発そうな見た目でものすごく強かった冒険者っている? あ、もちろん、もう死んでる人で」
「その条件なら結構います」
「剣聖アビルとか、灰鎚のビンヴィとか有名ですね」
「あー……。多いのか」
どうやら、ルトの生きてた頃を知るのは難しいみたいだ。
ふたりも誰のことを聞いているのか薄々わかったみたいで、今も襲ってくる魔物を鎧袖一触で倒しているルトをちら見している。
まあ、完全に乾燥した骨だけになるくらいの月日は経過しているわけだから、範囲が広すぎてよっぽどの特徴でもない限りは調べられないか。
ポチの存在が特徴としては十分だと思っただけに、残念だ。
ただ、どうしても知りたいわけでもないし、過去は過去だ。
今現在、非常にオレの役に立っているルトやポチがいればそれでいいという思いもある。
知ったところで、何が変わるというわけでもないからね。
遊ぶのが大好きで、撫でるのもうまくて、意外と心配性なスケルトンなのがオレの知っているルトだ。
今はそれでいいだろう。
さて、みんなに働かせてオレだけボーッとしているわけにもいかない。
まあ、戦闘には参加できないんだからいつものことなんだけど。
さっさと使役と解除を行なって、経験値でも稼ぎますか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、魔力が尽きる寸前まで使役と解除を繰り返したが、使役数増加のLvは上がらなかった。
多少の傷でも使役した結果、日が暮れる前には部屋に戻ったので、ルトたちは遊ぶべく元気いっぱいに高層アスレチックへと駆け出していく。
本当に遊ぶの大好きだよね、君たち。
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モチベーションがあがります。