025,馬の骨
リウルのミサドの街での情報収集は、目的のものを含めて十分なものを得られた。
次はその情報を元にして、馬の骨を必要量取得するための計画を練る。
とはいっても、馬の骨が埋葬されている場所は、街の外にある。
そのため、街の門が閉まる夜ならばまず人目につかず作業が可能だ。
今のうちにスコップなどの道具を用意しておけばいいだろう。
暗闇で作業をすることになるが、アンデッドであるルトたちは夜目がかなり効くので問題ない。
オレはあまり見えないけど。
決行は今日の夜。
別に先延ばししてもあまり意味はないからだ。
馬の骨が手に入っても、すぐには使役できないけど、さっさと集めてしまった方がいいだろう。
「じゃあ、今日の夜に掘り出しに行こうか」
「はい! 主様! 案内はおまかせください!」
「うん、よろしく頼むよ」
気合の入った声で応えるリオルに笑顔を返し、さっそく道具の購入を始め、準備を整えておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜陰に紛れて街道をすばやく移動する。
リウルとルトを先頭に、狼に跨ったオレとブラックオウルとポチが続く。
二度と狼には乗るまいとは思ったが、短時間での移動なら効率もいいし、負担も少ない。
一応夜までにある程度移動しておいたので、この速度なら目的の場所までそうかからないだろう。
目的の場所は、ミサドの街から徒歩で二時間くらい離れた場所にある。
部屋への入り口があったところからなら、ミサドの街より近い場所だったのもよかった。
前回の反省も踏まえて、狼にはオレへの負担がかからないように走らせているし、股への負担を減らすためにクッションなども増やしている。
速度も抑えめにして、リウルとルトと合わせている。
これだけやれば一時間くらいなら乗っていても大丈夫だろう、たぶん。
……だめだったらまたポーションのお世話になるということで。
移動を続けることしばし。
林へと続く道へと入り、少し進んだところにそれはあった。
林の中にぽっかりと空いた広場のような場所があり、そこだけ草が生えていない。
月明かりに照らされた地面は掘り返したような跡があるにはあるが、それなりに時間は経っていると思われる。
「最後に馬の骨が埋められたのは二ヶ月以上前のことだそうです」
「よし。じゃあ、とっとと回収してしまおうか」
部屋へのドアを開け、用意しておいた道具を取り出すと、各々がさっそく地面を掘り返し始める。
オレは体力仕事は無理なので、ダンボールを地面に敷いて座って監督役だ。
特に指示することはないんだけど。
まあ、日本ではとてもみることができない綺麗な星空を眺めて時間を潰すとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「主様、予定していた量の骨は回収完了致しました」
「頭骨なんかも回収できた?」
「はい、五頭分はあるかと」
「よし。じゃあ、撤収するから埋めちゃって」
「畏まりました!」
吸い込まれそうなほど綺麗な星空を眺めている間に、リウルたちが頑張って骨を回収してくれたおかげで、予定通りの量を確保することができた。
頭骨などの大きな骨も予定より多く回収できたようなので、馬が必要になったときには増やすことも可能だろう。
ただし、やっぱり枠の問題もあるので早々馬をたくさん使役するわけにはいかないだろうけど。
骨を掘り出すのは大変でも、埋め直すのは比較的簡単だ。
リウルもルトもオレに使役されて、アンデッドになっているから披露しないし、下級下僕使役のおかげで能力値が底上げされている。
掘り出すのにかかった時間の三分の一程度の時間で埋め戻し終わると、ある程度移動してひと目につかないところで部屋に戻った。
骨の掘り出しで土塗れになっている彼らは、庭で水を適当に浴びてある程度土を落としてから、購入したばかりの屋外シャワー室で本格的に洗浄をさせる。
そこそこ広い庭の端にドンと設置された屋外シャワー室には、小さな脱衣所もついていて、洗い場もかなり広い。
ドライヤーなんかも使えるようにコンセントがあったり、大きな鏡も設置してあったりと、至れり尽くせりだ。
これで五十四万円なのだが、まあ、安い買い物ではないね。
でも、オレ的には満足している。
実際に使ってみたルトたちも満足そうなので安心だ。
……オレは部屋のお風呂を使うけどね。だってこのシャワー室、浴槽ないし。
庭には、そのほかにも大きな箱馬車も止められている。
まだ馬を使役できる枠はないけど、買っちゃいました。
御者を除いて、六人も乗れるだいぶ大きな馬車だが、二頭立てで現代日本の技術の粋を集めた高級車だ。
外見はオプションで地味めにしてある。
外の世界で移動するために買ったのだから目立ってもよいことはない。
内装は実用性重視で、クッション性抜群の座席以外はこれといったものはない。
ただ、照明もついているし、窓にはカーテンなどもついている。
照明は普通の乾電池式LEDライトだったけど、車内を照らすだけなら十分な光量だろう。
あとは、馬を用意するだけなので、死霊術師か使役数増加のLvが上がるのを待つだけだ。
なので、明日は近場で適当に魔物を狩りつつ使役を繰り返して行こうと思う。
迷宮駆除は一応午前中だけやって、午後からLv上げだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午前中の迷宮探索では、フロア数がかなり多いのもあってまだ七階層が終わっていない。
その代わり、資金の増え方は順調だ。
箱馬車以外にも、どうせ必要になるのだからと、ルトとリウルとリーンの着替えや予備の装備に加え、日用雑貨などの小物まで、とにかくたくさん購入した。
特に日用雑貨に関しては予備の予備まで大量に、だ。
なんでこんなにいっぱい買ったかというと、ハイペースで迷宮を探索してわかったことだが、あれだけやると小物がきれていたりするとものすごく面倒になるのだ。
リーンたちはタブレットを扱えないので、買い物はオレがするしかない。
でも、戦闘はしなくても一日中迷宮にいればかなり疲れる。
オレの下まで魔物が来ることはないとわかっていても、目の前で戦闘をしていれば多少は緊張するってものだ。
精神的な疲労も相まって、余裕があるときに尽きる前に必要なものは買い置きしておくべきだと判断した。
あとはまあ、なくなっても慌てなくて済むし?
通販アプリは配達の待ち時間はないけど、それはそれなのだ。
というわけで、結構な金額を使ったが、それでもまだ数日前に比べれば余裕がたっぷりとある。
さらには、今日の午前中に稼いだ資金は、箱馬車代を除けば余裕で黒字になっているほどだ。
ちなみに、リーンとリウルの装備は多少マシな革の軽装備一式と、最初に与えた武器よりもマシなものだ。
なので、あんまり高くなかった。
使ったお金の半分以上は、ルトの武器の予備として買った魔式トンファー雷とカートリッジのせいだ。
割と高かったものね、あれ。
でも、ルトのためなら予備としてもう一本買うくらいなんでもない。
むしろもっと高い武器や防具を買ってあげたいくらいだ。
というか、次は買おう。
まあ、今でも過剰戦力気味なんだけど。
そんなわけで、現在の通販アプリ用資金は296,270円也。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「しーえきー。はい、新しい狼かんせー」
「お見事です! 主様!」
「いや、声でかいし」
「す、すみません……」
昼食に鉄火丼を食べて、使役数増加と死霊術師のLvアップを狙って外の世界にきている。
死霊術師に関しては、ルトたちが戦闘してもLvアップすることはわかっているが、使役数増加に関してはまだLvアップしていないこともあり、よくわからない。
だが、Skillは関連する行動を取ることによって経験値が溜まる仕組みなので、何度も使役すれば上がるんじゃないだろうか。
そういった実験のためにも、外の世界で魔物を倒し、死体を使役しまくっている。
元々枠に余裕がなかったこともあり、残念ながら最後まで残っていた狼は使役を解除し、魔物を倒したら使役し、次を倒したら解除してまた使役、という感じで行なっている。
魔力に関しては、今回はブラックオウルのときのように目当ての魔物がいるわけでもないので、限界まで使うつもりだ。
「しかし、自然が深まるにつれて魔物の数も増えていくねぇ」
「駆除が追いつきませんから……」
「まあ、そうだね」
馬の骨を回収した林から離れ、街道を逸れていけばもう人間の活動範囲ではなくなり、自然が生い茂る魔境になってくる。
自然が深まるにつれて、どんどん魔物との遭遇確率が上がっていくのがよくわかる。
街道沿いは、ほとんど魔物なんていない。
だが、少しでも森や自然が濃い場所になると、魔物は必ずいる。
オレが初めて部屋から出たあの草原だって、自然が濃い場所に該当するため、似たようなところには狼やら何やらたくさん歓迎の魔物が襲ってきている。
魔力にも限りがあるので、余計な魔力が徴収されないように、外傷の少ないものを選んで使役しているので、すべての魔物を使役しているわけではない。
ルトが丁寧に倒した魔物なんかは外傷が少ないのだが、魔法は威力がありすぎるのでかなり傷が大きくつくし、リウルやリーンでは武器と技量的に傷をつけずに倒すのは難しい。
一度に襲いかかられると当然ルトだけでは、抑え切れないので仕方ない。
ぶっちゃけ、魔物の数には困らない程度には棲息しているようだし、問題ないだろう。
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