021,殲滅
今度は魔石回収に大した時間をとられることはなかった。
ただ、十字型のフロアのそれぞれの行き止まりには、魔法陣があり、選択肢はみっつもある。
とはいっても、こちらにはマップがある。
しかも、どの魔法陣からどの魔法陣に転移するのかがわかりやすく線で結ばれているという親切設計なので迷うことはないだろう。
当然、行ったことのあるマップのみだけど。
なので、とりあえず虱潰しに進行方向右から進んでみる。
ちなみに、リウルとリーンも戦闘には参加している。
彼らには、かなり安かった革の装備一式を与えて、模擬戦で使った武器をそのまま持たせている。
ルトたちもいるし、魔物の一体や二体なら十分に戦えているようだ。
リーンは弓なので、遠距離から先制攻撃をしたあとは散発的に味方に当てないように撃っているだけだし、リウルは中距離から危なげなく槍で攻撃している。
リウルには、ルトが狼をサポートにつけているようで、常に二体以上を相手にしないようにさせているようだ。
ルトってば割と過保護なのかな?
模擬戦では一瞬で打倒していたくせに。
リーンは、ディエゴの側を離れないようにしているので、彼女の下にまで魔物が近づくことはない。
その前に倒されてしまうからだ。
ブラックオウルは、自由にフロア内を飛び回って魔力を温存しつつ、要所要所で風弾を単発で打ち込んでいる。
衝撃波を連発できるほど魔力があるブラックオウルなので、風弾なら連射し続けなければそこまで消費しないようだ。
実に頼もしい。
ディエゴは全体的なサポートをして、みんなが戦いやすいようにしている。
とはいっても、まだまだ魔物は弱い。
ほぼ無双といっていいレベルだろう。
実際に、ルトの場合は完全に無双しているのだから。
ランク2とはいっても、一階層ではこんなものだろうね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔物をどんどん殲滅し、いくつかのフロアを転移すると、赤い魔法陣を発見することができた。
これが次の階層への転移の魔法陣だ。
特にトラップということはないので、安心していい。
ただ、まだ行ったことないフロアがいくつもある。
魔石も割と美味しいし、殲滅自体も時間はかからない。
マップがあるので、ここに戻ってくるのも簡単だから、どうせならすべてのフロアを殲滅してみようと思う。
迷宮探索終了予定時間のお昼まではまだまだあるし、さっそくそのことをみんなに伝えると別のフロアへと移動を開始する。
ただ、その際にリーンには戦闘へ参加させないことにした。
ぶっちゃけ、リーンの弓での攻撃は大して役に立っていない。
一撃で倒せないし、矢も消耗品なので変な角度で突き刺さると曲がったり、折れたりして使い物にならなくなる。
回収できる矢は回収しているし、矢自体の値段も高くはない。
ぶっちゃけ、ツタ人の魔石一個100本以上は買えてしまう。
だが、それはそれ、これはこれ。
殲滅に大して寄与していない時点で意味はあまりないのだ。
まあ、それをいったらリウルもそうなんだけど、彼の場合はここで役に立たないなら本当にいらなくなってしまう。
なので、リウルには頑張って殲滅を担当してもらうとしよう。
ちなみに、リーンの新たな役回りは、タブレットの上に魔石を並べていく係だ。
タブレットに魔石を押し付けると通販で使えるお金に換金されるが、押し付けられるのは一度につき、ひとつの魔石だけだ。
いっぺんに押し付けてもひとつしか換金されないので、結構面倒くさい。
しかも、リーンやルトたちではこの作業は行えない。
そこで、タブレットの上に予め魔石を並べておいて、どんどん魔石をオレが押して行く。
少し押し付けるだけで換金されるので、換金されて消えるたびにリーンが魔石を並べていけば効率的にやれるのだ。
まあ、実際には並べるといっても適当にタブレットの上にばらまく感じになるけど。
ひとりでやるよりは、ばらまく係と押し付ける係で別れたほうがちょっとだけ効率的だろう。
本当にちょっとだけだけど。
もっと効率的な方法として思いつくのは、タブレットの画面の大きさに切った筒をダンボールか何かで用意して、タブレットにハメてから魔石をたくさん投入して上から押してみるとかだろうか。
一個ずつしか換金できないとはいえ、押し続ければどんどん換金されるだろう。
魔石がいっぱいになったら部屋に投げ入れてあとでまとめてやってもいい。ドアはどこでも出せるのだから。
ちょっと試してみようかな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マップをみながら行ったことのないフロアへ移動し、殲滅しては移動する。
一階層のすべてのフロアを殲滅し終わるまでに、あれから一時間程度しかかからなかった。
フロアの数も思っていたほど多くなかったのもあるだろう。
というわけで、二階層への赤い魔法陣のあるフロアまで戻ってきた。
途中のフロアで魔物が湧いていて、数匹だけいる場合もあったが、ルトたちが秒殺して通り過ぎてきた。
大量にいても問題ないのだから、数匹しかいないなら秒殺で当然だろうね。
この迷宮の構造上、魔法陣で転移しても魔物にすぐに襲われるということはないだろうけど、一応ルトを先行させてみる。
待つこと数分、すぐに戻ってきたルトがうなずいたので、やはり問題ないみたいだ。
二階層は、一階層とほとんど代わり映えがしない。
若干夕暮れに染まる空の紅色が濃くなったような気がするけど、誤差かもしれない。
ちなみに、何時間経ってもこの夕暮れ空は変化しない。
まあ、迷宮の名前が夕暮れの花園なわけだしね。
花園と言う割には、壁は草木だし、地面には草しか生えていないけど。
魔物に花が咲いているから一応間違ってはいないのかな?
そんな適当なことを考えていると、最初のフロアの殲滅が終わったようだ。
増えた魔物は、ツタ人を少し大きくして腕が二本から四本になった四腕ツタ人だけだ。
ただ、腕に四つになっても、所詮は雑魚なのか、殲滅時間は大して変わらない。
リウルも一階層と同じ様に問題なく戦えているようなので、大丈夫だろう。
リーンは、今度は魔石の袋を持つ係になっている。
先程考えた魔石処理方法は、部屋に戻ってから試すことにしているので、魔石の処理は今はしない。
小さな魔石でも、数が集まれば袋の重さは結構なものになる。
小さな幼女のオレにはこの重さが結構来るのだ。
ただし、移動自体は自分で歩いている。
ディエゴが若干寂しそうな目でみてくるが、適度な運動をしないとぽっちゃり幼女になってしまうので仕方ない。
ただでさえ、リーンの料理が美味しいのだから危ういのだ。
さくさく殲滅しつつ、フロア移動を繰り返していく。
二階層は、一階層と違い、グルグルと回るように転移先が設定されている箇所が多い。
一階層は進めば進むだけ別のフロアに繋がり、最終的に行き止まりになっていた。
つまり、二階層はマップがなければちょっとだけ迷いやすくなっているみたいだ。
ただ、その程度だ。
マップという最強の攻略ツールがある以上、迷路系のギミックは意味をなさない。
途中で、一度だけ魔物の移動に遭遇したけど、転移の構造上奇襲されることもなく、問題なく殲滅できた。
移動が転移系の迷宮は楽でいい。
一階層のフロア数よりちょっと多い程度のフロアを殲滅し終わった頃、帰還予定のお昼が近づいてきた。
ランク2の迷宮だけあって、フロアの数自体はそこそこ多い。
一階層ですら十フロア以上あったし、二階層はもっと多い。
三階層への魔法陣があるフロアは見つかっていないが、虱潰しにしている以上、そのうち見つかるだろう。
だが、今日はここまでだ。
「おーい、みんな。魔石拾い終わったら今日の迷宮探索は終わりねー。お昼食べてから迷宮都市への移動を開始するよー。あ、リーンは先に戻って用意してて」
「はい!」
「わかりました、ソラ様! 今日も美味しい料理を作りますね!」
リーンとリウルから元気な声が帰ってくる以外は、みんなしゃべれないのでそれぞれの動きで応えている。
先に戻って、お昼の用意をするリーンのためにドアを出してあげ、オレも魔石拾いに参加する。
すでに部屋には、魔石が大量に詰まった袋が二袋ある。
これが三袋目なので、今日の稼ぎはかなりのものになるだろう。
お昼ご飯ができるまでにダンボールで工作して、魔石の処理をしてしまおう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、次いれてー」
「畏まりました!」
タブレットの上にダンボールで作った枠をハメ、その上に魔石を流し込んで押し付けることで、魔石の処理はより効率的にできるようになった。
袋いっぱい入っている魔石は結構な重さなので、あまり役に立っていないリウルに魔石の流し込みをやらせることにした。
なんだかんだで、自由意思持ちはやっぱり貴重だから、灰にするのは勿体無い。
とはいっても、三袋の魔石を処理し終わるまでに数分とかからないので、あっさりとこの仕事も終わってしまう。
そのあとは、庭に出来ている石のアスレチックを利用した修行をさせている。
アクロバティックにアスレチックの上を移動するルトたちに比べると、まだまだリウルの動きは悪い。
時々、ルトたちにバランスを崩されて地面に落下している。
だが、地面自体はディエゴの土操作で柔らかくしているので、怪我はしていないようだ。
その代わり汚れがひどいけど。
……着替え、もう数着ないとだめなんじゃないの、あれ。
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