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020,夕暮れの花園



 リーンの料理の腕は弓より確かだと判明した。

 これからは、身の回りの世話や料理はリーンに頑張ってもらおう。

 頑張れ、リウル。

 何か役に立てないと灰になっちゃうぞ!


「では、夕暮れの花園へしゅっぱーつ!」


 ブラックオウルやリーンたちを使役した翌日。

 リーンたちから外の世界の情報をある程度聞き取りできたので、本日から迷宮駆除を再開することにした。

 迷宮都市へは、もう少し装備やお金を集めてからにする。

 とはいっても、リーンたちが死んだ場所から徒歩で何週間もかかってしまうほど遠いので、ある程度移動して距離を稼いでおかないといけないけど。

 なので、午前中は迷宮駆除をして、午後は移動にあてることにした。


 さて、夕暮れの花園は、ネズミの王国と違い、ランク2の迷宮だ。

 ランクが上がるということは、それだけ難易度が上がることを意味する。

 魔物の強さや、迷宮自体の厄介さが上昇するが、その分お金になる魔石を落とすことになる。

 つまりは、装備や食材を購入しやすくなるということだ。

 特に色々な食材を購入できるのは大きい。

 何せ、料理ができる人がいるからね!

 いや、オレもできないことはないよ。でも面倒くさいし、待ってるだけで料理がでてくるなんて最高じゃない?


 そんなわけで、やってきましたランク2の迷宮、夕暮れの花園。

 いつもどおりにドアを少し開けてルトがまず先行する。

 そのあとに続き、一匹だけになった狼と、その背中に乗ったブラックオウルが突入する。

 続いてディエゴとリウルが入り、最後はオレと護衛のポチとリーンだ。

 だが、ルトが突入するのと同時に聞こえ始める戦闘音がなかったことから、ちょっと不思議に思っていた。


「あ、そういうことか」


 迷宮内に入ってみれば、戦闘音がしなかった理由は一目瞭然だった。

 ネズミの王国では、ドアから入ると通路に出て、そこには大量のネズミたちが待ち受けていたが、夕暮れの花園では違ったのだ。

 ドアを抜けた場所は、夕焼け空に彩られ、巨大な草木で壁が構成された体育館二個分はありそうな大きなフロアとなっており、ドアの入り口はその端の方に出ていた。

 魔物はフロアの中央部に固まっており、大量にいることには変わりないが、こちらを凝視しているだけで近寄ってこない。

 ルトたちは、迷宮に入った直後の露払い要員でもある。

 でも、襲ってこないなら全員が揃うまで待ったほうがいいに決まっている。


 フロアの中央部にいる魔物は、ツタが絡まって人型を形成しているツタ人や、巨大な花から根っこの触手がうねうね出ている触手花の二種類のようだ。

 ただ、その数は大量だ。


 大量なんだけど……。


「律儀に待ってくれてるなら、まあこうなるよね」


 ディエゴの石の剣山がツタ人と触手花を地面から串刺しにする。

 その範囲はかなりの広さを誇り、それだけでほとんどの魔物を一掃してしまったが、全部ではない。

 しかし、次にブラックオウルが放った魔法により、残っていた魔物が全て吹き飛んだ。

 見事なまでの瞬殺だ。


 ……ただ、問題があるとすれば――


「リーン、リウルー。仕事だよー。吹っ飛んだ魔石かき集めてー」

「「はい!」」


 ディエゴの剣山で死んだ魔物が残した魔石が、ブラックオウルの魔法で一緒にぶっ飛んでしまったことだろうか。

 消滅する前に吹っ飛んだ魔物も多いので、結構広い範囲に魔石が散らばってしまっている。

 しかも、地面は芝生のように草が生えているので、小さな魔石を探しづらいときたもんだ。

 これはふたりだけに任せていたら探し終わらないだろう。


「仕方ない。みんなで魔石探すよー」


 全員にそう言うと、散らばった魔石捜索が始まった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ブラックオウルが強いのはわかってたけど、こんな弱点があったとはねぇ」


 あれから頑張ってみんなで探した結果、かなりの量の魔石を見つけることができた。

 主に狼とポチの力が大きい。

 彼らはアンデッドや骨だけになっても嗅覚が鋭いままなので、匂いで魔石をあっさりと発見できたのだ。

 でも、魔石って同じ匂いか、もしくは特徴的な匂いでもするのだろうか?


 下級下僕使役Lv2で少しは感情が伝わるといっても、喋れるほどに融通がきくものではないので、結局よくわからなかったが。


 だが、ひとつだけいえることがある。

 こんな調子で戦闘後に魔石探しをしていては、時間ばかりかかってしまって一向に先に進めない。

 魔石の換金率はネズミの王国に比べればかなりよくなっているし、相変わらず大量にいるので、かなりの量にはなる。

 だが、それでもどんどん先に進めなければ効率は悪いのだ。


「ねえ、ディエゴ。ブラックオウルの魔法ってあれだけなの? もっと吹き飛ばさないで魔物を倒せるやつないかな? 魔石探すの面倒なんだけど」


 ディエゴにそう伝えると、枝の手をわちゃわちゃ動かして何やら一生懸命伝えようとしてくれる。

 伝わる感情としては、あるよーあるよー別なのあるよーって感じだろうか。


「ありそうなら、ちょっと使って見せてくれる?」


 わちゃわちゃしていたディエゴが可愛かったけど、今は確認の方が先だ。

 了解したと切り株を上下に振っていたディエゴが少し遠くに石壁を出現させる。

 あれが的代わりなのだろう。

 そこへ翼を広げてふわっと浮き上がったブラックオウルが魔法を放つ。


「お? おー……。あれなら吹っ飛ばないかもね」


 放たれた魔法は、今までみた衝撃波のような魔法ではなく、いうなれば風の槍といったところだろうか。

 一発で見事に石壁を貫通して穴を開けている。

 空いた穴もそれほど大きくはなく、周囲への影響も少ない。

 ただ、どうしても単発では大量の魔物に対してあまり有効打にはならない。

 それに、威力過剰なのはあまり変わっていない。

 と思っていたら――


「お? おおー。こっちのがいいね!」


 ブラックオウルが次の魔法を放つと、今度は石壁を貫通することはなかったが、石壁にかなりの数の穴が刻まれた。

 こちらは風弾とでも言うべきものだろうか。

 石壁は結構な強度があるはずなので、貫通せずともかなり抉れているだけでも十分な威力といえる。

 というか、最初からこっちを使ってくれればいいのに。

 いやでも、オレたちがブラックオウルの使う魔法をみたのは衝撃波だけだったから仕方ないか。

 命令を下しているのはディエゴだし、知らなかった可能性もある。

 まあ、魔物が吹っ飛んで魔石探しが大変になるなんて普通は思わないしね。

 でも、これでどんどん先に進めるだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドアが出現した場所から反対方向の壁際までいくと、そこには魔法陣が刻まれて、青い光を放っていた。

 どうやら、この迷宮は転移して移動するタイプのものらしい。

 迷宮は様々な特徴を有しており、ネズミの王国のような通路と部屋で構成され、階段で階層を移動していくタイプのものもあれば、今回のようなフロアがいくつもあり、移動に転移の魔法陣を使うタイプなどもある。

 ほかにもたくさんの種類があるが、今はいいだろう。


 転移の魔法陣は、一定周期で明滅を繰り返している。

 一際魔法陣が輝くタイミングがあり、そのときだけフロア間の移動が可能になる。

 明滅する時間もそこまで早くないが、一分に一度は移動が可能なので、待ち時間も少ない。

 戦闘中でもお構いなしに転移するので、基本的には魔法陣の上で戦闘などはしないほうがいい。


 当然、ネズミの王国と同様に一定以上の量になると魔物も移動を開始する。

 魔物も、移動には魔法陣を使って転移するが、転移する場所がオレたちとは違うので、魔法陣から魔物が現れて襲われるということはない。

 この辺は、勇者育成用に作られた迷宮ならではのセーフティだろう。

 魔物を倒して、魔法陣に近づいたらそこからまた魔物が現れて襲われて死ぬといったハプニングを防止をするためだと思われる。

 姉神が作ったこの迷宮は勇者を成長させるためのものであり、殺すためのものではないのだから。


 魔法陣は人数にあわせて拡縮するようで、最初は一メートルほどしかなかったが、オレたちがどんどん乗っていくと同時に広がって全員が乗れるほどにまで大きくなった。

 明滅を繰り返し、一際輝くと同時に視界は一瞬で切り替わる。


 次のフロアは十字型をしているようだが、戦闘するには十分なほど広い。

 フロアごとに形が異なるタイプのようだが、基本的には魔物はフロアの中央に陣取っているようだ。

 今回も大量のツタ人と触手花がこちらを凝視している。

 マップを確認してみると、先程のフロアとはかなり離れた位置に現在のフロアがある。

 これでは、どこから次の階層へ行けるのかまったくわからない。


「手当たり次第かな」


 そうオレが呟くのと、ディエゴの指示でブラックオウルが大量の風弾を魔物の集団に向けて発射するのが重なった。

 予想通りに、ツタ人や触手花は風弾一発で消滅している。

 確殺できるのなら問題ない。吹っ飛んでもいないしね。


 ただ、風弾だけでは全部は倒しきれていないようだ。

 でも、こちらの戦力はブラックオウルだけじゃない。

 魔力だって無尽蔵ではないのだから、毎回魔法で殲滅というわけにもいかない。

 それでも、ルトたちにかかれば残党を殲滅するのに大した時間はかからなかった。



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