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018,森の死神



 死にたてほやほやで、肉体もしっかり残っている外の世界の人間を使役してみた。

 赤髪の少年は自由意思を持たず、オレの命令は聞けるが喋ることすらできず、ルトとの模擬戦でも一瞬で打ち倒されてしまって、使い物にならないと判断した。

 次に使役した青髪の少年――リウルも赤髪の少年同様、ルトとの模擬戦で一瞬で倒された。

 でも彼は自由意思を持っており、喋ることができる。

 即時使役解除をするつもりはないので、できれば迷宮に連れて行って少しでも戦闘に貢献してほしい。

 しかし、戦闘でメインを張っているのはルトだ。

 そのルトが使えないと判断すれば、それはそれで仕方がないだろう。


 顎の骨に人差し指の骨をつけてしばし考えていたルトだが、緊張して判決を待っているリウルを一瞥してから頭骨を縦に振った。

 つまりは連れていけるということだろう。

 ルトがそう判断したのなら安心だ。


「よかったね、リウル。迷宮に連れていけるってさ」

「はい! ありがとうございます! 主様! ルト先輩!」

「あるじさま」

「はい! 主様は主様ですから!」

「……まあ、いいか」


 緊張してガチガチだったリウルは、オレの言葉にそれはもう喜んでくれた。

 開口一番忠誠を誓っていたし、ルトのことを先輩って呼んでるし、戦闘で貢献したい感じが目に見えていたからね。

 まあ、忠誠を誓うことイコール戦闘貢献ではないだろうし、ルトのほうが先に使役されていたんだから先輩なのは間違いない。

 それでも彼からは、ルトの強さに対する敬意みたいなものが感じられていた。

 忠誠だってどちらかというと騎士などの、対象者を命をかけて守る的な意味合いが強いように感じられたのだ。

 まあ、どちらも下級下僕使役Lv2の恩恵で感じたものなので間違ってはいないだろう。


「リウル。君には外の世界の情報を提供してほしいんだけど、前世の記憶ってどこまであるものなの?」


 名前を覚えていたし、ある程度の記憶は保持されていると思っていいだろう。

 だが、欲しいのは外の世界の情報だ。

 それが手に入らなければ正直なところ、リウルの価値は半減する。

 しかし、どうやらその心配はいらないらしい。


「はい! 不運にも森の死神に遭遇し、森を脱出したところまでは覚えています!」

「えー……それってつまり死ぬ寸前までの記憶があるってこと? 森の死神ってその梟?」

「はい、その通りです!」


 この巨大梟は森の死神と呼ばれているようだ。

 確かに見通しの悪い森で、あんな威力の魔法攻撃をされたらかなりやばいだろう。

 現状の戦力では森の中で遭遇していたら、勝てないかもしれない。

 つくづく森の中に入らなくてよかった。


 とにかく、リウルの記憶は問題ないみたいなので、あとでゆっくり外の世界の情報を聞き出そう。

 急ぐ必要はないからね。

 まだやることも残っているし。


「じゃあ、あとで聞く事いっぱいあるから協力するように」

「承知致しました!」

「さてそれじゃあ、次は女の子か。ルト」


 赤髪の少年、リウルとくれば次は金髪の少女の番だ。

 ルトに声をかけて、死体を持ってきてもらう。

 巨大梟――森の死神は最後にとっておこう。

 明らかに強力な戦力となるのはわかっているからね。


「主様、彼女の名前はリーンと申します。弓の腕はかなりのものです」

「へー。弓って魔法と比べるとどうなの?」

「ま、魔法ですか……ディエゴ先輩と比べると数段落ちると思います。森の死神ですと……その、相当落ちるかと……」


 ルトに金髪の女の子――リーンの死体を運んでもらっている間に、リウルが彼女についての情報を教えてくれる。

 ただ、リウルのいう「かなりのもの」という弓の腕は、同じ遠距離攻撃手段としては魔法より数段落ちるようだね。

 これは仕方ないだろう。

 実際に、ディエゴたちの石弾は相当な威力がある。

 森の死神の魔法攻撃もすごかった。

 それらと比べるのは酷というものか。


「まあそんなものだよね。というか、ディエゴたちの魔法の情報も知ってるんだ」

「はい。主様に使役して頂いた瞬間に、様々な知識が流れ込んできまして」

「へー……」


 リウルを使役してから、ディエゴたちの魔法はまだ見せたことがない。

 というか、彼の生前でもディエゴたちの魔法は見せていないのだから、その情報を持っていること自体がおかしい。

 しかし、それも使役の際に情報を得ていたということで合点がいった。

 そもそも、ルトたちを見てわかるように、部屋の備品の操作や情報なんかをオレが教えずとも知っていた。

 あまり気にしていなかった疑問だが、答えがわかれば意外とすっきりするものだね。


「じゃあ、さっそく使役しようかね。その前に、切り株お化けを一体解除っと」


 使役限界数に達しているので、切り株お化けのうち一体を解除してリーンを使役する。

 すると、彼女は使役と同時に体を起こして周囲にキョロキョロと視線を走らせ、オレが目に入ると慌てて起き上がって深く頭を下げてきた。


「は、初めまして! リーンと申します! 誠心誠意お仕えいたします! よろしくお願い致します!」

「初めまして、よろしくね」


 使役したあとの行動や、はっきりと喋っている点からみても、彼女も確実に自由意思持ちだろう。

 三人中ふたりも自由意思持ちだ。

 赤髪の少年は何がだめだったのだろう?

 灰になってしまった少年を少しだけ視界に収めて考えてみるが、違いがわからない。

 わからないのならば今考えても仕方ないので、リーンに視線を戻す。


「……それにしても、リーンも自由意思持ちかぁ。ふたりねぇ……」


 外の世界の情報はリウルひとりでも十分だろう。

 だが、できれば自由意思持ちは使役しておきたい。

 ルトたちを見ていればわかるように、自由意思持ちはかなり使える。

 戦闘能力はもちろんだが、ルトの有能さはそれだけにとどまらない。

 ディエゴもポチも戦闘以外でも、十分に役に立っている、と思う。

 そう考えると、リウルとリーンのふたりは戦闘以外でも役に立つ可能性がある。

 というか、ルト以外に人型の下僕がいないのだから、ふたりが役に立つ場面はそれなりにありそうだ。

 ……オレの身の回りの世話とか、料理ができるならやってもらうのもいいかもしれない。


「あ、そうだ! 魔石の処理! よし、確保決定! ふたりともよろしくね!」

「は、はい! よろしくお願い致します! ソラ様!」

「よろしくお願いします! 主様!」


 ビクビクしていたリーンが、オレの言葉にさらにビクッと反応していたが、すぐに頭を下げてきた。

 もちろん、リウルもだ。

 しかし、リウルは「主様」で、リーンは「名前に様」呼びなんだな。

 呼び方なんて好きにしたらいいから問題ない。

 でも、ルトたちはなんてオレのこと呼んでるんだろう。ちょっとだけ気になる。

 まあ、喋れないからわからないけど。


 そのあと、一応リーンもルト相手に模擬戦をしてもらったが、やっぱり瞬殺だった。

 獲物が弓だから少し離れて開始させたのだが、ルトは骨だから隙間が多い。

 避けることすらせず、骨の隙間を矢が貫通し、リーンの顎を魔式トンファー雷で撃ち抜いて終わりだった。

 ……ルトも容赦ないよね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、今回のメインだね」


 顎を撃ち抜かれて完全にダウンしてしまったリーンは、リウルに介抱を任せた。

 そのうち起きるだろうし、今はメインの使役をやろう。

 今回の一番の目標だったわけだしね。

 あれだけの強さの魔物だ。気合も違う。


 ルトが運んできた巨大な梟は、森の死神の名に相応しい威容だ。

 翼長三メートルという、ただでさえ巨体なのに、森の死神なんて恐ろしい名前もついている。

 戦力アップは間違いないし、初の飛行系だ。

 迷宮の形状にもよるだろうが、広いところなら偵察役として非常に役に立ってくれそう。

 そうでなくても魔法攻撃は折り紙つきの威力だしね。


 では、さっそく!


 気合を入れて下級下僕使役を行使すると、どのくらい大きいのか確認のために広げておいた翼を畳み、器用に起き上がる梟。

 ただ、つぶらな瞳は虚ろに見える。

 人間と違って、何か喋るわけでもないので、確定というわけではないが……。

「えー……自由意思なしかな?」


 側にいたルトをちらっと見ながら言ってみたが、頭骨を縦に揺らしていたので自由意思はないのだろう。

 ちょっと残念ではあるが、ディエゴがいるので戦闘は問題ない。

 ちなみに、命令には優先順位があり、オレが最上位なのは当然としてその下に自由意思持ちがおり、最下位が自由意思を持っていない下僕となる。

 つまり、自由意思持ちは自由意思を持っていない下僕に命令ができるのだ。

 実は、切り株お化け部隊はディエゴが命令をしており、狼にはポチが命令をしていたっぽい。

 まあ、状況に応じて狼にはルトも命令していたみたいだけど。


 下級下僕使役がLv2になったその恩恵で、下僕たちの感情がちょっとだけ伝わってくるようになったからわかったことだけどね。



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